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2024年3月26日火曜日

海は「みんなのもの」。洋上風力発電事業の利害関係者とは…

吹上浜に巨大な風車を100基以上建てるという、吹上浜沖の洋上風力発電事業について、2024年9月の南さつま市議会(令和5年第3回定例会)で、計画縮小が明らかになった。

本坊市長の答弁をまとめると次の2点になる。

  • 6月下旬、事業者から県・市に対し、南さつま市海域での事業計画を凍結する旨の連絡があった。
  • よって、本市は当該事業の協議会構成員から外れた。

計画の縮小は喜ばしいが、気になったのは「南さつま市海域」という表現である。というのは、海は全て国の管轄であり、「南さつま市海域」なる概念は行政に存在しない

では、事業者(インフラックスという業者)が言っている「南さつま市海域」とは何なのか。いくら考えても分からないので、県の情報公開制度を使って事業者から提出された計画変更資料を取り寄せてみた。それが冒頭の画像である(提出された資料をトリミングして作成)。

これを見て、事業者の考える「南さつま市海域」は一発で分かった。

それは、変更前事業の区域にある「加世田漁協」「笠沙漁協」「県漁協南さつま支所」の範囲を指していたのである。そしてこの資料により、洋上風力発電事業を進める上で、いかに漁協の存在感が大きいかも再認識させられた。

そもそも、洋上風力事業は、国がある海域を「促進区域」として指定しなくてはスタートできないが、国がその指定を行うにあたって、利害関係者との調整を行うために設けるのが「協議会」という組織である。そして漁協は、この「協議会」の重要なメンバーになる。基本的には、漁協が反対していたら事業は進まない、と考えてよい。 

よって、事業者側としても漁協を味方につけるためにいろいろと工夫しており、それによって各地の漁協から「洋上風力発電事業に賛成」といった陳情がなされていることも周知の通りである。吹上浜沖の洋上風力事業については、私の知るところ、沿岸の漁協は概ね賛成している状況である。

そんな中、(明確に反対の意思表示はしていないが)賛成していないのが「笠沙漁協」だ。

もし、「笠沙漁協」が協議会に参加して、いつまでも賛成しなかったら、その事業を進める事は極めて難しい。冒頭の資料で「笠沙漁協」「県漁協南さつま支所」が赤くなっているが、もしかしたら、これは両漁協が洋上風力発電に賛成していないことを示しているのかもしれない。

そして、おそらくそれが事業者が「南さつま市海域」での事業計画を凍結した理由の一つなのだ。

また、凍結の理由としてもう一つ考えられるのが、「南さつま市海域」では他の事業者が洋上風力発電事業を計画していないことだ。

この図は、2023年5月19日の南日本新聞の記事「薩摩半島西方沖 洋上風力発電計画 沿岸5市対応割れる」に掲載されていた図である。

吹上浜沖も含め、現在3つの事業者が薩摩半島西方沖で洋上風力発電事業を計画しているが、日置市・南さつま市沖についてはインフラックス社のみがその事業想定海域としている。

県・国としては、風力発電事業の需要の高い海域を「促進区域」に指定するわけだが、この図を見ても分かる通り、薩摩川内市沖やいちき串木野市沖は2事業者の計画区域が重なっているから需要が高い。逆に南さつま市沖は1事業者のみなので、需要は低いということになる。

だから、インフラックス社としては、漁協の賛成が得られていないこと、他の事業者の計画がなく需要が低いと県から見られていることを踏まえ、計画を縮小したのだろう。

ところで、いちき串木野市沖は3事業者全てが計画区域としていて、この中では最も需要が高い海域となっている。

しかも、いちき串木野市はこれら周辺の自治体の中で、唯一(といってもいいと思う)、洋上風力発電に極めて前向きである。

いちき串木野市は2021年から風力発電の勉強会のような独自の協議会を立ち上げており、2023年度も「いちき串木野市洋上風力発電調査研究協議会」を立ち上げている(上述の「協議会」とは全く別)。これらの取り組みからは、はっきりと「洋上風力発電を誘致したい」という方向性が感じられる。

さらに、本日(2024年3月26日)の南日本新聞によれば、県の洋上風力発電に関する研究会で、同市から「いちき串木野市沖に絞った海域」で国に情報提供する案が提案されたという。この「情報提供」を行うことで、国は「促進区域」に指定するかどうかの検討を開始することになっているので、これはいわば、事業計画スタートの提案である。

もちろん、いちき串木野市が洋上風力発電を誘致したいのなら、他の自治体にいる人間(私)がとやかくいうようなことではないのかもしれない。

だが、「南さつま市海域」がないように、「いちき串木野市海域」もない。海はあくまでも「みんなのもの」(国の管轄)である。いちき串木野市が推進しているからといって、他の自治体や他市の住民を「利害関係者」から除外して進めることになると、ちょっとおかしいと思う。

そもそも、先ほどの「県の洋上風力発電に関する研究会」自体が半ば秘密裡に行われているような会で、これについては「関係者のみで進めましょう」という旧来の密室政治的な臭いを感じる。協議会が非公開になるのはわかるとして、その準備段階の研究会すら公開しないというのは解せない。県のやり方は県民の疑心暗鬼を招くものだ。

ところで、「促進区域」の指定にあたって「協議会」を設置すると先ほど書いたが、実はその前段階として「有望区選定」を行うというステップがある。そしてこの「有望区選定」の条件の一つが、「利害関係者を特定し、協議会開始の同意を得ていること」なのである。つまり、洋上風力発電事業がスタートするにあたっては、最初に「利害関係者」を特定する作業が必要となる。

逆に言えば、この「利害関係者」に入らなければ、いくら反対しても聞いてもらえない、ということだ。 もしいちき串木野市沖で洋上風力発電事業が行われるとしても、日置市や南さつま市といった関係自治体の関係者も含めた協議会で合意を得て進めるのであれば、まだ納得できる。しかし、今のところ、直接の利害関係者(自治体、漁協)に限って協議会を構成しようという方針のようだ。

その意味で気になるのが、冒頭の市長答弁の「よって、本市は当該事業の協議会構成員から外れた」という部分だ。計画後の事業区域も、金峰町の海岸の近傍であり、もちろん笠沙や大浦からも洋上風車がバッチリ見えることになる。にもかかわらず南さつま市が協議会に参画できないというのはどういうわけなのだろう。直接ではないかもしれないが、南さつま市民も利害関係者ではないのか。

繰り返すが、海は「みんなのもの」である。なるべく開かれた形で議論し、公明正大に事業を進めてもらいたい。

2022年8月24日水曜日

波紋を広げた一つの記事「インフラックスが子ども食堂に寄付」

7月16日、南日本新聞にこういう記事が載った。

「インフラックスが子ども食堂に寄付」「同社は伊集院こどもふれ愛食堂に50万円寄付した」「同食堂を通じ日置市内4カ所の子ども食堂にも配分する」

何も知らない人は、「社会貢献をする企業えらいな」と素直に思うかもしれない。だがこのニュースは一部の人にはすごく評判が悪かった。

というのは、このインフラックスという企業は、今、吹上浜沖に大規模な洋上風力発電施設を建設しようとしているところだからである。

このブログをご覧いただいている方はご存じの通り、この件についてはこれまで3つの記事を書いており、私自身もこの洋上風力発電事業については反対である。

【参考】吹上浜沖に世界最大の洋上風力発電所を建設する事業が密かに進行中(今なら意見が言える)
https://inakaseikatsu.blogspot.com/2020/07/blog-post.html

【参考】インフラックス社が実現可能性の低い巨大風力発電事業を計画する理由

【参考】洋上風力発電は、結局、全部カネの話。
https://inakaseikatsu.blogspot.com/2022/07/blog-post_25.html

なので私も、この記事を読んだときに「これをどのように評価すればいいのだろうか?」と考えてしまった。

現在、インフラックスは事業の実現へ向けて着々といろいろな調査をしている。1本1億円するという海底のボーリング調査を何本も行ったり(伝聞)、小湊には風況調査のための60mのタワーが建設された。

にもかかわらず、地域住民には事業の丁寧な説明がなされているとはいいがたい。みんなの海を大きく改変する事業であるのに、一方的に進められているという印象である。当然、この事業に反発している人は多く、反対する市民の会もできて署名活動が行われている。

こうした中、インフラックスが日置市の子ども食堂にお金を寄付したというのは、どう考えても偽善的行為というか、一種の「売名」である。「地域貢献もしていますよ」という姿勢を見せることで、企業イメージの向上を図っているわけだ。

当然、反対派の市民はこれに反発し、噂では南日本新聞社に「インフラックスの売名行為を宣伝して加担するのか」と抗議したとかしないとか。なお、「日置市内4カ所の子ども食堂にも配分する」とあったがこれは誤報で、実際には吹上のこども食堂はインフラックスからの寄付はもらいたくないということで断ったそうだから、報道としても少し脇の甘いところはあったようだ。

私としても、市民への説明をちゃんとしないのに、企業イメージの向上だけには熱心なのはいただけないと思う。新聞といえば、今年4月9日の南日本新聞にはインフラックスの全面広告が掲載されたが、その広告にしても吹上浜沖の洋上風力発電事業のことは一言も触れず、「「風」を力に、街を豊かに」のキャッチコピーの下「地域のエネルギーを活かして町を豊かにしたい」とだけ語ったのには怒りすら覚えた。本当に街を豊かにする事業だったら、正々堂々と事業内容について説明したらいいのに。

とは思うものの、新聞社にこれを掲載するなというのはお門違いだろう。確かにインフラックスは誠実な企業とはいいがたいが、今のところ法律違反などはしていない。新聞社として広告を断る理屈はない。日置市の子ども食堂の件も、「売名行為を報道しやがって」という気持ちはわかるが、これは報道する方が正しいだろう。

いや、「売名」とか「偽善」とか言っても、子ども食堂への寄付そのものは非難されるべき要素は一つもない。俳優・杉良太郎さんが東日本大震災の支援について「偽善や売名だといわれることもあると思いますが…」と問われ「偽善で売名ですよ。あなたもやったらいい」と答えたように、「やらない善より、やる偽善」。インフラックスのことは気に食わないが、子ども食堂への支援は立派だと、素直に認めるほかない。

それに、子ども食堂の関係者に政治力がある人たちがいるようにも思えない。これは「売名」ではあるかもしれないが「買収」ではない。周辺の漁協に補償金をチラつかせるのは明らかに買収を意図しているし、権利を持っている人にお金を配ろうというのだから、こういうお金は全く評価できないが、子ども食堂への寄付はそういうのではない。

あえて非難する点を言えば、ボーリングや風況調査など数億円規模の調査事業を実施しながら、子ども食堂には50万円とは少しケチすぎるのではないか、ということくらいだ。

そして、吹上の子ども食堂が寄付を断ったことは尊重するにしても、逆にもらった子ども食堂もやましい思いをする必要はないと思う。反対派の人には「インフラックスから金をもらいやがって…」という思いを抱く人もいるかもしれないが、寄付を受けたこと自体は全く問題がないということをここで明確にしておきたい。

何度も言うが、問題は、インフラックスが地域住民に事業計画をまともに説明せず、対話もしていない。ということである(ほかにもいろいろ問題はあるが、私にとって一番の問題がこれだということ)。

だからこそ言いたい。インフラックスのやることだからといって、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」式に否定していては対話そのものができない、と。子ども食堂への寄付そのものは「地域貢献」として認めなくては、インフラックスとしても地域への譲歩ができない。「偽善」が否定されたら、「善」に行かずに「悪」に行くかもしれない。同じお金なら、評価されない偽善に使うよりは、住民の買収(や恫喝)に使った方がいいからだ。

私としては、インフラックスと対話するために、常に是々非々の姿勢で臨んでいきたい。インフラックスを全否定していたら対話ができない。対話がなければ譲歩もなく、事業の変更もない。結局、向こうの思惑通りに進むだけだと思う。だから素直に、今回の子ども食堂への寄付は一定の評価をするべきだと考える。とはいえ、だからといってたったこれだけのことでは事業に賛成するほどにはならない。だが今後インフラックスが住民と協働して地域貢献事業を幅広く実施していく、というなら、やはり斟酌せざるを得ないだろう。

こういうことを書くと、「インフラックスの肩を持つ気か!」と反対派の人からは怒られるかもしれない。しかしちょっと待ってほしい。全ての市民活動が陥りやすい罠がそこにある。それは、賛成か、反対かという白黒式で市民を二分してしまう危険性である。しかし世の中の多くの人はグレーである。グレーであることを敵視したら、世の中の多くの人を敵にすることになる。多くの市民活動が「過激な少数派の市民がやっていること」として社会の賛同を得られず瓦解していった歴史を想起すべきだ。

私も、吹上浜沖洋上風力発電事業の反対派の一人である。計画を中止に追い込むだけでなく、インフラックスを、できれば「ぎゃふん」と言わせたいと思っている。でも反対運動は市民を賛成派と反対派に二分するものであってはならないと思うし、インフラックスと対話していくために、自らも対話的であらねばならないと思う。「話の分かる人間」になる危険性はあるが(=丸め込まれる危険性はあるが)、私は「話の通じない人間」にはなりたくないのである。