2013年2月27日水曜日

芋焼酎は柑橘の香り

私はあまりお酒が飲めないので焼酎を飲まないが、先日面白い話題を見つけたので紹介する。

本格焼酎というと、水以外の成分はほとんどエタノールで、それ以外の成分は約0.2%しか含まれていない。 そして蒸留酒なので当たり前だが、全ての成分が揮発性のものであり、厳密な意味での(エタノール以外の)味覚成分は含まれていない

では焼酎の味は何かというと、その0.2%の中の香り成分にある。つまり、焼酎の味というのは、科学的には(舌で感じる)味ではなく香りのことなのである。これは蒸留酒一般に言えることであるが、アルコールのテイスティングを生業とする方が、実際に飲むことなく香りだけで判断することがあるのは、理に適ったことなのだ。

さて、その0.2%の成分とは具体的には何かというと、高級アルコール類、脂肪酸エステル類、有機酸、ミネラルなどだが、ここに香りを形作る微量香気成分が含まれる。焼酎の銘柄は数多いが、この0.2%の中の非常に微妙な成分の違いが銘柄の違いになるわけだ。

というわけで、焼酎の「味」を作る微量香気成分だが、例えばネロール、リナロール、α-テルピネオール、シトロネオールといったモノテルペンアルコール類、そしてβ-ダマセノンといった物質らしい。とはいっても、私自身門外漢なのでこれらの物質それぞれについて特性を知っているわけではない。

だが、ネロール等のモノテルペンアルコール類というのは、実は柑橘や花に含まれている物質なのである。柑橘特有の爽やかな香気の成分はこれらなのだが、焼酎の香りのかなりの部分がこれらの香りなのだ。少し大げさに言えば、芋焼酎は柑橘的なお酒であると言えるだろう。ちなみに焼酎の甘さを作っているのはβ-ダマセノンである(これは柑橘系ではない)。

しかしこれらの柑橘的な香気成分、どこから来たのだろうか? サツマ芋は柑橘的な香りがしないし、事実芋にはこれらの香りは含まれていない。これが面白いところだが、実はサツマ芋の中では、モノテルペンアルコール類が配糖体(つまりグルコシドと結合している)の形で存在していて不揮発性なため香りにならないのである。

これらモノテルペン配糖体が醸造の過程で分解され、揮発性のアルコール成分となることによって焼酎の香りが形作られる(※)。ということは、焼酎の香りを「芋の香り」と形容することがあるが、芋そのものの香りが焼酎の香りになるわけではなく、芋に内在していた香りの元が麹菌によって顕在化させられて焼酎の香りになるということだ。

ついでに言うとこれら香気成分はアロマテラピーなどでも使用されるものらしくリラックス効果があると言われる。鹿児島では伝統的に焼酎はお湯割りにするが、香気成分をより揮発させて味を鮮明にし、リラックスするためにそうするのかも知れない。

柑橘類はジンライムに代表されるように蒸留酒との相性がよく、焼酎も(本格焼酎ではなく甲類の方)酎ハイで柑橘系とよくアレンジされるが、元々芋焼酎の香りが柑橘系であったことは驚きである。ただ、芋焼酎で柑橘系のカクテルを作ったら合うのかと思ったら、それぞれの香りがケンカしてなかなかうまく作れないのだそうだ。

※ このことは1990年に太田剛雄によって解明された。割と最近まで焼酎の香りがどこから来るのかわかっていなかったということだ。

【参考】
「芋焼酎原料サツマイモ品種と焼酎の香気成分との関係」2013年、高峯 和則

3 件のコメント:

  1. βダマセノンは薔薇の香気成分らしいです。 (2007年の南日本新聞の南風録より) つまり… バラの香り=芋焼酎の香り。 マリー=アントワネットも驚愕の真実。 と過去の自分の日記にありました。思い出してつい読み返しました(^^) 柑橘の香りもするんですね。芋の種類や仕込み方法でどの成分が強く出るかで変わるんでしょうか。私の鼻ではバラも柑橘も嗅ぎ分けられません(涙)

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    1. sawachobiさん

      コメントありがとうございます。よくご存じですね。記事には書きませんでしたが、β-ダマセノンの他にもゲラニオール、ローズオキサイドという物質も焼酎には入っていて、これらはバラの香りなんです。焼酎って、(成分的には)柑橘とバラの香りなんですよ。こう書くとなんだかすごい飲みものみたいですね(笑)
      ちなみに、ゲラニオールは柑橘とバラ共通に含まれている物質でもあります。

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  2. へぇえー!芋焼酎飲んだ人の息は大概「クッサー!」と表現されるのがおかしいくらいイイ匂いがしそうですね…。次に焼酎の香りを嗅ぐときは柑橘とバラを探してみます。

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