鹿児島では(なぜか)おせちにキンカンの甘煮を食べるのだが、今年は庭のキンカンが全てヒヨドリに食べられてしまったので食べることが出来なかった。
ところで、全国的にはキンカンはかなりマイナーな果物で生産量は年4000トン弱しかない。以前ビワのことを「全国的には希少」と書いたが、キンカンはビワよりもさらに生産量が少ないのである。多分、関東以北の人はキンカンを食べたことがないという人も多いのではないかと思う。
このキンカン、進化的に面白い存在で、どうしてこんな植物が産まれたのか気になる。
まず系統的な位置づけとして、キンカンはカンキツだと思っている人が多いが、実はカンキツ属ではなく、カンキツ属から進化した別のグループ(キンカン属)である。ミカン科において最も後発に進化してできたのがキンカン属であり、多種多様な種を擁するミカン科において、その進化の最終形態がキンカンと言える。
カンキツとの一番の違いは果肉ではなく果皮が甘いことで、これがとても不思議である。というのも、昔のキンカンは果肉が酸っぱかったり苦かったりしたが、そうなると鳥などに果肉を食べてもらえず、種子を遠くに運んでもらえないような気がする。どういう訳で皮が甘くなる進化が起こったのだろう。
だがこれは人間にとっては有り難い。というのも、ミカン類は皮にも栄養が豊富で、むしろ香り成分や食物繊維は皮の方に含まれているからだ。ミカンの皮を乾燥させたものは陳皮(ちんぴ)という漢方薬になるし、マーマレードに皮を入れるのも食物繊維(ペクチン)を補給するためだ。
そして当然のことだが、果物は丸ごと食べる方が栄養バランスがよく、キンカンのように皮ごと食べるのが栄養学的には最適だ。キンカンが風邪の予防になるとか咳を和らげるとかいうのも、ここが大きく影響しているに違いない。
もう一つ不思議なのは、キンカンはカンキツ属からむしろ単純化する方向で進化していることである。カンキツとキンカンは基本的な構造は似ているが、仕組みがシンプルになっている。例えば、カンキツは新梢ではなく出て2年目の枝に実がなるが、キンカンでは新梢に実がなる(だが逆に、新梢が伸びるたびに花が咲くので管理は面倒)。そしてもちろん樹自体もコンパクトである。
それから果皮も軟弱になっており、カンキツは一般的に皮が丈夫で保存性がいいのだが、キンカンの場合は傷つきやすく、また傷みやすい。こうした進化は遺伝子的にシンプルになったのか、それとも遺伝子レベルでは複雑化しているのかわからないが、カンキツの歩んだ道とは全く違う方向を指向したことは明らかであり、キンカンは「逆カンキツ」であるといってもよいと思う。
ちなみに、キンカンは皮ごと食べるためか小さいながらも食べ応えがあり、カンキツとはまた違った甘味があって美味しい。「南薩の田舎暮らし」では大浦で一番美味しいというキンカンを入荷したので是非ご賞味ありたい。
キンカンがマイナー!?衝撃的な事実です。私の卒業した小学校は新入生に記念にキンカンの苗をくれてました。卒業する頃には私の倍の高さまでになり、実もよく食べてました。食べ過ぎて嫌いになりましたが(笑)そんな訳で友達の家にも大概あったしメジャーな果物と思ってました…。
返信削除sawachobiさま
削除コメントありがとうございます。確か、鹿児島と宮崎でキンカンの生産量の8割くらいを占めていたような気がします。ローカルにはメジャーなんですけどね…。
ただ私もどの程度マイナーなのかは分かりかねまして、関東出身の家内曰く、給食にキンカンが出たことがあるといいますから、みんな一度くらいは食べたことがある、という程度のマイナーさなのかなあと思っています(食べたことも見たこともない人というのは少数派だろうと)。
最近東京のスーパーでもちょこちょこ見られるようになりました。
返信削除でも高いなぁ...キンカン。
私の所属する東京加世田会というふるさと会では、毎年小学校にキンカンの苗を送っていますよ。
もう20年くらいになるんじゃないかな。
子供達もキンカンも大きく育ってくれることを願っています。
丸野さん
削除コメントありがとうございます。東京加世田会、すばらしい活動をしていますね。キンカンの木はあまり大きくならないので家庭で育てる果樹として最適だと思います!
地元の方だと、キンカンは甘煮にするなど加工して食べるものというイメージが強いためか、生食用のキンカンは不人気ですね。むしろキンカンに対する先入観があまりない東京の方が、これから消費が伸びる余地があるのかもしれません。