2022年8月24日水曜日

波紋を広げた一つの記事「インフラックスが子ども食堂に寄付」

7月16日、南日本新聞にこういう記事が載った。

「インフラックスが子ども食堂に寄付」「同社は伊集院こどもふれ愛食堂に50万円寄付した」「同食堂を通じ日置市内4カ所の子ども食堂にも配分する」

何も知らない人は、「社会貢献をする企業えらいな」と素直に思うかもしれない。だがこのニュースは一部の人にはすごく評判が悪かった。

というのは、このインフラックスという企業は、今、吹上浜沖に大規模な洋上風力発電施設を建設しようとしているところだからである。

このブログをご覧いただいている方はご存じの通り、この件についてはこれまで3つの記事を書いており、私自身もこの洋上風力発電事業については反対である。

【参考】吹上浜沖に世界最大の洋上風力発電所を建設する事業が密かに進行中(今なら意見が言える)
https://inakaseikatsu.blogspot.com/2020/07/blog-post.html

【参考】インフラックス社が実現可能性の低い巨大風力発電事業を計画する理由

【参考】洋上風力発電は、結局、全部カネの話。
https://inakaseikatsu.blogspot.com/2022/07/blog-post_25.html

なので私も、この記事を読んだときに「これをどのように評価すればいいのだろうか?」と考えてしまった。

現在、インフラックスは事業の実現へ向けて着々といろいろな調査をしている。1本1億円するという海底のボーリング調査を何本も行ったり(伝聞)、小湊には風況調査のための60mのタワーが建設された。

にもかかわらず、地域住民には事業の丁寧な説明がなされているとはいいがたい。みんなの海を大きく改変する事業であるのに、一方的に進められているという印象である。当然、この事業に反発している人は多く、反対する市民の会もできて署名活動が行われている。

こうした中、インフラックスが日置市の子ども食堂にお金を寄付したというのは、どう考えても偽善的行為というか、一種の「売名」である。「地域貢献もしていますよ」という姿勢を見せることで、企業イメージの向上を図っているわけだ。

当然、反対派の市民はこれに反発し、噂では南日本新聞社に「インフラックスの売名行為を宣伝して加担するのか」と抗議したとかしないとか。なお、「日置市内4カ所の子ども食堂にも配分する」とあったがこれは誤報で、実際には吹上のこども食堂はインフラックスからの寄付はもらいたくないということで断ったそうだから、報道としても少し脇の甘いところはあったようだ。

私としても、市民への説明をちゃんとしないのに、企業イメージの向上だけには熱心なのはいただけないと思う。新聞といえば、今年4月9日の南日本新聞にはインフラックスの全面広告が掲載されたが、その広告にしても吹上浜沖の洋上風力発電事業のことは一言も触れず、「「風」を力に、街を豊かに」のキャッチコピーの下「地域のエネルギーを活かして町を豊かにしたい」とだけ語ったのには怒りすら覚えた。本当に街を豊かにする事業だったら、正々堂々と事業内容について説明したらいいのに。

とは思うものの、新聞社にこれを掲載するなというのはお門違いだろう。確かにインフラックスは誠実な企業とはいいがたいが、今のところ法律違反などはしていない。新聞社として広告を断る理屈はない。日置市の子ども食堂の件も、「売名行為を報道しやがって」という気持ちはわかるが、これは報道する方が正しいだろう。

いや、「売名」とか「偽善」とか言っても、子ども食堂への寄付そのものは非難されるべき要素は一つもない。俳優・杉良太郎さんが東日本大震災の支援について「偽善や売名だといわれることもあると思いますが…」と問われ「偽善で売名ですよ。あなたもやったらいい」と答えたように、「やらない善より、やる偽善」。インフラックスのことは気に食わないが、子ども食堂への支援は立派だと、素直に認めるほかない。

それに、子ども食堂の関係者に政治力がある人たちがいるようにも思えない。これは「売名」ではあるかもしれないが「買収」ではない。周辺の漁協に補償金をチラつかせるのは明らかに買収を意図しているし、権利を持っている人にお金を配ろうというのだから、こういうお金は全く評価できないが、子ども食堂への寄付はそういうのではない。

あえて非難する点を言えば、ボーリングや風況調査など数億円規模の調査事業を実施しながら、子ども食堂には50万円とは少しケチすぎるのではないか、ということくらいだ。

そして、吹上の子ども食堂が寄付を断ったことは尊重するにしても、逆にもらった子ども食堂もやましい思いをする必要はないと思う。反対派の人には「インフラックスから金をもらいやがって…」という思いを抱く人もいるかもしれないが、寄付を受けたこと自体は全く問題がないということをここで明確にしておきたい。

何度も言うが、問題は、インフラックスが地域住民に事業計画をまともに説明せず、対話もしていない。ということである(ほかにもいろいろ問題はあるが、私にとって一番の問題がこれだということ)。

だからこそ言いたい。インフラックスのやることだからといって、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」式に否定していては対話そのものができない、と。子ども食堂への寄付そのものは「地域貢献」として認めなくては、インフラックスとしても地域への譲歩ができない。「偽善」が否定されたら、「善」に行かずに「悪」に行くかもしれない。同じお金なら、評価されない偽善に使うよりは、住民の買収(や恫喝)に使った方がいいからだ。

私としては、インフラックスと対話するために、常に是々非々の姿勢で臨んでいきたい。インフラックスを全否定していたら対話ができない。対話がなければ譲歩もなく、事業の変更もない。結局、向こうの思惑通りに進むだけだと思う。だから素直に、今回の子ども食堂への寄付は一定の評価をするべきだと考える。とはいえ、だからといってたったこれだけのことでは事業に賛成するほどにはならない。だが今後インフラックスが住民と協働して地域貢献事業を幅広く実施していく、というなら、やはり斟酌せざるを得ないだろう。

こういうことを書くと、「インフラックスの肩を持つ気か!」と反対派の人からは怒られるかもしれない。しかしちょっと待ってほしい。全ての市民活動が陥りやすい罠がそこにある。それは、賛成か、反対かという白黒式で市民を二分してしまう危険性である。しかし世の中の多くの人はグレーである。グレーであることを敵視したら、世の中の多くの人を敵にすることになる。多くの市民活動が「過激な少数派の市民がやっていること」として社会の賛同を得られず瓦解していった歴史を想起すべきだ。

私も、吹上浜沖洋上風力発電事業の反対派の一人である。計画を中止に追い込むだけでなく、インフラックスを、できれば「ぎゃふん」と言わせたいと思っている。でも反対運動は市民を賛成派と反対派に二分するものであってはならないと思うし、インフラックスと対話していくために、自らも対話的であらねばならないと思う。「話の分かる人間」になる危険性はあるが(=丸め込まれる危険性はあるが)、私は「話の通じない人間」にはなりたくないのである。

1 件のコメント:

  1. 同じように串木野では「地域貢献」を謳う活動にVENA ENERGYグループの影が。
    https://kazamidori.org/author/kzmdr/

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