2022年8月1日月曜日

Amazonの本の価格がむちゃくちゃになる4つの理由

もう、さんざん言われていることだろうが、私も実感したので書いておく。

「Amazonの本の販売は、価格がむちゃくちゃになってる」

——6月10日、私の書いた本『明治維新と神代三陵—廃仏毀釈・薩摩藩・国家神道』が法蔵館より出版された。価格は1,700円+税。つまり1,870円である。

↓Amazonページ
https://amzn.to/3Q0wIio

私は、自分の本なので、出版前の予約段階から本書のAmazonページをほとんど毎日チェックしてきた。そこから見えてきたのは、Amazonマーケットプレイスの本の販売は、良心が崩壊したものだということだ。

ご存じの通り、Amazonマーケットプレイス(いろいろな業者がAmazonの仕組みを利用して販売する方式)では、「新品」「中古品」「コレクター商品」という3つのカテゴリがある。まずは「新品」がこうなっている。


一番上はAmazon公式の出品。これは定価1,870円で、しかも送料無料。これが通常のAmazonの販売方式である。しかし次からは販売価格こそ1,870円であるが、送料が600円もかかる。その次の業者も送料が712円。ちなみに書籍を送る場合、郵便局のスマートレターが全国一律180円。少し大きいサイズまで送れるクリックポストでも185円である。少しでも送料を安くしようと工夫している出品者が多い中、この送料の設定は、実際よりずいぶん高い送料によって利鞘を稼いでいるとしか考えられない。

しかしこの時点で新品の本書を販売しているのは23業者もあって、これらは一番安い方なのだ。では一番高いのはどうかというと、こんな風になっている。

 

最高価格は、なんと定価の3倍以上の5,790円。Amazonはもちろん一般書店でも定価で本書が売られている中で、どうして定価の3倍もの価格をつけたのか。

それよりさらにおかしいのが「中古品」。そもそも、まだ新品すら市場に出回っていない中で中古品が売られていること自体が奇妙だ。記録を取っていないが、Amazon公式が販売してから3日後くらいには「中古品」が売られるようになった。「中古品」であるということ自体が嘘八百である。

その価格は、新品の2倍以上である4,675円が最安値となっている。そもそも新品が1,870円で売っているというのに、どうして中古品がその2倍以上の価格になるのか、全く意味不明である。なお中古品は11業者が出品しており、その最高価格は4,675円+送料257円=4,932円である。

さらに、本日(2022年7月31日)、ついに「コレクター商品」の出品が登場した。それがこちら。3,740円だそうである(新刊価格のちょうど2倍)。


ちなみにAmazonのガイドラインでは、「コレクター商品」で出品するには、「サイン入り、絶版などの付加価値が必要です。どのような点にコレクター商品として特別な価値があるのか詳しい説明を提供してください」となっている。そして、本商品の商品説明を見ると「絶版・廃盤・希少品等の理由により、コレクター出品させていただいております。」とある。

しかし、もちろん、この説明は虚偽であり、ガイドラインに違反している。 

さて、Amazon公式(や一般書店)が本を定価販売している中で、多くの出品者が売れそうにもないほどの高い価格で、しかも「中古品」とか「コレクター商品」と偽って販売しているのはなぜなのだろうか。

その答えは、次の4点に集約できる。

第1に、最初からAmazon公式の売り切れ、絶版後を狙って販売していること。
第2に、日本では本の再販制度があり、新刊本は定価販売を義務づけられていること。
第3に、Amazonマーケットプレイスにおける業者の値段の付け方がかなり自動化されていること。
第4に、書店の経営が厳しく、新刊本の販売では利益がでなくなっていること、である。

第1の「最初から絶版後狙い」については、そもそもAmazon公式には絶対に敵わないと諦めている、ということだ。それはやむを得ないと思う。Amazonマーケットプレイスで新刊本を販売することを考えてみると、まず本の仕入れ価格は、条件によって様々であるが大体売価の70〜80%である。つまり1,870円の本の場合、粗利は400円くらいということになる。これからAmazonへ払う手数料が売価の15%(=280円)送料無料にすると利益はないか赤字だ。

であれば、Amazon公式が販売している間は売れなくてもよいので、公式が売り切れになってから売ろうという戦略は間違っていない。先ほどの業者が絶版・廃盤・希少品等の理由により…」と書いていたのは、まだ絶版ではないがすぐに絶版になるだろうとの見込の下、先回りして書いていたのである。これは嘘をついているのでよくないが、絶版後に適正価格で売るのは何の問題もない。

しかし問題は、Amazonが書籍販売においてあまりに大きな存在感があるため、消費者は「Amazonが売り切れだったら絶版に違いない」と思ってしまうし、「Amazonで定価の2倍だったら、それが相場なのだろう」と思ってしまうということである。そしてその価格で買ってしまうのである。

その極端な例を一つ挙げよう。

山田風太郎の作品に『魔群の通過—天狗党叙事詩』という作品がある。この作品は、Kindle版は販売されているが、文庫・単行本は絶版中のようである。それでも稀覯本というわけではないので、中古品がだいたい500円で販売されている。高くても1,000円くらいである。ところがAmazonマーケットプレイスでは、これを15,690円で売っている猛者がいるのだ(この価格を付けている「KWZネットワーク」はいろんな商品でボッタクリ価格を付けている業者)。

もし仮に、安値(といっても結構高い値もあるが)で販売されている他の業者の『魔群の通過』が全部売れてしまったらどうなるか。Amazonで検索した人が見るのは「15,690円」の商品だけであり、これがボッタクリ価格であることがわからず、「そっかー、この本は貴重な本だから高騰しているのか!」と思ってしまうに違いない。『魔群の通過』の場合は、出品が10業者ほどしかないからその可能性もゼロではないのである。そういう時、どうしても『魔群の通過』が欲しい人は、いくら高くても買ってしまう。それが本の虫のサガである。

第2の「再販制度」については、よく知られていることだろう。本は出版社に返品できるという条件で書店に納品される。返品可能な代わり、定価販売を義務づけられている。これが「再販制度」である。だから本当は、新刊本(や雑誌)は原則的には定価販売をしなくてはならない。

そのため、新刊本を「中古品」と偽って高値販売しようとする業者が現れるのである。ただし、再販制度は独占禁止法の適用除外によって規定されている。つまり出版社と小売店での取り決めに過ぎないので、新品を定価より高く売っていても、業界の取り決めには違反しているが、違法ではない。

第3の「自動値付け」については、より根深い問題を孕んでいる。Amazonマーケットプレイス登場以前は、古書店の重要な仕事は、本に値段をつけることだった。今目の前にある本をいくらで売るか、それは古書店主の「目利き」を必要とした。だから簡単に古書店主になることはできず、長い修行を要したのである。というのも、普通の人は、目の前にある本が100万円する稀覯本なのか、 10万円の貴重な本なのか、1万円の高価な本なのか、1000円の普通の本なのか、それとも100円のクズ本なのか、全くわからないのである。

ところがAmazonマーケットプレイスで多くの古書が売られるようになると、Amazonの相場を見れば大体わかる、ということになってしまった。とりあえず目の前の本を検索して、それが1,500円だったら、1,500円と値段を付けておく、というような値付けが可能になった。いつしかそれは自動化されて、本のバーコードを読み取るだけでネット販売での「適正価格」が自動で設定されるようになった。こうして、本の内容を一切知ることなく古書店を経営することができるようになったのである。

しかしこの方式が広まったことによって、本の内容はおろか、需要と供給のバランスすらも無視したやり方で本の価格が決まるようになってしまった。

例えば拙著『明治維新と神代三陵』の場合、先ほど「4,675円が最安値」と書いたが、実は出品している全11業者が同じ価格をつけている(ただし送料が違うので実質の価格はやや異なる)。これは確実に、誰かが最初に入力した「4,675円」を自動的に追随したことによって生じた価格なのだ。 4,675円で本書を買った人はまだ一人もいないのに!

4,675円が「適正価格」(=需要と釣り合った現実的な価格)であるか明証されないうちに、Amazonの画面の中では、本書の中古品は4,675円が「適正価格」であるかのようになってしまった、ということだ。これがとんでもない見当違いであることは誰でもわかるだろう。

昔ながらの、店主がその「見識」で値付けしていた古本屋ではこういうことはなかった。店主が本の内容を見て、「これは3,000円の価値があるだろう」とか「これは3,000円で売れる本だ」と思うからその価格を付けていた。もちろん、神保町のような古本屋が集積している場所では、隣の古書店の価格は気にしていたに違いない。しかし隣の古本屋で3,000円だからといって同じ価格を設定するようなことは、基本的になかったと思う(そもそもいちいち価格を調べることが現実的でなかった)。そしてその3,000円という価格は、古本屋としての長い経験に裏打ちされたものであるだけに、需要と供給のバランスを見据えたものになっていたはずである。

今は、古書店から「見識」が失われ、自動値付け機能によって本の価格がすっかりおかしなことになってしまった。それは本の価格が「投機化した」と言えるかもしれない。

第4の「書店の経営が厳しい」は、今さらいうまでもないことだ。もともと、書店は新刊本の売り上げだけでは利益がなく、雑誌によって利益を出していた。しかし最近わざわざ雑誌を買わなくてもインターネットでいくらでも情報が手に入る(という錯覚がある)ため、雑誌の売上が急激に落ちてきた。そこでこれまでどおりの経営では立ちゆかなくなっているのである。

結果、リアル書店は減少の一途を辿っている。そうして、身近に本屋がないという町が日本にたくさん生まれている。 そうした町にいる読書家は、いきおいAmazonに頼らざるを得ないのである。よって、リアル書店へアクセスしづらい人にとってはAmazonの相場を受け入れる他ない。

また書店にとっても、従来通りのやり方では立ちゆかないのがわかりきっている以上、思い切ってAmazonで高値をつけるアコギな商売をしているのかも知れない。ただし、私の観測している範囲では、リアル書店でこのような良心を欠いたやり方をやっているところはないと思う。むしろリアル書店が衰退したその空隙に、非良心的な業者が湧いているような気がする。

また、1,000円で売られている本に15,690円を付けるような、本物のボッタクリ業者は割合としては僅かだが、自動値付けによって「15,690円」を追随してしまう業者は多く見受けられる。こういう業者は、単に自動値付けのやり方が「最高価格に合わす」という方法であるためで全く悪意はないのだが、結果的にはボッタクリに荷担しているのだ。

そしてそのような見識なき追随が横行した結果、いつしか「15,690円」の方が適正価格とみなされて、一気に値段が10倍になってしまうことはAmazonではよく観測される。例えば、圭室文雄という人が書いた『神仏分離』という新書は、Amazonでつい1年前まで1,500円で売られていたのに、今では最低価格が

 

結局、出版社の経営的体力がないから、初版2,000部の本を自転車操業的に出版し続けなければならないラットレースが起こるのだ。初版2万部の本を長く売っていった方がいいのは出版社の人もわかってはいるが、自転車操業をする以外に今のところ資金繰りをする術(すべ)がないのである。

これを消費者の側から改善する手段は一つしかない。本を買うことだ。

初版2,000部の本がパッと売り切れれば、重版もかけられる。重版も売り切れれば出版社の手元に利益が残る。そうすれば、在庫を抱えるのも怖くなくなる。今まで初版2,000部だった本を4,000部刷れる。簡単に絶版にならなければ、Amazonマーケットプレイスで非良心的業者が活躍することもない。そうすれば本をボッタクリ価格で買わざるを得ない状況もなくなり、結果的に消費者のお財布にも優しいのである。ちなみに「中古品」がいくら売れても出版社にも著者にも一円もお金は入らないのだから、絶版にならないことは、消費者・出版社・著者にとって「三方よし」なのだ。

というわけで、新刊本を買って下さい(拙著でなくていいので(笑))。長くなったが、これが私からのメッセージである。

※なおやむを得ず古本を買う場合は、「日本の古本屋」で買うのがよい。これは組合に加入しているちゃんとした古本屋が出品しているので、Amazonのようなむちゃくちゃな値付けは基本的にない。

2 件のコメント:

  1. 加えて、こうした自動値付けを直接的に儲けの手段とする情報商材屋と、それに群がり「副業収入」を得ようとするバカたちという、さらなる登場人物がいるようです。
    なんとかネットワークのような人たちが基本的にそれで、まず、情報商材屋は、ここに書いてくださったような「品切れ後のおこぼれに与ろうとして事前にデータベースにちょっとした小細工をしておき、空売りのような方法で小銭を稼いでやろうという人たち」がすでにかなりの数いて、そうしたゴミデータがあふれている状況にいち早く目をつけます。そして、情報商材屋は、10万~50万程度の料金で、バカたちに「全自動(自動とは言ってない)せどりツール!」みたいなものを売ります。なお、これはSNSやYoutubeなどで、インフルエンサー的情報商材屋が宣伝して売ります。そうしたツールは、「これまではツールで調べて実店舗を回って仕入れをしていましたが、このツールならインターネットで仕入れまで完結!」とかそういう売り文句です。でも、実際のところ、Amazonや楽天のAPIを叩いて、価格を調べる(に加えて、直近に売れたとかそのあたりのデータを出すとか)だけです。つまり、もはや、なんとかネットワークなどは、実際に売れなくとも、持っていなくとも、とりあえず市場にあまり残っていない品をテキトーにリスト化して、架空の値段をつけておくだけで、そのようなツールには、「このくらいの値段」と表示されます。もしここで、仲間内でちょっとした小細工などをして、実際に少しだけど売れていなくもなさそうな外観まで用意できたら、なにが起こるかというと、さらなるバカたちがAmazonの値段だけ見て、「これは売れるんじゃないか」と思って、勝手に、ちょっと安い(しかし基準はその架空の超高値の出品である)出品を「仕入れ」てくれたりするわけです。

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    1. ご教示ありがとうございます。情報商材屋さん…、しょうもないことで稼いでますね。「空売り」が前提の商売を副業にして稼げるというのもおかしな時代だとつくづく思います(実際に稼いでるのは情報商材屋さんだけかもしれませんが)。

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