2012年6月23日土曜日

鹿児島県知事選に思う

鹿児島県知事選である。立候補は現職・伊藤祐一郎氏と新人・向原祥隆氏の二人だけ。

そのため今回の選挙は盛り上がりに欠け、県民の多くが無関心だと思うが、自分の考えを整理するためにも思うことを少し書いてみたい。

まず現職の伊藤祐一郎氏であるが、これまでの実績を一言で表せば「良くも悪くも旧来型の安定した施政」ということになるだろう。「本物。鹿児島県」のキャンペーンなど対外的な活動もあるが、県政に際だった特色はなく、あえて言えば中心は公共事業。

産業の少ない本県としてはしょうがない面があるが、人工島マリンポート鹿児島の建設や錦江湾横断トンネル(検討中)など、費用対効果の定かでない大規模施設の建設も目立つ。川内の最終処分場建設は植村組との不透明な関係が指摘されるなど、土建業界と二人三脚でやってきたようなところもあるが、区画整理や道路の拡幅・延伸といった地味だが重要なインフラ整備も続けている。なお、九州新幹線の全面開通は県の努力も大きいと思うが伊藤県政の成果ではない(以前から計画・施工されていたことだし、県の事業ではない)。

次に、対抗馬となる向原祥隆氏は、出版社南方新社の社長であり反原発グループの代表。南方新社は郷土の出版社として重要だし、氏は有機農業にも取り組まれておりその価値観には個人的に共鳴する部分もあるが、やはり問題は争点を脱原発に絞っていることだろう。今年6月の講演でも「なぜ立候補するかというと、川内原発を絶対再稼働させてはならない、その一点です」と述べており、県政全体を担う県知事の候補者としてはこの抱負は物足りない。

マニフェストにはいいこともたくさん書かれているが、記載に粗密が目立ち、脱原発が鮮明であるためにその他の付け足し感・思いつき感が否めない。謳われていることが実現できたら、たしかに素晴らしいとは思うが、「いろいろ頑張ります」以上のものを感じられないのが率直な感想だ。もちろん新人は施策立案の面で不利なので、掲げる目標は漠然としたものにならざるをえないのだが、どうも情緒的な記載が目立つのは気になる。

ちなみに、中心施策である脱原発も、目標はともかくとして手法が早急・強引な印象を受ける。氏の述べるやり方も手法の一つとは思うが、エネルギーの安定・安価・安全な供給が可能なのか疑問であり、安全のみにフォーカスしすぎるあまり、安定・安価が犠牲になるのではないかと心配だ。脱原発のためにはライフスタイルや産業構造を変える必要があり、長い時間をかけて理想に近づいていく地道な努力が必要と思う。

ただ、マニフェストだけでなく各種の資料を積極的に公表したり、Facebookを活用していたりと今っぽいセンスは県政に新しい風をもたらしそうではある。伊藤氏のWEBページは対照的に旧態依然としていて、マニフェストは新聞の他は積極的に公表しておらず、僻地が多い鹿児島県での選挙活動としては残念だ。

なお、伊藤氏のマニフェストは、要約すると「これまで通り引き続きやります」というものだが、 実は伊藤氏と向原氏は方向性をかなり共有している。ただし、方向性は同じでも、伊藤氏のそれは妥協的・官僚的だが現実的、向原氏は体系的ではないが理想主義的、ということは言えるだろう。

ところで、両氏のマニフェストを眺めていて思うのは、どちらも産業振興政策がほとんど謳われていないことだ。産業の項目は両氏とも農林水産業にほぼ限定されており、向原氏の場合は実質農業しかない。農林水産業には補助金等が多く県政の影響力が大きい、という理由もあるとはいえ、従事者が少ない第一次産業のことしか考えていないとしたら問題だ。九州新幹線も全面開通したことであるし、鹿児島らしい産業振興政策を検討してもらいたいところである。

さて、偉そうに論評してきたが、実は向原氏は高校の先輩、伊藤氏も霞ヶ関の先輩にあたり、また両氏の支援者には普段お世話になっている方もいるわけで、実はあまり批判めいたことは書きたくない。それに、大勢の人に背中を押されなければ選挙などには出られないことを思えば、どちらも立派な人物なのだと思う。どちらが県知事になっても、鹿児島の発展に尽くして頂きたいと思う。

【蛇足】
すごくどうでもいいことなのだが、両氏ともにWEBサイトでマニフェストのことを"manifest"と書いている。しかしこれはスペルミスで、これだと「積荷リスト」とか「乗客名簿」のことになってしまい、正しくは"manifesto"だ(最後にoが付く)。向原氏は出版社社長なのだから、誤字には敏感であってほしいなとちょっと思った。

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