2022年2月1日火曜日

ドルフィン跡のサッカースタジアムはさすがに無理です。

久々に「オイオイ」と思った。

鹿児島市の下鶴市長が、ドルフィンポート跡につくる鹿児島県の新体育館の隣にサッカースタジアムを作りたいといっている件だ。

しかも、県民の多くが「ぜひあの芝生は残してほしい」と言っているその緑地帯を移設すれば建設できるじゃないか、と主張している。さらに結婚式やコンサートにも使える施設とし、フィットネスクラブやワークスペース、保育施設や高齢者住宅を併設して「稼げるスタジアム」にすることを検討しているという(2月1日付南日本新聞より)。

たぶん、塩田知事がいつも「稼ぐ力」を強調していて、経済政策を重視する立場なので「稼げるスタジアム」と言っているのだろう。

しかしながら、実際に新体育館とスタジアムが併設されることを想像すれば、この計画には無理があることがすぐわかる。両方の施設で大規模イベントが行われることを考えてほしい。駐車場はすぐにいっぱいになり、多くの人は遠くのコインパーキングから歩かなければならない。しかも土地勘のない人にはどこにコインパーキングがあるのかもわからず、空き駐車場を探して街中をさまようことになる。

さらなる問題は帰りの時間だ。イベントの終了後には多くの人が一気に帰るわけで、ただでさえ常態化している夕刻の渋滞はすごいことになるだろう。

覚えている人も多いだろうが、2019年に鹿児島アリーナ(西原商会アリーナ)でB'zのライブがあったことがある。このライブの収容人数が5700人。この時は中央駅からアリーナまで臨時の市営バスがかなりの本数運行されていた。ライブのお客さんはマナーのいい人が多いのか特に混乱があったとは聞いていないが、当日の交通はかなり気が遣われていた印象だ。

それが、下鶴市長が作ろうとしているスタジアムの収容人数は「1万5千人から2万人が最適」だという。この人数が鹿児島県で最も交通量が多い箇所を移動すると思うとゾッとする。スタジアム構想は、景観面や緑地の関係で反対している人も多いが、そもそも交通計画だけを見ても破綻していると思う。

しかし、それすらもこの案件のヤバさの一面でしかない。

それは、これまでの新体育館の検討の経緯を知っている人からすれば明らかだ。

県の新体育館は、現体育館が1960年の建設で老朽化しつつあったため、もともとは1985年~94年度までの10年間に新設する予定だった。ところが、なぜだかこの計画は棚上げされ、2008年に伊藤祐一郎知事(当時)が、県庁東側(与次郎2丁目)に体育館を整備することを表明したことで動き出す。

県庁東側の土地はMBCの所有地だったが、その取得交渉の過程において県有地のドルフィンポート敷地との土地交換が俎上に上がると、伊藤知事は「むしろドルフィン敷地に県体育館を建てた方がいいのでは」と心変わりし、計画を拡大して「スーパーアリーナ」と呼ばれる構想を発表した。これが2013年。

「スーパーアリーナ」は「飲食店や展望スペースを備え、イベント会場としても利用できる、多くの人々が集う機能を有した総合的な施設」だということだった。ところがこの案は空から降ってきたような話で、内容の是非以前に唐突なことだったため県民の理解が得られず2015年に撤回。

2017年には三田園知事(当時)が、事実上凍結されていた新県体育館を早期整備することを表明し、2018年には鹿児島中央駅西口の県工業試験場跡地(武1丁目)を候補地として表明する。

しかしここには交通上の問題が大きく、しかも十分な駐車場が設けられないという致命的な問題があって断念。それで話が戻ってきて、やはり県庁東側はどうか? いや、県農業試験場跡地(谷山)はどうか? と議論が錯綜。結局、2019年には「県庁東側が現実的」としてMBCとの土地の譲渡交渉に入ったところを止めたのが現塩田知事だった。

塩田知事は、これまでの検討経緯が「土地ありき」のもので、「どのような施設が必要なのか」という観点からのボトムアッププロセスが欠落していたことを踏まえ、検討委員会を設けて改めて検討させた。そして委員会があるべき施設の姿を示し、それに応じて候補地を評価して選出されたのが「ドルフィンポート跡地」だった。

私自身は、ドルフィン跡は正直なところ交通の問題など考えても良策とは思えないが、それでも一応公開での議論の下で、透明性をもって検討したことは評価したい。そもそも新県体育館の方針が二転三転したのは、伊藤知事・三田園知事がどちらも「県立体育館をどこに作るかは俺が決める」みたいなことを言っていたためだ。

ここから導かれる教訓は、「県民の施設を、知事の一存でつくるようではダメ」ということに尽きるだろう。

ところが! 下鶴市長はこの経緯を全くご存じないと見える。スタジアム建設は下鶴市長の肝煎りなのでヤル気があるのは理解するが、全く内実が伴っていない。まさに伊藤知事・三田園知事の失敗の二の轍を踏んでいるようだ。

しかもその構想は伊藤知事の「スーパーアリーナ」と極めて近い。核心部分の価値があやふやだから、「これにも使えるしあれにも使える」と計画を肥大させただけのように見える。逆に本当にスタジアムが必要なのか疑問になってきた。

下鶴市長のスタジアム案は、「首長主導」「土地ありき」「あれこれ盛り込む」という、これまでの県体育館構想のダメなところだけを集めて作ったものだとすらいえると思う。

私は南さつま市民である。本来は、下鶴市長のやることにアレコレいうべきではないのかもしれない。しかし県体育館の隣にスタジアムができるとなれば、少なからず影響を受ける。下鶴市長は、これまでの県体育館建設のゴタゴタの経緯を踏まえた上で、わが身を鏡で見てほしい。

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