2016年8月20日土曜日

マングローブふたたび

7月に行われた「大浦 ”ZIRA ZIRA" FES 2016」では、昨年に引き続きポスターとタオルのデザインを担当させてもらったのだが、実は、隠れた(?)オフィシャルグッズとしてサンダルがあり、そのデザインも担当した。

このサンダル、あんまり広くお知らせしなかったようで、購入したのはほぼ関係者のみだったみたいだ。別に広報に手を抜いたわけではなくて、元々関係者グッズの位置づけだったみたいである。

でも、これは原価が高いだけあって結構丈夫で、履き心地もよく、(デザインのことはともかくとして、)よいノベルティグッズになったように思う。

ところで、私がここにドギツいピンクのベースでデザインしたのは、大浦のマングローブ、メヒルギ群落である。メヒルギというのは、マングローブ(汽水域に成立する森林の総称)を構成する代表的な樹種だ。

大浦には、このメヒルギの群落が河口付近に何カ所かあり、これは世界的に見てマングロブ自生の北限なのかもしれない。鹿児島では、喜入(きいれ)というところにあるメヒルギ群落が国の天然記念物になっているが、喜入の群落はどうやら人工的なものであり、大浦の方は自生の可能性が非常に高い。サンダルには思い切って「the northernmost wild mangrove in the world=世界最北端の自生マングローブ」の文字を入れてみた。

【参考】大浦町には、世界最北限のマングローブ自生地があります

というわけで、大浦町はかつてこのメヒルギを町の宝(たぶん、今の言葉でいえば「地域資源」)として、いろいろな場面であしらっていた。例えば、随分古い話で申し訳ないが、1960年代くらいに大浦町には市民文芸誌があって、その題名が「めひるぎ」だった、といったようなものである。

もちろん、保護の活動もやられていて、枯れそうになったら心配して増殖したりといったことをしていた。護岸工事や干拓のためにメヒルギ群落が破壊されるということもあったようだが、そのたびに移植して保全するという活動もわき起こったそうだ。

だが、いつの頃からかメヒルギはさして注目を浴びなくなり、保護らしい活動もされなくなった。おそらく、喜入の方に特別天然記念物のメヒルギがあるため、それに比べると行政的に打ち出しづらいものであることや、メヒルギを見に来る観光客なども想定されなかったためではないかと思う。一応、「市」の天然記念物になっているので、完全に忘れられているというわけではないと思うものの、南さつま市内にこれに関心がある人はごく僅かだろう。

私が、サンダルにメヒルギをあしらったのは、もう一度、この忘れられている存在に注目してもいいんじゃないかと思ったからである。今、蛭子島(えびす島)というところにあるメヒルギの群落は、ゴミが散乱して雰囲気も悪く、外から来た人にはとてもじゃないが案内できない。ここがもう一度きれいになり、誇るべき風景が甦って欲しいと密かに希望する。

…と思っていたら、「鹿児島&沖縄マングローブ探検」というWEBサイトで、大浦のマングローブがしっかり紹介されているではないか。

【参考】 鹿児島&沖縄マングローブ探検|鹿児島

しかも、大浦川越路川榊川蛭子島と、ちゃんと4箇所のメヒルギが地図と写真つきで公開されている。地元なのに越路川のメヒルギは知らなかったので今後見に行ってみたい。

実はこのサイト、自力で見つけたのではなくて、私が大浦町のメヒルギについてブログで紹介しているのを読んで、運営組織(マングローバル)の代表の方が、わざわざ電話してきて教えてくれたのである。この組織は沖縄にあるが、ちゃんと大浦まで調査に来て写真や地図をまとめており、その熱意には頭が下がるばかりである。

でも、こうした地域にある珍奇なものは、まずは地域住民が大切にしないかぎりそれが活かされることはない。活きるといっても、もちろんそれで観光客がたくさん来るとか、関連グッズが売れるとか、そういうことは考えられない。でも、町の象徴、町の顔、というようなものは住民のアイデンティティの形成などに意外に大きな影響を及ぼしていて、最近の大浦町でいうとそういう存在に「くじら」があるが、こうしたものは心の奥底で人々を結わえ付けるような力を持っているから侮れない。

大浦には「くじら」だけでなく、「亀ヶ丘」「磯間岳」「干拓」など他にもいろいろな象徴があり、あえてそこに「メヒルギ」を追加しなければならない必然性はない。しかしその南国的なムードや、外から見た時の価値のわかりやすさなどから、私としては「メヒルギ」には可能性があるんじゃないかと思っている。

というわけで、「メヒルギ」が、古くて新しい、大浦の象徴的な植物として再び注目される日を期待して、このサンダルを履いているこの夏である。

0 件のコメント:

コメントを投稿