2012年10月12日金曜日

増えるイノシシ被害へどう対処するか

最近、若いイノシシが庭に来るようになって困っている。

そこら中に穴を掘るのはまだ許せるとして、裏庭にほぼ毎日糞をしていくのは本当に辞めて欲しい。我が家はすっかりお散歩コースになってしまったようだ。

近隣の農地においても被害は多発しており、電柵を設置している圃場が多い。しかし獣害対策は本質的には駆除が必要であり、個人による対処療法的な方法では限界が見えている。

野生動物と共存できないのか? という意見もあるだろうが、残念ながら現代の日本では駆除は必須だ。というのも、日本の森林の生態系の頂点であったニホンオオカミが絶滅してしまっているからだ。近年全国的にシカ害やイノシシ害が深刻化している一因は、オオカミ不在の影響がジワジワ効いてきたからということが大きい。

捕食動物は生態系のバランスの要石であって、これが不在になると草食動物が野放図に増殖し、森林の若木等も食い尽くしてしまって、農地のみならず自然の植生体系も攪乱される。オオカミを絶滅させてしまった以上、自然のバランスを保つためにはシカやイノシシは人間が責任を持って一定数駆除しなくてはならないのである。

その一方で、銃刀法改正によって猟銃保持は一層難しくなり(※)、猟銃を返納する人が多いと聞く。猟友会は高齢化し、若手のハンターが加入しないため今後の駆除体制が不透明になりつつある。人力での駆除には限界があるということで、日本にもオオカミを再導入してはどうかという議論もあるが、政治的に困難であり、これからも従来型の駆除に頼らざるをえないことを考えるとこの状況は危機的だ。

害獣の駆除問題は全国的に深刻化しているが、一方で新しい動きもある。ジビエを地域振興に役立てようという取り組みだ。フランス料理では、カモや野ウサギ、シカといった狩猟による野生動物の肉をジビエといい、食肉の中でもとりわけ貴重で上等な食材とされる。先日、増えるエゾシカに対処するため北海道が「エゾシカ対策条例(仮)」を検討中というニュースがあったが、その中でもシカ肉の消費拡大を盛り込む予定らしい。

私は、南さつま市も、僻地にあるという条件を活かして、シシ肉による地域振興に取り組んだらいいと思う。当地には、お隣の南九州市の川辺牛のようなブランド肉もないので、役所的にも推進しやすいだろう。役所が窓口になりイノシシを買い取り、食肉加工を民間に委託して商品開発を行ってはどうか。幸いなことに、当市には食肉加工企業であるスターゼンの工場もある。ここと協力できれば独自性が出せるし、猪鍋や焼き肉といった無骨な料理が中心のイノシシも、ハムやパストラミにすると新しい美味しさが発見できるかもしれない。

最初は官製の取り組みであっても、世間の耳目を集めて消費が拡大すればイノシシの価格が上昇し、狩猟の規模拡大が期待できる。単に駆除ではなく、その肉を食べるのであれば駆除に対する心理的抵抗感も少ない。当地大浦町は、かつて島津氏の鷹狩りの猟場であったとされ、狩集(かりあつまり)という地名・人名も残るなど歴史との関連で話題性も期待できる。獣害対策一つにしても、いろいろな手法やアイデアを組み合わせて、解決策を探っていく必要があると思う。


※ 銃刀法改正…猟銃の所持のために、医師の診断書、技能講習の受講、実弾の帳簿付けなどが義務化された。猟銃の所持がものすごく面倒くさくなった感じ。2009年施行。

2012年10月11日木曜日

自家製ブルーベリーのタルト

先日、家内がブルーベリータルトを作ってくれた。

これがとても美味い。特に台となるクッキー様の生地が美味しく、ここに限って言えばケーキ屋さんなどで売っているものを越えていると思う。サクッとした食感は時間と共に失われていくから、作りたてが美味しいのは当然だが、それにしても美味しい。

ブルーベリーは、家庭菜園で採れたものと知人からもらったものを使ったのだが、味は市販されているものと遜色がない。ブルーベリーは熟しているかどうかの判断が意外に面倒で、若干熟していない実も入っていたと思うが、一粒ずつ食べるような果物ではないのであまり気にしなくてもいいのかもしれない。

ブルーベリーは寒冷地の果物と思われているが、暖地向けの品種もあって沖縄以外の日本全土で栽培可能である。健康によいということで注目を集めたためか、2000年頃から日本での生産量は急激に拡大しており、この10年間で生産量は2倍以上になった。ブルーベリーは背が高くならず管理が簡単なこと、無農薬栽培が容易であることから女性や高齢者にも栽培が可能であり、遊休地の活用作物としても有望視されている。反収も高い。

逆に作物としての難点は、順々に実が熟していくため収穫作業を何度もしなくてはならないことと、鳥に食べられやすいことである。そして最大の難点は、近年生産が急拡大しているとは言っても生産量がまだ少ないため流通が未熟であり、卸先が普通はないことだ。また、生食もされるがケーキのトッピングなどとして使われることが多く、単体で生の果実を食べることが少ないため、一般消費者が未加工のブルーベリーを購入することは稀だ。

そのため、ブルーベリーの栽培はジャムなどの加工とセットで行われる必要があり、それが作物生産としての限界を定めている面がある。しかし逆に言えば、加工所と組み合わされれば非常に有望な作物と言える。というのも、ブルーベリーは冷凍に強く、冷凍しても品質があまり劣化しないので通年加工が可能になるからだ。

事実、このタルトに使ったブルーベリーも冷凍したものを使っていて、初夏の味覚であるブルーベリーを、初秋の今タルトにして食べられるのもこの性質のおかげだ。実は、暖地のブルーベリーは味がイマイチなのではないかという危惧があったがそれは杞憂だったようなので、加工所との組み合わせができそうならブルーベリーの栽培もやってみたいと思っている。

2012年10月9日火曜日

地域審議会に初参加

大浦地域審議会なるものの委員になり、本日会議が開かれた。

私も出席するまでその位置づけを正確に理解していなかったが、これは、市町村合併に伴って地域の実情が役所へ伝えづらくなることから、合併後10年間はまちづくり計画等に関して旧自治体ごとに意見を聞きましょう、ということらしい。

本日の内容は、今年度の市政推進状況に関して市役所から説明があり、それをマクラにして委員から意見を述べるという形だった。最初はあまり積極的な発言はなかったが、こういう委員会の常として後半になって発言が相次ぎ、最後は時間切れのような形になったため、残念ながら私自身は発言することができなかった。

市政全体に関することでいろいろ発言したいことはあったが、この会議は大浦地域の実情や要望を聞くことが目的だと思うので、次回か、別の機会に改めて発言したいと思う。発言はできなかったが、いろいろな話を聞けて勉強になり、このような機会をいただいたことに感謝したい。

ちなみに、市役所から配付されて説明があった「市政推進状況資料」というのは、なかなかよくまとまっていて現在の市政の重点がわかるよい資料だと思った。特に公表して差し支えがある部分があるようにも思えないので、南さつま市のWEBサイトに掲載したらいいと思う。

というより、地域審議会で配布する資料は全て市のWEBサイトで公表したらいい。もっというと、地域審議会だけでなく、市民が参加するあらゆる検討会や審議会の資料は、公表するべきだと思う。

国政では、既に審議会等の資料は公表することが原則であり、多くの場合は議事録も公開される。国政と市政では影響の大きさが桁違いだから別に議事録などは作成する必要はないと思うが、資料の公表くらいは国政に倣ってもよい。

それから、話が変わるが市からの説明の中で「くじら座礁10周年記念事業」として、大浦ふるさと館のくじらモニュメントの裏手(横?)に座礁したマッコウクジラの骨格を展示する「くじらの眠る丘」という施設を建設するという話があったが、その施設のデザイン案が凄かった。ちらっと見ただけだが、なんと、クジラ型の建物を作る案だったのである。

市役所の方がいろいろ検討した結果としての案なのだろうし、まだ何も公表されていない時点で批判めいたことは言いたくはないが、クジラ型の建物というのは悪趣味だし、そもそも既にクジラのモニュメントがある場所に2頭目のクジラを作るというのは重複感が否めない。特注品的な建物はメンテナンスも面倒だ。これは再考していただきたいというのが率直な感想である。

2012年10月7日日曜日

笠沙美術館——日本一眺めのいい美術館

南さつま市笠沙町のリアス式海岸を走る国道沿いに、「笠沙美術館(黒瀬展望ミュージアム)」がある。

展示品は笠沙町出身の画家 黒瀬道則氏の寄贈作品がほとんどで、その好き嫌いは分かれるところだと思うが、この美術館からの眺望は文句なく素晴らしい

エントランスからパティオに向かうと、東シナ海に浮かぶ沖秋目島(ビロウ島)が望め、それがさながら一幅の絵画のように建物で切り取られる。赤茶けた直線的な建物と、青い空と海が鋭く対比された風景は、むしろ南欧風ですらある。

聞くところでは、もともとこの美術館は展望所として計画されたものであるということで、絶景なのは当然だ。その建物も作品の展示というより、そこから望む風景を主体として設計されているように見える。ちなみに、建物のデザインは「つばめ」や「指宿のたまて箱」など、JR九州の多くの車両をデザインしたことで著名な水戸岡鋭治氏によるものらしい。そのデザインにただ者でないセンスを感じたが、納得である。

笠沙美術館は南さつま市にとって大きな財産だと思うが、来客もまばらであまり利用されていないのは残念だ。黒瀬氏の絵は、ミステリーの表紙になるような絵で面白味はあると思うが、正直なところ、何度も見たくなるようなものではないし、一般受けするものではない。せっかくの素晴らしい美術館が、郷土出身の画家の紹介だけに終わってしまってはもったいない。

そういうことから、私としては、ここをギャラリースペースとして積極的に活用し、多くの人に来てもらえるようにしたらいいと思う。小さなグループの個展などでも家族友人等でそれなりに人が来るので、この風景の素晴らしさを体感してくれれば口コミによる波及効果も期待できる。

ちなみに、今でもそういう利用ができないわけではないが、WEBサイトにも何も書いていないし、そもそも美術館の存在自体が積極的に広報されていない。なお、賃借料はギャラリーのみだと2100円/日で、全体を借りると5250円/日、展望所と駐車場は無料である。せっかくの素晴らしい資源なのだから、前向きに活用してもらいたいものだ。きっとここは、MOA美術館(熱海)や神奈川県立近代美術館(葉山)を越えて、日本一眺めのいい美術館といえるだろうから。

2012年10月5日金曜日

南さつま市定住化促進委員会(その3)

南さつま市定住化促進委員会も第3回である。

今回は、事務局がこれまで出された意見に基づき施策体系案を出してくれた。私が出した「起業家支援」も一応入っていてよかった。ただ、施策をバラバラに並べた感じがして焦点がぼやけているので、これをどんな風にまとめるか? どんなキャッチフレーズで推進するか? という話の流れになった。

そして会議の最後に、委員のI氏から大変いい意見が出た。要約すると、
(1)「あなたの移住トコトン応援!」をキャッチフレーズにし、
(2)役所には「南さつまコンシェルジュ」を置き移住者の種々の相談に対応、
(3)それぞれの分野に知識と人脈を持つ市民による「移住応援団」を作り、移住者の問題解決を支援。
という感じになる。 南さつまの売りは何なのか、という意見が前回にもあったが、これは移住者へのケア体制を充実させること自体を売りにしてはどうかという意見だと思う。補助金など金銭面の支援が中心になると、どうしても同種の補助を行う自治体との価格競争になるが、お金より熱意の支援体制であれば差別化ができる。

「あなたの移住トコトン応援!」、これは大変よいキャッチフレーズと思ったが、一方では、移住してくる人にとって移住はあくまでも手段で、南さつま市でどういう暮らし(仕事、生活、子育て等)をするか、ということが目的だ。

そう考えると、キャッチフレーズはさらに大風呂敷を広げた方がよく、「夢の実現をお手伝いします」くらいの方がいいのではないだろうか。里帰りも含めて、移住してくる人はそれぞれこんな暮らしをしたいという夢があると思う。自然が豊かなところで子育てしたいとか、古民家で暮らしたいとか、家庭菜園付きの家に住みたいとか。また、私が提案した起業家も、こんな店を持ちたいといった夢があるはずだ。移住はその夢を実現するための手段にすぎない。とすれば、夢の実現まで支援をしてみてはどうか。

すなわち、
(1)「南さつま市はあなたの夢の実現をお手伝いします」をキャッチフレーズとし、
(2)役所には「夢実現コンシェルジュ」を置き市民や移住者からの相談に対応、
(3)それぞれの分野に知識と人脈を持つ市民による「夢実現応援団」を作り、市民や移住者の問題解決を支援。
としてはどうか。そしてそれを支えるものとして、起業家支援や生活支援の具体的施策を位置づける。

単に移住を支援している自治体はたくさんあると思うが、そこでの理想の暮らしを実現するための支援をしている自治体などないと思う。「夢実現コンシェルジュ」を置くだけで、NHKが取材に来るレベルだろう。そしてこれは、移住者だけでなく現に今住んでいる人にとっても有意義なものだ。この仕組みがあったら、例えば私なら農産物加工所の開設のノウハウを聞いてみたい。

南さつま市は自然も豊かで、今若者に人気が出始めている一次産業も農林漁業が揃っている。一次産業は実は参入ハードルが高いので、役所が積極的に参入を支援してくれれば、首都圏から若者も移住してくるかもしれない。もちろん、「私の夢はフェラーリに乗ること」みたいな人もいるわけだが、さすがにそんな人は役所に来ないと思うので、「夢というと範囲が広すぎる」という心配は無用と思う。

少なくとも私は、こんな取り組みをしている自治体があったら、そこの住民を羨ましいと思うのだが、どうだろうか。

【参考リンク】
南さつま市定住化促進委員会(第1回)
南さつま市定住化促進委員会(第2回)

2012年10月2日火曜日

最高に美味しい枕崎の紅茶「姫ふうき」

枕崎に「手摘み 姫ふうき」というかなり高価な紅茶がある。

この紅茶はGreat Taste Awardsというイギリスの食品国際コンテストで2009年に日本からの出品として初めて三つ星金賞を取得している。飲んでみると、非常に上品で爽やかであり、芳醇な香りも素晴らしい。特に味や香りに際だった特徴があるというものではなく、全ての面でクオリティが高いという王道の紅茶である。

Great Taste Awardsというのは、1994年開始のどちらかというとイギリスローカルなコンテスト。人口に膾炙しているモンドセレクションは味のコンテストではなくて品質管理の認証だが、こちらは正真正銘の味のコンテストで、Webサイトの説明によると「イギリスの美味しいものをお知らせ」するためにイギリスの食品組合(The Guild of Fine Food)によって行われている。俗に「食のオスカー賞」と呼ばれ、三つ星金賞を5回獲ったら英国王室御用達になると言われるほど権威があるらしい(多分噂だろうが)。

私はアルコールがあまり飲めないので茶、紅茶、コーヒーなどは高価なものを飲んできた方だと思うが、確かにこの紅茶はこれまでで一番美味しいと思った。銀座の紅茶専門店で飲んだものよりも上だ。だが、実は価格も一番高かった。40gで1500円というのはかなり特別な紅茶なのは間違いない(まあ、10杯飲めると思えば一杯あたり150円だが…)。

とはいっても、この高価格には訳があり、有機栽培でしかも手摘みらしい。このため年間生産量は100〜150kgとかなり貴重だ。お茶と言えば機械化が当たり前の時代、手摘みの紅茶を作るなんてかなり異端と思うが、紅茶の本場であるイギリスで三つ星金賞を獲るくらいだから、異端も極めれば王道になるということだろうか。

ところで、日本にはこのGreat Taste Awardsの三つ星金賞を獲った紅茶がもう一つある。それは、知覧にある薩摩英国館の「夢ふうき」である。「夢ふうき」は「姫ふうき」に先立って2007年から金賞を連続受賞していたが、今年9月に発表されたGreat Taste Awards 2012において念願の三つ星金賞を受賞。これは薩摩英国館Webサイトにもまだ出ていない情報で、さっき検索していたら偶然知ったものだ。ちなみにこちらも有機栽培、手摘みである。

「夢ふうき」「姫ふうき」と名前が似ているが、この二つの紅茶は同じ「べにふうき」という品種の紅茶用茶樹から作られている。「べにふうき」は日本紅茶開発史の到達点とも言うべき優れた品種であり、本品種を擁した枕崎は「日本紅茶発祥の地」としてこれを誇っているのであるが、このことについてはまた稿を改めて書きたいと思う。


【長い蛇足】
Great Taste Awardsについて日本語ではちゃんとした(雰囲気が伝わる)紹介がなかったので、備忘のためにここに書いておきたい。

Webサイトや公表された審査風景などを見ると、このコンテストは「権威ある」という言葉から想像されるようなものではなく、もっと気軽な、お祭り気分のものだ。ヨーロッパでは、イギリス料理はまずいものの代表のように思われているが、そういう風潮に対して「イギリスにだってうまいものはあるんだからね!」という主張をするためにやっているようなところがあり、そもそもコンテストの趣旨の一つが「イギリスで一番うまいものを決めよう」なのである。

星ごとの評価も、一つ星「だいたい完璧」、二つ星「欠点なし」、三つ星「わお、これは是非食べるべき!」となっており、随分気楽な表現になっている。

こうした気楽なコンテストであるが、というかだからこそ審査はやたらと気合いが入っており、 一流シェフ、料理研究家などが大勢あつまってガチンコの審査をするわけである。その模様はBBCがレポートしているが、雰囲気としてはかつての「TVチャンピオン」に近い。

結果公表も、イギリスの地域ごとで三つ星を紹介するようなかたちになっており、「お住まいの近くにも美味しいものがあるから是非行ってください!」みたいな感じである。こんなガチンコのうまいもん発掘コンテストだからこそ、基本的にはイギリスローカルにも関わらず各国から食品が出品されているというわけで、海外からの食品は「TVチャンピオン」に譬えるなら「今回はアメリカから刺客が登場!」みたいな感じで扱われることになる。

というわけで、基本的にはイギリスのうまいもんを発掘・認定するためのコンテストにおいて、まさにイギリスのお家芸ともいうべき紅茶部門で日本からの出品が三つ星金賞を獲ったということは驚異的なことだと思う。このあたりのことが、日本のWEBサイトにはどこにも書いておらず、その意味があまり正確に理解されていないようなのは残念なことだ。

2012年9月29日土曜日

地方と首都圏の図書館格差

ある稀少な本をどうしても参照したくなって、国立国会図書館の本を取り寄せた。

あまり知られていないが、図書館間には「相互貸借」という制度があって、図書館同士で本を貸し借りすることができる。この制度を使うと、地元の小さな図書館を窓口にして、(理論的には)全国の図書館の本を借りられるのである。

というわけで、地元の大浦図書館で「国会図書館の本を借りたいんですが…」と気軽に申し込んだら、これがなかなか大変な事態を招いた。国会図書館の本の取り寄せは南さつま市で初めてのことらしく、まず国会図書館から相互貸借の承認を得るところからスタートしなくてはならない。

国会図書館の本は基本的に個人が持ち出すことは出来ないので、館内での閲覧になるのだが、そのためには館内の環境が整備されている必要がある。具体的には、専任職員の監視の目が行き届いていることや、施設設備が要件に合致していることなどが求められる。図書館の方は、それらの要件を満たしていることを証明するため、図書館の図面まで国会図書館に提出したらしい。大変なご迷惑をかけたと思う。

結果として、加世田の中央図書館が相互貸借の承認を受け、私はめでたく資料を閲覧することができた(大浦図書館は常時監視の専任職員がいないのでダメだった)。申し込んでから約3ヶ月もかかったのには正直辟易した部分もあったが、市役所の方々の努力には本当に感謝したい。

ところで、鹿児島の図書館は蔵書、管理、サービス全ての面で貧弱だ。そもそも国会図書館所蔵の本を求めたのも、鹿児島の図書館にあまりに本がないので仕方なくしたことだ。首都圏の図書館が充実しすぎているということもあるかもしれないが、地方と首都圏との図書館格差は非常に大きい。どれくらいの格差があるかというと、鹿児島県立図書館は、首都圏における小さめの区立図書館くらいの規模しかないのである。これは、移住してきて受けた(数少ない)カルチャーショックの一つだ。

田舎の人は都会の人に比べて本を読まないということはあるので、ある程度の格差はしょうがない。都会では長い電車通勤の暇つぶしのために本が消費されている面があるが、車社会の田舎では意識して時間を作らないと読書ができないから本はどうしても縁遠い存在になる。それに、あまり図書館を充実させてしまうと、ただでさえ経営が苦しい地方の零細書店を圧迫する可能性もあるのだろう。そして、いい意味でも悪い意味でも悠久の時間が流れる農村では、本からの知識は役に立たないことも多い。

しかし、やはり本は重要な情報源だと思うし、図書館で読む本とお金を出して買う本は性質が異なると思うので、田舎であっても図書館は充実させるべきだと思う。都市と地方の情報格差を図書館が拡大しているようでは仕方ない。情報の少ない田舎だからこそ、図書館を充実させて新しい情報をどんどん取り入れるべきだ。これには、予算も比較的かからない。

蛇足だが、鹿児島で一番大きな図書館である鹿児島大学の図書館からも、先日ある本を取り寄せた。これも南さつま市で初めてのことだったらしいが、鹿児島大学から郵送料をなんと960円も取られた。郵送料が必要とは事前に聞いていたが、せいぜい300円くらいのものかと思っていた。鹿児島大学図書館は、第一義的には学生のためのものとはいえ、鹿児島県民の最後の砦となる図書館なのだから、もう少し利用しやすくなってもらいたいと思う。