2023年6月16日金曜日

川内原発20年延長の県民投票は、やるやらないをちゃんと検討すべき

現在、市民団体が川内原発の運転期間延長についての県民投票の実施を求めた署名活動をしている。

【参考】川内原発20年延長を問う県民投票の会
https://sendai20tohyo.com/

この署名活動が行われる経緯において、キーになっているのが塩田知事が2020年の知事選で掲げたマニフェストの一節。塩田知事はマニフェストに「1号機・2号機の20年延長については、必要に応じて県民の意向を把握するため、県民投票を実施します。」と書いていたのである。

【参考】塩田知事のマニフェスト
http://www.pref.kagoshima.jp/chiji/manifest2/index.html

川内原発にもともと明確な耐用年数はなかったが、東日本大震災後に法律が定められて40年ということに決まっていた。しかし技術的な点検を行い、規制委員会の認可を受ければ、さらに20年運転を延長できるように法律が変わった(つい先日、運転停止期間の除外ができるという法律の改定があり、20年より長く延長できるようになった)。

この点検は設置者である九電が行うのだが、県としてはこの点検(とその評価)が適正なものか検証するため、鹿児島県原子力安全・避難計画等防災専門委員会に「科学的・技術的な検証」を依頼し、先日その結果が報告されたところである。

その報告書は、私も内容をちゃんと読んでいないが「留意すべき点はあるが、おおむね適正」というものだそうである。委員会(正確にはその下に設置された分科会)の議事内容は公開されているので私もちょっと見たのだが、非常に専門的なことばかりで、素人にはほぼ理解不可能である。ただ、議事録を読んでの雰囲気だけでいうと、意外と「お手盛り委員会」ではなく、結構真面目に議論・検証したように見える。

そしてこの報告書に基づいて、県は原子力規制員会と九電に要請書を提出することとしており、その要請書案について、昨日、県が意見募集を開始した(6月15~7月14日)。

【参考】川内原子力発電所に関する要請書(案)に対する意見を募集しています
https://www.pref.kagoshima.jp/ac06/youse-ikenboshu.html

一方、マニフェストに掲げていた川内原発の運転延長の県民投票について、塩田知事は5月26日に先ほどの報告書を受け取った際、報道陣の取材に答える形で行わない方針を示し、「おおむね委員会の意見は集約されたと考えている。県民投票で○×を聞くよりは、県民の意見を具体的にしっかり聞いた方がいい」と説明した。

【参考】川内原発の運転延長「県民投票は実施せず」 鹿児島県知事が表明、意見募集へ 専門委から最終報告書、6月に住民説明会|南日本新聞
https://373news.com/_news/storyid/175797/

塩田知事は県民投票に関して「専門委の意見が集約されない場合に県民の意向を把握する手段として、最も適切と判断した場合に実施する」との見解を示しており、「専門委の意見がおおむね集約されたから県民投票は不要」と判断したわけだ。

しかし、私はこの説明には大きな違和感を抱く。

というのは、専門委は、川内原発1号機・2号機を延長するのが適当かどうかという判断をするのではなくて、九電の点検・評価が適正かどうか「科学的・技術的検証」を行うのが役割なのだ。もし、専門委の意見が集約されないということがあったら、それは九電の点検・評価が適正でないということなのだから、そんな状態で県民の意向を聞く必要はなく、運転延長不可なのが当然だと思う。

つまり、県民投票は「専門委の意見が集約されない場合に(中略)実施する」という知事の見解自体がナンセンスなものだったのだ。技術的な検証(専門委の意見)と、県民の意向は直結するものではないのに、あたかもそれを直結するもののように説明したのは詭弁だ。

とはいえ、「県民投票で○×を聞くよりは、県民の意見を具体的にしっかり聞いた方がいい」という説明はわからなくもない。実際、私も、川内原発を延長すべきか〇×で聞くのがいいのかどうか、正直よくわからない。今の経済状況や、薩摩川内市の在り方を考えると、〇×で県民投票したら運転延長反対が多数派になるかどうか不明だ。逆に原発推進のお墨付きを与える結果になるような気さえする。

だが賛成派ですらも、「鹿児島に原発があるのは賛成だけど…」と「だけど…」が続くこともまた多いのではないか。この「だけど…」以下を聞くというのが、「県民の意見を具体的にしっかり聞く」ということだと私は思う。

しかるに、今回の意見募集の対象である要望書は、先ほど述べたような極めて専門性の高い事項の検証に基づいており、科学的・技術的観点のみでまとめられたものであるので、とてもじゃないが、この「だけど…」以下を聞くようなものではない。

これに対して、「原発反対! だけでも意見を出したらいい」という人もいるが、そういうわかりやすい主張の人はともかくとして、「だけど…」タイプの人にはちょっと難しい。私もその一人である。

少なくとも、この要望書への意見募集は「県民の意見を具体的にしっかり聞く」とはほど遠いものであるのは衆目の一致するところであろう。ふざけるなと言いたい。

ところで、先だっての県議会で、「鹿児島県公文書管理条例」が制定された。これは、保存期間が過ぎた公文書の処理について定めるのが主な目的であるが、その第4条はこうなっている。

第4条 実施機関の職員は,第1条の目的の達成に資するため,当該実施機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該実施機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう,処理に係る事案が軽微なものである場合を除き,文書を作成しなければならない。

これによると、行政機関は「意志決定の過程」を「検証することができるよう」「文書を作成しなければならない」とされている。では今回の「県民投票見送り」については、どうだろうか。県民投票は、知事自らがマニフェストに記載していたことであり、またこれを求めて署名活動が行われているくらいなので、「処理に係る事案が軽微なもの」とは到底見なせない。

先ほども述べたように、私は原発について○×で県民投票を行うべきとまでは思わないが、こういう重要な意志決定が一枚の文書も作成されることなく、「知事としての総合的な判断」ような形でなされるとしたら非常に問題だと思う。

そういえば、NHKの報道によれば、馬毛島への基地容認においても文書が作成されずに知事が総合的に判断したそうだが、こんな重要な件を口頭のみで決定するとは、行政の文書主義に反する。窓口ではバカみたいに文書を求めるくせに…。

【参考】徹底解説!公文書管理条例の意義と課題|NHK かごしまWEB特集
https://www.nhk.or.jp/kagoshima/lreport/article/001/98/
(抜粋)「県によりますと、この考えの表明までに、知事と担当部署の職員が複数回打ち合わせをして意思決定をしたとしていますが、この打ち合わせで知事や各職員がどういう発言や議論をしたかを記録した公文書が作られていないことがNHKの取材でわかりました。」

というよりも、これについては、むしろ重要な件だからこそ文書を敢えて作らなかったのではないか、とすら疑ってしまう。馬毛島への基地建設については、歴史的な意義を有する可能性があるが、それを後に振り返った時に知事がどう考えて容認したのか、現状では「合理的に跡付け,又は検証することができる」とはとても思えないのである。(ただしこれは条例制定前の件である。)

とはいえ、これまで県政に対し批判的に書いてきたが、私自身は塩田知事を好意的に見ており、最近の歴代知事に比べたら、相当「話が通じる」と思っている(上から目線の評価ですみません)。

ドルフィンポート跡問題では「塩田知事がこれがやりたいというものが見えない」「知事の熱意が感じられない」という人もいるが、下からの意見を重視し、私心を交えずに判断していると見た方がよいのではないか。これまでの知事が「俺が決める」という人だったので物足りない人はいるだろうが、自分のやりたいことよりも、ボトムアップの手続きを重視しているのはよいと思う。

しかしながら、であればこそ、意志決定を丁寧に文書化すべきだし、検討経緯を残さなければならない。県民投票を行うにはどのくらい予算が必要なのか、それに見合った意味のある結果が得られるのか、そんなことを検討して決めたならそれを文書で残し堂々と発表すべきだ。それなら理解できる。逆にそういう検討もせずに、舌先三寸で「県民投票見送り」を決めたのなら、それこそが問題だ。

実は、塩田知事のマニフェストは「進捗・取り組み状況」が公表されている。こういうことをしっかりするのも塩田知事の美点である。

【参考】マニフェストの進捗・取組状況(知事就任後2年間)
http://www.pref.kagoshima.jp/ac11/chiji/manifest2/shinchoku_r04jisseki.html

そしてこれを見てみると、66項目ある中で、「進捗・取組状況等」が空欄なのは、県民投票の項目のみなのだ。これでは、県民投票を真面目に検討したかどうかすら怪しいではないか。

「川内原発20年延長を問う県民投票の会」においては、知事が県民投票を実施しないこととした検討経緯の公文書を情報公開請求してはどうだろうか。どんなことが書いてあるのか、というよりも、そんな公文書がそもそも作成されたのかどうか。見ものである。

↓ マニフェストの進捗・取組状況(知事就任後2年間)より抜粋