2013年6月8日土曜日

別に幻じゃなかった「幻の芋」

冬、唐芋(サツマイモ)農家からおすそわけしてもらった各種のイモの中で、抜群に美味しいイモがあった。

品種を聞いてみると、「栗黄金(くりこがね)」という。あまりに美味しかったので、これまで関心がなかった唐芋栽培にトライしようと思い調べてみると、インターネットではこの栗黄金、「幻の芋」と呼ばれる貴重なイモと書いてある。

このイモを原料として、吹上焼酎が「白銀の露」という焼酎を造っているので、同社のウェブサイトから引用すると、
「栗黄金芋」は生育が難しく、鹿児島でもあまり生産されていない、珍しい芋です。
一時は途絶えてしまった品種を、うまい焼酎造りの為に復活させたもので、吹上焼酎は“7軒の契約栽培農家” に限って栽培して頂いています。
「栗黄金芋」は一般的な焼酎の原料である黄金千貫などの品種とは違い、澱粉質が上質で香りもよく甘味があって、外見は黄金千貫とさほど変わりません が、輪切りにすると黄色っぽい、夕焼け空のようなきれいな色をしています。畑で生育時、芋の葉の先がエンジ色をしている点も、普通の芋とは違う点です。
ということである。確かに栗黄金は普通には流通していないようで、苗もインターネットでは10本1000円で売っていた。これは、唐芋の苗としては目玉が飛び出るような高価格である。

そんなわけで、まずこの苗の入手をどうしようかと思案していた折、地元の物産館「にいななまる」でこのイモの苗(ツルといった方が正確か)が1本10円で売られていることを発見。早速これを100本購入して定植してみたが、それにしても「幻の芋」のはずなのに、なぜ物産館で苗が安売りされているのだろう…?

くだんの唐芋農家に聞いてみると、実態はインターネットでの情報とは随分違っている。まとめると、
  • 栗黄金の栽培は別に難しくない。というか、唐芋は全部同じ。
  • 確かに昔からあるものではないが、20年か15年くらい前から作っている。
  • 物産館などで売っている。
  • いろいろな品種を作っているけど、味は抜群。
とのこと。どうやら、家庭内消費のためや物産館で売るために作っている人はいるが、大量生産はされていない、というタイプのイモらしい。少なくとも「幻の芋」とは言えないもののようである。

では、抜群に美味しいこのイモが、どうして域外へ出荷されていかないのだろうか? これは推測だが、それは鹿児島の唐芋流通において、これまで美味しさというものがあまり重視されてこなかったからかもしれない。

鹿児島は日本一の唐芋の産地で、これは基幹作物の一つと言えるが、その用途は工業用デンプンや焼酎の原料などがほとんどであり、なんと市場販売(非加工品)は生産量の10%程度に過ぎない。唐芋は米が食えない水吞百姓のための救荒作物、という過去もあって、美味しい食材としてのイメージもなく、もはや家庭で大量に消費するものでもないので、栽培振興をする上では、デンプンとしての利用が進められてきた。県の試験場においても、唐芋の品種改良の主目的は、いかに良質なデンプンを産出するイモを創り出すか、ということにあったのである。

その甲斐あって「こなみずき」のような優れたデンプンを創り出すイモも生まれているが、基本的にはサツマイモデンプンの利用は低迷している。サツマイモデンプンは小麦デンプンやコーンスターチ、バレイショ、タピオカなどといった他の作物のデンプンと比べ中間的な性質を持っていて、悪く言えばこれといった特徴がないため、サツマイモデンプンに適した食材が見当たらないことがその大きな原因だ。

一方で全国に目を向けると、茨城や千葉といった他のサツマイモ産地ではそのほとんどが非加工用であり、鹿児島以外では扱いづらいサツマイモデンプンにこだわっているところは見当たらない。県の試験場での数十年に渉るサツマイモの品種改良とデンプン利用振興の取組も、なかなか実を結んでこなかった、と言えるだろう。やはり、唐芋はあくまで唐芋という食材として生かしていく方がいいのではないだろうか。
 
食材としての唐芋といえば、鹿児島においても、近年種子島の「安納芋」がブランド化に成功して随分と知名度を上げた。島というハンディキャップのある環境で、イモをより高価格で販売するために敢えて鹿児島全体の傾向と違う「美味しい芋」を目指した結果であろう。これに続けとばかり、南薩でも「知覧紅」がブランド化されているが、この成否はどうだろうか。

こうした傾向を踏まえると、この「栗黄金」も食材として美味しいイモ、というブランド化の可能性があると思う。なにしろ、唐芋農家をして「抜群に美味しい」と言わしめる味を持つ一方で、「幻の芋」とか呼ばれているわけだし、将来性は十分だ。唐芋の栽培は初めてなのでうまく収穫できるかわからないけれども、今年の冬はネットショップでこの「幻の芋」を販売してみたいと思っている。

【参考文献】
「新しいサツマイモでん粉の特性と食品利用への可能性」2013年、時村 金愛(鹿児島県農業開発総合センター 農産加工研究指導センター)

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