2012年3月1日木曜日

林業と農業のコスト意識の差

先日、「林業就業支援講習」に参加したのだが、研修を受ける中で林業に携わっている方々の話を聞くことができた。そこで、林業と農業のコスト意識の差について感じるところがあったので、少しメモしておこうと思う。

さて、業種にもよるだろうがサラリーマンをしていると、プロジェクトの損益分岐とか、部署毎の利益率とかには敏感になるのだが、作業単位でコストを意識することは少ない。ましてや公務員に至っては、作業単位でのコストパフォーマンスを考えることなど皆無に等しく、バイトにでもできる雑務を(人手がないために)キャリア官僚がやっていたり、逆に高級取りの幹部が閑職にいたりして、コストを意識した経営がされているとは言い難い。

では、第一次産業ではどうだろうか? 意外かも知れないが、一般には、農林水産業に従事されている方のコスト意識は、普通のサラリーマンよりも高い。もちろん、趣味的に農業をしている方などはこの限りではないが、専業でやっている方のコスト意識は総じて高い。

なぜなら、第一次産業従事者の多く、特に専業農家のほとんどは独立経営者だからである。何か資本を投入する時は、自らの身銭を切らなくてはならない。「会社の経費」などないのだ。

一方で、ほとんどの林業作業員は経営者ではない。「一人親方」といって、個人で仕事を請け負っている方もいるが、多くは森林組合などに雇用されている存在だ。しかし、彼らのコスト意識は、専業農家よりも敏感である。なぜなら、ほとんどの森林組合では、歩合制や能力給を採用しており、作業の成果に応じて給金が支払われることが一般的だからである。

これは、林業の特殊性による。それは、作業の成果が非常にわかりやすいということだ。何本伐倒したか、何本集材したか、何本植樹したか。全て明確に分かる(本当は、何本という単位では成果を測らない。立方メートルに換算する)。成果に応じて給金されるから、その作業に投入した資本(時間・機械・燃料)が適当だったかどうだったかも明確である。ゆえに、林業作業員のコスト意識は非常に高いのである。

では、専業農家ではどうだろうか? 成果が非常にわかりやすいのは同様である。売り上げがいくらかは明確だし、投入した資本(時間・肥料・設備・機械・燃料)もある程度明確である。しかし、農業におけるコスト意識は、林業におけるそれほどは徹底されてはいない。

それは、農業では、天候という予測不可能要素があるためである。投入した資本の量は同じでも、天候次第で豊作にもなれば不作にもなる。また、農作物は木材に比べ価格変動が大きく、同じ収穫量でも市場の相場によって売り上げが大きく異なる場合もある。だから、細かいコスト計算をしてもあまり意味がない。つまり、農業はある意味では、バクチなのだ。

コストを少し削っても、結局天候や市場の相場に大きく影響されるなら、多少の(例えば1%の)コスト削減にあまり意味はない。それよりも、高付加価値の作物を作ったり、高性能機械を導入して作付面積を広げたりする方が、利益率を高めることになる。

しかし、今後の農業のメインストリームは、企業経営的になっていくと思われる。その時に、農作業のコスト意識はどう変わっていくのだろうか。

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