2012年3月2日金曜日

籾播きの手伝い—無農薬育苗と物質循環

昨日と今日(3/1と3/2)、お世話になっている農家(2組)の籾播きのお手伝いに行った。手伝いといっても、むしろこちらが勉強させてもらうというものであって、研修みたいなものである。私は、今のところ水稲を商品作物として作っていくつもりはないが、やはり勉強しておくに越したことはない。

籾播き(モミマキ。種まき、播種などいろいろな名前で呼ばれる)は、田植えに使う稲の苗を準備する作業である。工程は以下の通り。

(1)種籾を予め水に浸し、発芽を促しておく。(なお、このあたりでは富山県から籾を仕入れている農家が多いらしい。温度差があるために発芽がいいということだ。)
(2)田植機にセットするケース「苗箱」(30 cm × 60 cm)に土を入れる(床土という)。
(3)床土を入れた苗箱に種籾を播き、さらにその上に土(覆土という)及び水をかける。
(4)それをビニールハウスにきっちりと並べ(これが力仕事…)、ラブシートと呼ばれる不織布+ビニールシートを掛ける。これは遮光及び保温のため。

上記の工程のうち、今回は2組とも(2)及び (3)の工程は機械化されている。ただし、それぞれの農家で機械化に対する考え方は違う。準備する苗箱の数の違いもあるが、一方は4人で、一方は9人での作業だった。それは、主に(2)及び(3)の機械化の度合いの違いで必要人員が違ったのであった。

大まかに違いを言えば、ベルトコンベアー式に流れる機械(これは基本的に2組同じ)の相手をする人員の差であって、例えば、土が均一にかかっているかチェック・仕上げをする係の有無であったり、土の補給方法を人力でやるか、機械でやるかの違いだったりする。

どちらの方法が効率的であるかということは、一概には言えない。人員を集められるかどうか、機械を揃えられるかどうかは、単純に投入資本によるのではなく、農家の置かれた状況にもよる。機械を購入したとして、一年に一度しか使わない機械の保管費用も農家によって違うだろう。それに、籾播きを近隣の方々に手伝ってもらいながら、いわばイベント的・年中行事的にやる、というのも、それはそれで別の意味があるような気がする。

しかし、今回2組の籾播きを体験して、明らかに違っていることがあった。それは、農薬の有無である。一方では、無農薬で苗箱を作っていた。一方では、農薬を入れていた。この違いは何に起因するのかというと、使っている土である。無農薬の方は、高温殺菌されて作られた土を使っていたのである(これは、自家製ではなくて他県の業者から仕入れたもの)。

農薬を使わないからいいとか、使うからダメということはない。何が正しい手法かということは、目的とする生産物がどのようなものかということで決まる。無農薬のお米を作ろうと思ったら当然無農薬で育苗しなくてはならないが、そうでない場合、基準を守って農薬を使うのは、(少なくとも農家個人のレベルでは)何ら悪いことではない。

私が感じたのは、無農薬栽培を実現するために、他県から土を仕入れなければならないのは大変だなあ、ということだった。無農薬栽培というと、「地域の環境を生かして…」とつい無意識に思ってしまうのであるが、実際には、無農薬栽培には非常に難しい部分もあるために地域の中だけで物質循環を完結させられないことも多いのである。

私も、もちろん、有機・無農薬栽培というものに関心がある。しかしそれ以上に、物質循環というものに強い関心がある。物質循環についてはまたいずれ書きたいが、無農薬栽培をするために他県から土を仕入れる、ということは、全ての農家ができることではないし、また、すべきでもない。やはり、全体としては、土は地域本来のものを営々と育てていくべきものであって、そのために山や川が物質循環を担っているのである。

私は、無農薬栽培のために高温殺菌された土を使うというのは大変すばらしい工夫だと思ったし、苗箱に使う土は全体からすればごく少量なので、物質循環云々の問題は惹起しないのであるが、改めて、無農薬栽培の難しさを思い知らされた次第である。

【補足】
写真は工程(4)の並べた苗箱の様子。苗箱を重ねた際に下側の模様が土に写っており、こうして並べるとなかなかにきれいである。

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