前回の記事にも書いたように、南さつま市観光協会のメンバーになった。というわけで、今のうちに南さつま市の観光政策について思うことを書いておきたい。
というのは、私自身観光業に携わっていなくても、観光協会のメンバーとしていろいろな活動に関与していけば、ブログで好き放題論評するというわけにもいかなくなりそうなので、まだ何も役目をいただいていないうちに、観光政策の問題点についてつれづれなるままに放言しておこうという次第である(関係者の皆さんは気分を悪くされると思うので読まないで下さい。すいません)。
まず第1に、インターネットでの情報発信がヘタすぎる。
例えば、本市の最大のウリだと私が思っている「南さつま海道八景」だが、
市役所のWEBページには写真だけしか載っておらず、「海道」といいながら全く道について触れられていない。これだけだと、海道八景がどこにあるのかすら分からないという有様。
観光協会のWEBページには、若干の説明があるが、この説明がマウスオーバーで現れる(マウスが写真の上にあるときだけ説明が読める)といういただけない仕様になっている。HTMLをいじるのが面白いとついこういう仕掛けをやってしまうものだが、シンプルに写真とテキストが書いてあった方がよい。なぜなら、実際に観光に来る人が、このページを印刷する可能性があるからで、マウスオーバーテキストだとそれが印刷できない(その上リンク先があるかどうかわかりにくい)。しかも、なんと観光協会のWEBサイトにも「南さつま海道八景」がどこにあるのか、その説明が全くない! せめて国道226号線沿いだというだけでも説明しないと、このページだけでは観光に行きたい人に役立たない。
「南さつま海道八景」については、それなりにちゃんとしたパンフレットを作っているので、パンフレットをそのまま掲載するくらいはしたらよいと思う。
でももしかしたら、「南さつま海道八景」を「本市最大のウリ」だと思っているのは私だけなのかもしれない。「砂の祭典」こそ最大のウリでは? と思う人もいるだろう。しかし、市役所のWEBページを見ても、観光協会のWEBページを見ても「砂の祭典」が本市の一大イベントであるとは全然わからない。
観光協会のWEBページなんか、公式ページへのリンクもなく(なぜ?)、随分あっさりした書きぶりになっている。数万人を動員する「砂の祭典」からしてこうだから、他は推して知るべしで、必要な情報、必要なリンク先が全く出てこないというのを強く感じる。
要するに、市役所も観光協会も、インターネットで「南さつま市へ観光に来たい人」に対して必要な情報をほとんど提供していない。何が書いてあるかというと「南さつま市にはこんな観光スポットがあるんですよ!」というアピールである。
しかもそのアピールもヘタクソで、アピールである以上、「押し」や「ウリ」といったものが明確に分からなくてはならないのに、それがなくてあらゆる情報が並列的に載っている。要するに、何かのついでがあれば観たらいいよ、という「
田の神」のようなものと、南さつまに来たら是非観るべき、という「南さつま海道八景」のようなものがほぼ同列に並んでいる。これではアピールにならない。
観光というのは、「あれも行きたいこれも行きたい」といってどこかへ行くわけではなく、目的地は大抵一つである。例えば群馬県の水上温泉に行きたい、というときは、まず温泉を調べる。そして温泉だけだと子どもたちが楽しめないから他にないか、といってロープウェイなど近場のレジャー情報を調べ、さらに何か美味しいものが食べられないか、といってグルメ情報を調べる。この場合最も重要なのは「温泉」の情報で、それ以外は「温泉」に付随しているに過ぎない(温泉がなかったら調べなかった情報だということ)。だからアピールするなら、観光地の核となる情報を発信し、それ以外の観光情報はその下に付随する形にしているべきだ。要するに
観光情報の階層化が必要なのだ。もっと簡単に言えば、「そのためだけに南さつま市に来る価値がある所」はどこかをしっかり見極めて、アピールはそこだけに注力したらよいと思う。
なお余談ながら、私の考えでは、それは「南さつま海道八景」「亀ヶ丘」「吹上浜(京田海岸)」の3つである。
しかし、実のところを言えば、こうした公の機関は、インターネットで観光スポットをアピールする必要は全然ない。なぜなら、こうしたサイトを訪問している以上、そのページを見ている人は既に何かのきっかけで「南さつま市に行きたいな〜」と思っているはずで、その人は、どの季節に訪問するのがよく、どこをどう巡ったら楽しいか、という具体的な情報を欲しているからである。
そもそも観光協会も市役所も、どこかにアピールポイントを置いた公報というのは苦手である。役所が作った
「南さつま海道」のプロモーションビデオにも、金峰町の人から「金峰が入ってない」という意見があったそうだから、役所でこういうのを作るのは本当に難しいと思う。だからやりにくいアピールをやるよりも、既に南さつまに行きたいと思っている人に対して、そういう人が必要とする情報を愚直に出して行く方がよいと思う。
具体的には、
観光マップをしっかり作るべきだ。観光協会のWEBサイトは、情報はいろいろあるのに肝心な観光マップがないのが最大の問題だと思う。市役所のWEBサイトも、一応
観光マップと銘打っているものはあるが、全く使えないもので残念である。「ちゃんとパンフレットでは観光マップを用意しています。来て頂ければお渡しできます」と考えているとしたらそれは傲慢である。あるならばそれをインターネットに載せるくらいのことはするべきだ。
ついでに言うと、インターネットでの発信はぜひ英語でもすべきだと思う。英語で発信したって見る人はいないでしょ、と思うのは間違いで、日本の観光情報は外国の人にとって常に不足しているので需要はある。他の自治体がなかなか英語での発信ができていない中、南さつま市が英語発信に積極的に取り組めばすぐに頭一つ抜け出ることができるはずだ。
第2に、今あるものを大事にしよう・活用しようという考えが希薄で、イベント的な一過性の取組が多すぎる。
南さつま市は他の観光地に比べて、景観はかなり勝れていると思う。だがその肝心の景観を大事にしようという考えが希薄である。といっても、これは日本の観光地一般に言えることであって、実は南さつま市だけではない。歴史ある京都の街並みでも電柱の埋設が進んでいないし、品のない看板が多い。京都駅の駅舎は街並みとは異質なデザインだし、京都タワーは景観を乱していて本当にない方がいいと思う。京都の人は景観をどう考えているのだろうか。
「南さつま海道八景」も、道脇の草がボウボウである、朽ちた看板がある(しかも内容が「海や川をきれいにしましょう」みたいなものだったりする。看板自身が景観を乱しているというのに)、人工物が邪魔している(ガードレールや電線や廃屋)、といったことで非常に惜しい状況である。
海道八景沿いだけでも、「老朽化した看板の撤去」「新たに設置する看板への規制」「道路清掃作業の頻繁化(国道なので市がやれる範囲で)」「景観を乱す人工物を目立たなくする(例えばガードレールを周囲の環境と調和したものに)」「景観の邪魔になる木の伐採」といった景観の向上への取組が必要だと思う。
他にも、例えば「笠沙美術館」は素晴らしい立地の美術館で、ここだけでも観光の目的地になりうる場所だと思うが、観光に全く役立っていない。私は個人的にここがすごく気に入っているので「
海の見える美術館で珈琲を飲む会」を今年も企画しているが、市役所も積極的に使ったらよい。しかしここも、建設以降ほとんど改修が行われていないので各所の扉がさび付いて開けなくなっており、施設を適正に使うことができない。
また、非常につまらないことと思うかもしれないが、公共施設のトイレを清潔に保ったり、現代的に改修したり、入りやすいようにするといったこともすごく大事である。田舎に越してきてつくづく思うことは、トイレに関しては鹿児島は東京に20年遅れているということである。
行く先のトイレにおむつ替えシートがあるかどうかというようなことが、子連れでどこか行くときにすごく重要だし、それ以前に利用したいと思うトイレであることが大事で、「できれば入りたくない」というようなトイレが存在していること自体が(実際に入らなくても)観光客にとっては負担である。
「南さつま海道八景」沿いだけでも、今一度公共トイレの施設設備や清掃体制をチェックすべきだ。例えばトイレが県の施設で管理できないという場合は、県から施設を譲渡・購入して市が管理できるようにし、ストレスなく使えるトイレに変えていったらよい。そして、インターネットやチラシでどこにどのようなトイレがあるかちゃんと発信したらよい。こういう地味なことをするのが本当の観光政策だと私は思う。
しゃかりきになってイベントを企画しなくても、こうした
今ある施設や観光スポットをちゃんと維持管理・整備し、ポテンシャルを引き出すことが十分に魅力づくりになるのではないだろうか。
第3に、観光の拠点となる場所がよく分からない。
鹿児島の北の方に蒲生(かもう)という町があって、そこは「蒲生の大クス」という日本一大きなクスノキがあるのが最大のウリなのだが、大クスがある蒲生八幡神社の入り口に
蒲生観光交流センターがある。ちょっとしたお土産品とか、観光パンフとかが置いてあって、そのもの自体はどうということはない所だが、こういう施設が最大の観光スポットに付随しているのはうまいと思う。
というのは、まだまだ日本ではインターネットの情報は現実の後追いであることが多く、紙のパンフレットなどの方が情報豊富で正確である。だからパンフレットを各所で配布することは重要なのだが、観光客は律儀に市役所に寄ったりしないし、それ以上に土日は市役所が閉まっている。だから観光協会での配布が重要になるが、南さつま市の観光協会は加世田の市街地にあって観光スポットとは縁がなく、観光ルートと離れている。というより、今の観光協会のオフィスは(リアルの)情報発信の拠点と位置づけられていないから、WEBサイトに開館日や開館時間すら書いていないので観光客には全く使えない。
南さつま市で唯一観光ルート上にあるそういう施設は、
坊津の観光案内所だがここも有効に活用されているとは言えない。
私としては、「南さつま海道八景」のちょうど入り口に立地している物産館
「大浦ふるさとくじら館」の一部を観光案内所と位置づけて、観光協会が間借りし、そこを情報発信の拠点にしたらよいと思う。物産館は年末・正月を除いてほぼ年中無休なので今の観光協会のように人が居ない日があるという問題も回避できる。そもそも「大浦ふるさとくじら館」は、合併前の大浦町時代に観光案内所的な意味合いもあって作ったものだと聞く。それがいつの間にか物産館だけの施設になっているので、もう一度原点に返るべきだ。これは第2に述べた「今あるものの活用」という話とも繋がる。
観光客というものは、意外と無計画に観光地へとやってくるものなので(私も観光に行くときは大概そうしている)、観光の拠点へと自然と足が延びるというのは大事である。南さつま市の場合、そういう場所がどこなのか私自身判然としないので、わかりやすい観光の拠点を作って、そこを中心としてリアルでの情報発信をしていくのがいいと思う。
第4に、観光の基盤となる歴史と文化に対し、ほとんど関心が払われていない。
多くの観光客は、美しい風景や気持ちの良い温泉、美味しい料理があれば満足すると思われているがそれは大きな間違いで、確かにそういうことは観光の中心ではあるがそれが全てではない。旅行というのは、ただ上質なサービスを受けるためだけに行くのではない。もの凄く美味しい料理を食べたいなら東京の一流レストランに行く方が間違いないし、圧倒的な絶景を観たいなら手つかずの自然が残る外国に行く方がいい。じゃあ、あまりお金をかけないで行く国内旅行が貧乏人のための次善のものかというと実はそうではない。
旅行というものは、自分の生きる土地と違う風土に触れて、暮らしやなりわいの多様性を体験するということも重要な目的だから、国内旅行だって十分に贅沢なのである。つまり風景や温泉や料理そのものも重要だが、それが自分とは異質な風土の元に営まれていることに一層の価値がある。
そして風土というのは、気候や地勢ももちろんだが、それ以上に独自の歴史と文化が重要な構成要素である。歴史とか文化とかは一部の好事家のためのもので、多くの観光客には無縁と考えるのは早計で、そうしたものを是非学びたいと言う人は少数派でも、旅先で聞く風変わりな(歴史の教科書に出てこない)歴史話は多くの人が耳を傾けて「へ〜」と頷くものだ。なぜならそれは「自分は今、違う文化圏に来ているんだ」と確認できることだからである。
そういう意味で、土地の神社仏閣は言うに及ばず、博物館や埋蔵文化財センターといった地味な施設も実は観光にすごく重要な意義を有している。それは直接観光客が訪れる所ではないかもしれないが、観光に深みを与え、ただの街歩きを歴史の重みを感じる散策に変える基盤を提供するものだからである。
南さつま市には、そういう施設として「歴史交流館 金峰」「坊津歴史資料センター 輝津館」「笠沙恵比寿(の展示室)」があるが、最も博物館として充実している「輝津館」ですらWEBサイトを持っていないのが残念だ。「輝津館」は学芸員も擁しているし、企画展も意欲的に開催しているので、その情報を実直に発信していけば南さつまの観光にもっと寄与すると思う。
さらに言えば、こうしたものの裾野を成す各地の「史談会」なんかも意外と重要で、観光ガイドの質は「史談会」を抜きにしては語れないと私は思う。これまでの行政は「史談会」を良くて文化活動、ひょっとすると年寄りの暇つぶしと見ていた節があるが、公益的な価値があるものとして取り上げ、史談会誌の発行を助成するなどの支援をしたらいい。
ともかく、今の南さつま市は「どんな歴史や文化を持っているのか?」という観光客の疑問に対してぴったりとした答えを持っていないように感じる。鑑真が上陸したとか、島津日新公の拠点であったとか、断片的なことしか語られていない。市制施行10周年でもあることだし、簡単でもよいから「南さつま市の歴史と文化」についてまとめたらよいと思う。
・・・というわけで、とりあえず4点述べたが、真面目に考えたらもっとたくさん出そうな気がする。でも最初に「関係者の方は読まないで下さい」と書いたように、私としては「この意見を採り上げろ」とは全然思っていない(というかブログの記事なんか現実的に影響力が全然ないので)。
でも間違えて関係者の方が読んでしまった場合、何かの参考になれば幸いである。