2023年3月19日日曜日

公立高校の合格発表からのスケジュールがキツキツな問題について

鹿児島では、3月16日に公立高校の合否発表があった。うちでは受験生はいないが、これに関してちょっと思うことがあるので書いておきたい。

さて、鹿児島県での公立高校の合格発表がどのように行われるか知らない人向けに、最初に流れを書いておく。

1.公立高校の合格発表の前日に中学校の卒業式がある。
2.発表当日、受験生とその親(保護者)は自宅で待機する。不合格の場合、中学校の先生から午前中に電話で連絡がある。(合格の場合は電話はない)
3.不合格の場合、その日のうちに三者面談が行われて今後どうするか決める(私立高校に2校受かっている場合はどちらに行くか決めるなど。場合によっては浪人する)。
4.合格の場合、保護者とともに後日(通常翌日)行われる入学説明会に出て手続きを行う。

私はこの合格発表とその後の手続きの流れは、とにかく時間の余裕がなさ過ぎてよくないと思う。

ハッキリ言えば、「1週間、合格発表の日程を前倒しすることもできるでしょ!」と思う(卒業式も1週間早めたらよい。この時期の授業はどうせ形ばかりのもののことが多いし)。公立高校入試の日程に先んじて私立高校の入試が順次行われるので、単に1週間ずらすのは難しいかもしれない。それでも入試日程全体を1週間前倒しにするのは不可能ではないだろう。

なぜ1週間前倒しした方がいいかというと、合格発表から入学までの準備期間が少なく、手続きがすごく忙しいのである。例えば、公立高校合格の場合、普通は発表翌日に入学説明会があり、その日の午後に制服の採寸が行われる。鹿児島市内の高校の場合は山形屋などが会場になり何日間かかけて採寸する。これ自体慌ただしいが、制服を納品する方はもっと慌ただしいと思う。見込で製造しているだろうから、採寸してイチから造るわけではないと思うがそれにしても入学式前に間に合わせるのは綱渡り的だと思う。

それはともかく、逆に公立高校が不合格だった場合は、私立高校への入学金の振込があり、やはり入学説明会出席、制服採寸…となる。入学式までの短い間に手続きが詰め込まれているのだ。合格発表の翌日に入学説明会を行うという強行日程になっているのも、とにかく大急ぎであらゆる手続きをする必要があるためだ。

それでも、まだ親が専業主婦・主夫などで時間の融通がきく場合はいい。しかし共働きの場合は、少なくとも合格発表の日と、入学説明会の日の2日は保護者が休みを取る必要がある(卒業式も含めれば3日になる)。これは鹿児島では必要な休みとみなされているため、この休みに難色を示す職場は少ないと思われるが、それでも近接して2、3日休みを取るのは気が引ける。

さらに大変なのは保護者も人事異動で引っ越す場合である(単身赴任などで)。特に県職員(教職員含む)の場合は人事異動の告示が合格発表の数日後となっている。こうなると、子どもの入学手続き一切をしつつ、引っ越しの手配と準備に追われることになる。スケジュール帳は毎日To Doで埋め尽くされ、一つでも用事がバッティングすると調整が大変だ。

もし、合格発表の日程が1週間早まって、諸手続に数日間の余裕ができれば、保護者の負担はかなり軽減されはずだ。しかもそれは多くの県立高校にとってそれほど困難なことではない。特に鹿児島市以外の高校の場合、受験者数があまり多くないから、実際の採点は数日で終わっている(らしい)。入試の日程をずらさなくても、合格発表の日を前倒しにするのは容易なことだ。

では、なぜその容易なことができないのか。一番大きい理由は、これが人生で何度もあることではないから、保護者からの「日程がきつすぎる!」との声があんまり大きくないためだ。でもそれにしても、こういうキツキツの日程で苦労している人は結構多いのだ。そして学校側も、そういう事情は十分に理解していると思われる。なぜなら、高校の教職員にもわが子の高校入試を経験している人は多いからだ。

それなのに、こういう無理なスケジュールがいつまでもまかり通っているのは何故か。

結局のところ、それは県教育委員会(事務局)に人の心がないからだ、と私は思う。人の心があれば、「こういうスケジュールを組んだら苦労する人がいるだろうな」と思うだろうし、そう思えば少しでも楽できるように工夫するだろう。合格発表の日程だけでなく、教職員の人事異動も次年度の直前まで勤務地が明らかにされないことは多い。それどころか非常勤の場合は新年度3日前まで雇用が継続されるのか自体が不確定だったりする。こういうのも人の心があれば到底できないことだろう。

「人の心がない」なんて大げさな言い方かもしれない。だが少なくとも、現状のやり方を見る限り、県教委は、末端の人々の負担については気にも留めていないことは確かだ。気安く仕事を休めるような人、時間の自由がきくような人には別に問題なくても、休みが自由にとれない人、やるべきことで追われているような人にとって、合格発表の日程はほとんど「試練」なのだ。こういう弱い立場の人々に寄り添わないで、何が教育行政か、と思う。

鹿児島県の教育行政の筆頭に掲げられているのが、「お互いの人格を尊重し、豊かな心と健やかな体を育む教育の推進」である。であれば、合格発表からの手続きで忙殺される人の人格も尊重してしかるべきだ。

もちろん、教育行政には早急に取り組むべきもっと重要な課題は多い。しかしこういうところを変えようとする姿勢を見せることそのものが、未だに遅れた社会の仕組みが温存されている鹿児島に生きる若者に対する、最良の教育になるのではないかと思っている。

2023年3月17日金曜日

パブコメは事実上黙殺。鹿児島県公文書管理条例の最大の問題は…

今度の鹿児島県議会で「鹿児島県公文書管理条例」が制定された。

このブログでは昨年10月、この条例の骨子案のパブリックコメント(パブコメ)が行われたときに記事を書いた。

【参考】「鹿児島県公文書等管理条例(仮称)」に熱意はあるのか?(意見募集中)
https://inakaseikatsu.blogspot.com/2022/10/blog-post_27.html

この記事では、この骨子案に「公文書館」の設置が含まれていないこと、「県民に対して政策形成過程のより一層の透明化を図る」ことを条例制定の趣旨としているにもかかわらず骨子案の政策形成過程が一切説明されていないこと、これまでの公文書管理に対する課題や反省が見られないことなどを指摘した。

この骨子案は素人の私が問題を感じるくらいだったので、専門家から見ると不足な点が多かったらしく、このパブコメには複数の専門家から厳しい意見が寄せられた。

なんでそんなことを知っているのかというと、私がいつもお世話になっている九大名誉教授の折田悦郎先生(川辺在住)が、本件について積極的に情報収集していて、折田先生の知る範囲での専門家の意見提出状況について教えてくださったのである。

ともかく、私が言っているだけではなく、この骨子案は専門家から見て不十分なものだったのは間違いない。では、この度の県議会に提出された「鹿児島県公文書管理条例」には、パブコメの意見がどのように反映されているのか?

【参考】鹿児島県公文書管理条例(鹿児島県公文書等の管理に関する条例)
https://www.pref.kagoshima.jp/ha01/gikai/teireikai/tyokkinn/r5_1kai/documents/104285_20230215113503-1.pdf

条例案を見たところ、少なくとも私の出した意見は反映されていない。そして専門家から提出された意見も、ほとんど容れられていないことは確実だ。なぜなら内容が基本的に骨子案から変更されていないからである。

はっきり言って、これではパブコメは黙殺されたに等しい。私の知る限り、専門家から出た意見は、至極まっとうで拒否する理由を考えるのが難しいようなものばかりだ。にも拘わらず県はそれをほとんど採用しなかった。なぜか。それはあのパブコメが形ばかりのもので、最初から県民の意見を聞く気はなかったからだろう。

そして、パブコメの結果を公表しないままに今回の県議会へ条例案を提出したのが一番失望した点である。本来なら、パブコメの結果をもって県議会への条例案提出に至るはずだ。県議としても、どのような意見が寄せられたかを知ることは審議にあたって重要な情報のはずである。ところが、パブコメで寄せられた意見が黙殺されただけでなく、それが県議会での審議にも生かされないまま、採決が行われてしまった。これでは何のためのパブコメだったのかと思わざるを得ない。

とはいえ、県としては次のような言い訳があるかもしれない。鹿児島県のパブリック・コメント制度では、「提出された意見の概要、提出された意見に対する県の考え方」を「計画等の決定後」に公表する、となっているのだから、条例が公布されてからパブコメ結果を公表するのが当然なのだ、と。

【参考】鹿児島県パブリック・コメント制度の概要
https://www.pref.kagoshima.jp/ab02/kohokocho/public/gaiyo/gaiyouindex.html

しかしそれは、パブコメにかけたものを議会に提出することを想定していない規定であり、その本質は「パブコメの結果を公表し、意見を不採用とした場合はその理由を説明すること」だと思う。本来なら県議会に条例案を提出するにあたって、「提出された意見の概要、提出された意見に対する県の考え方」が公表されることが至当だろう。

それはともかく、県が公文書管理条例に対するパブコメ結果を軽視したことだけは間違いない。パブコメで寄せられた意見を仮に全く受け入れなかったとしても、「これこれこういうわけでご意見は採用できませんでした」という説明が公表され、その上で県議会に条例案が提出されればずいぶんと印象は違ったと思う。それだったら、少なくともちゃんと言葉のキャッチボールが成立しているからだ。

今回はそういうやり取り自体が成立しなかった。これは意見が通らなかった以前の問題だ。鹿児島県は、「県民に対して政策形成過程のより一層の透明化を図る」つもりは本当にあるのだろうか。

そもそも、この条例の制定目的は第1条にこう書いてある。「(前略)県の有するその諸活動を現在及び将来の県民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。」だそうだ。だが、パブコメで提出された意見への対応すらマトモに説明しようともしないのに、将来の県民に説明する気があるようにはとても思えない。

私はパブコメの際には、この条例案の最大の問題は「公文書館」の設置が規定されていないことだと認識していた。しかし今は、「県民に対して政策形成過程のより一層の透明化を図る」とか「現在及び将来の県民に説明する責務が全うされるように」とか言葉では謳いながら、それをちっともやる気のない人が制定していることが最大の問題だと思えてならない。

鹿児島県庁には、県民との意思疎通を図りながら政策形成を行うという当然のことが行われる場所になってもらいたい。

【参考】徹底解説!公文書管理条例の意義と課題は?|NHK 鹿児島 WEB NEWS
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kagoshima/20230316/5050022348.html