2020年7月4日土曜日

2020年鹿児島県知事選、全候補者のマニフェストを読んでみた

7月12日は鹿児島県知事選である。

今回は候補者が7人もいる。戦後最多だそうだ。乱立を憂慮する声もあるが、今までが少なすぎだったのでいいことだと思う。

だが正直言って、私も知らない人ばかりで、選ぶのは結構難しい。なので、とりあえず全員の公約・マニフェストに目を通してみることにした。

※公約とマニフェストは厳密には違うが、実際上ほぼ同様なものとして扱われているので、以下の文章では「マニフェスト」に便宜的に統一する。ただし候補者自身が「公約」と表現しているものはそう呼ぶ。

まあ、マニフェストは候補者の人柄とか、能力とかはあまり反映していないかもしれない。言うだけなら何とでも言える、という面はある。私はリーダーは人間性が大事だと思っているが、マニフェストでは人間性はわからない。

でも、候補者の動画を見たり、評判を調べたり、知人に人柄を聞いてみるのを全員に対してやるのは大変だ。マニフェストなら、比較的短い時間で全員を比較可能である。

さらに当初は、せっかく読むなら誰かの役に立つようにマニフェストの特徴をまとめてみようと思っていた。例えば政策の重要視の度合いを「経済5点、医療・福祉3点、教育4点…」などと全員分まとめたら、自分の考えと近い候補者を見つけるのに便利だろう。

ところが実際にマニフェストを全部読んでみたところ、それはちょっと無理だった。7人のマニフェストが形式的にかけ離れすぎているし、具体性の程度が(一人のそれの中ですら)まちまちだ。

だから、横並びでマニフェストを比べることは到底不可能だった。

とはいっても、比べてみて感じることもある。いや、多々ある。みんな、ぜひ各候補者のマニフェストを実際見てみてほしい。まず、マニフェストがどのように掲載されているか、を各候補者のWEBサイトで見るだけでも、その姿勢を感じると思う。

だから、以下のことは、参考程度ですらなく、私のただのマニフェスト備忘録である。気になっている候補者のものだけでも、目を通すことをオススメする。(届け出順)

1.武田信弘

https://www.takedanobuhiro.com/post/%EF%BC%92%EF%BC%90%EF%BC%92%EF%BC%90%E5%B9%B4%E9%B9%BF%E5%85%90%E5%B3%B6%E7%9F%A5%E4%BA%8B%E9%81%B8%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%B9%E3%83%88
「異形のマニフェスト」としか言えないような、変わったマニフェスト。

まず、本題のマニフェストに入る前に、入試不正への糾弾や国家財政の破綻、ハイパーインフレへの懸念、原発事故や大地震への懸念、桜島の噴火についての考察など、とりとめのない小論文のようなものがあり、それが全体の半分以上を占める! その後に「実際のマニフェストはここからです」という注釈が入ってマニフェストが始まる。こんなマニフェスト見たことない!(ちなみに分量も突出して多く、印刷してみたら31ページあった。)

たぶん、「人に自分の書いたものを見てもらう」という意識がなく、溢れる思いだけでつきすすんで書いたものだ(しかも、おそらく、かつて執筆したものの再編集部分をかなり含む)。

ところが、マニフェストに書いていること自体は県政の見える化など、共感できることも多い。施策に具体的なものが多いので(むしろ具体的過ぎるのが難点)、賛否両論あるところと思うが、その異形の形式とは裏腹に少なくとも内容は理解可能である。…と思って読んでいたら「ほとんど選挙で当選できる確率はないと思っていますが」などと平気で書いてくるので油断ができない(笑)

2.横山富美子

https://yokoyama-fumiko.net/manifest/
「この人はこういうことがしたいんだなー」というのが素直に伝わってくるマニフェスト。

サブタイトルが「原発ゼロ・九条実現への道を進めるために」なので、県政とは関係の薄い憲法9条を挙げるのはどうかな? と思ったものの、実際中身を読んでみると、要するに「憲法の理想を具現化しよう」というもので大変共感を持った。

主要政策は、医療、脱原発、県土における軍事基地問題(県内での米軍訓練や馬毛島)の3つで、さらに重要政策として子育てや農林漁業、雇用環境改善などが挙げられ、特に医療や福祉の充実、人権の重視などは強く謳われている。

ただし、経済振興についてはあまり触れられず、医療・福祉についても財源への配慮は感じられない。それは短所でもあるが、重視していることがダイレクトに伝わってくるという意味では、「結局何がしたいんだよ!」というような総花的公約よりもずっと理解可能だ。

全候補者の中で、最も素直で平明・率直、身の丈にあった自分の言葉で書かれた好感の持てる内容である。

3.青木隆子

https://aoki.ryuko.online/manifesto/
SDGs(持続可能な開発目標)の推進が謳われたマニフェスト。

「たいせつなのは「いのちと暮らし」、誰ひとり取り残さない鹿児島」をサブタイトルに掲げ(「誰ひとり取り残さない」はSDGsの誓い)、医療・福祉・教育・脱原発・人権重視など横山氏のマニフェストと内容はかなり近い。ほとんど経済振興について触れられていないのも一緒である。違いは、その基盤に「SDGsの推進」を置いていることで、例えばパートナーシップ制度(同性の事実婚制度)の導入などが特徴的である。

私自身、SDGsを県政の柱として位置づけて欲しいと思っているので、その点は賛同できる。ただ、医療・福祉以外についてはあまり具体性がなく、なんとなく薄い(ありがちな言葉を並べた)感じがするのが正直な感想。

4.三反園訓

https://mitazono.jp/manifest/
マニフェストというより、施政方針演説のようなマニフェスト。

特に重点的な項目は存在せず(コロナ対策を除く)、総花的な内容。1期目の評価・反省に基づいてマニフェストを作ってもらいたかった。1期目の反省が何もないので、「引き続き取り組みます」以上の内容は感じられない。

それを象徴するのがマニフェスト最後の項目。曰く「県公共施設等総合管理計画に基づき、公共施設等の管理を総合的かつ計画的に推進します」。県知事としての施政方針演説であれば違和感はないが、マニフェストと言われるとちょっと…。

なお原発問題については、次のように掲載されている。
「川内原発については、新たに設置した専門家の委員会により、特別点検の結果などの確認や安全向上対策、避難計画や原子力防災訓練の見直し、安定ヨウ素剤の配布など、諸問題について専門的見地から意見をいただきながら、防災対策の充実・強化に取り組んでおり、引き続き、県民の安全・安心の確保のため全力で取り組みます。」
当然であるが、現状維持の方針である。

5.伊藤祐一郎

https://www.ito-yuichiro.jp/manifest.html
細部まで考察された、総合的なマニフェスト。

前職なだけあって内容は総合的で、しかも細かい点にも配慮が行き届いている。一番よく考えて作られたマニフェストだと思った。また、マニフェストの最初の方で「重要政策への対応」として、自分の考えをはっきりさせていることも好感を持つ。

例えば、
【原発】福島原発事故後30年で原子力発電を終了させる(ただし川内原発1、2号機の延長問題には触れず)。
【馬毛島】米軍への協力は一定程度やむを得ないが、計画は白紙に戻す。
【大規模開発プロジェクト】基本的に整備を急ぐが、県民の意見をよく聞く。
といった調子である。

これらの微妙な言い方では不満な人も多いだろうが、原発や馬毛島については私の考えと近く、前職としては精一杯踏み込んだ内容だと思う。

また、具体的な項目が多く理解可能である。特にいいと思ったのは、「文化・芸術の振興のため、公共工事費の1%相当額を確保」という点。これは文化後進地域の鹿児島にとって是非必要なことだ。

ただ残念なのは、やはり政策のセンスが古いことである。鹿児島中央駅付近に「屋外大型ビジョン(街頭ビジョン)の設置を検討します」なんかは、正直うげーっと思ってしまう。

全体的に前職の経験が活かされ、ちゃんと考えて立案されたものだという印象を受けるが、逆に言えば多くが旧来の政治の延長線上にあるとも言える。とはいえマニフェストとしての完成度は、全候補者の中で一番だ。

6.塩田康一

https://shiotakoichi.com/policy
前九州産業局長だけあって、経済関係が充実したマニフェスト。

簡潔ながら総合的で、無難にまとめられているという印象。それでも、川内原発については「3号機の増設は凍結」「1、2号機の20年延長については(中略)県民投票を実施します」とはっきりしているのがよかった。また、新人にしては提言が具体的であり、要点がはっきりしている。

特に経済関係については、アジアとの関係を重視して鹿児島を国際都市にすることを目指し、農林水産業の振興や中小企業の育成・起業に力を入れるという内容で、全候補者の中で最も理解できる経済振興策だった。ただその中身は、既存の施策をうまく活用していくというものなので、あまり真新しい感じはしない。離島振興を特に重視しているのもこのマニフェストの特徴。なお随所に「稼ぐ力」を引き出す、といった表現があるが、これはよくわからなかった。

逆に、教育や文化についてはかなり弱い。特に教育は「ふるさとに誇りを持てる郷土教育の充実を図ります」という、本質でないところが一番に掲げられていて残念である。鹿児島は大学進学率が全国でも最下位に近いので、進学率の向上や初等中等教育の充実が全く視野に入っていないのは物足りない。

7.有川博幸

https://www.arikawahiroyuki.com/
スローガン的な公約。

マニフェストではなく「公約」とされている通り、あまり具体的ではなく、全体としてスローガンの集成のような体裁である。

例えば「(1)誇れる鹿児島づくり」という項目では、
・魅力ある農畜水産業の確立 [基幹産業の徹底振興]
・世界に向けた国際観光の促進 [観光産業の世界発信]
・地域・地方の自立と活性化 [地方創生ふるさとづくり]
・循環型社会の推進、実現 [鹿児島モデルの開発促進]
・グローバル社会に向けた青少年教育の促進 [IT社会に向けた能力育成]
が挙げられているが、どれも具体的に何をするというものではなく、「こういうことを頑張ります」という熱意の表明という感じである。

ほとんど全体がこういう調子で、具体的に書いている項目においても細かい説明はないのでなんとも判断しがたい。唯一はっきりとわかったのは「桜島〜鹿児島市間の鹿児島レインボーブリッジの実現」ということだが、正直、時代遅れの大規模開発プロジェクトだと思った。

全体として、よく言えば「夢のある内容」を並べている感じ。しかしいずれにしても、具体的内容に乏しくスローガン的なのが弱点。分量もA4で1枚分くらいしかなく全候補者の中で最も少ない。

*******

…冒頭に書いたとおり、これはあくまで私の備忘録なので、これを参考にして投票先を決める、というようなことはオススメしない。そうではなくて、これを読んで「へー、この人のマニフェストを読んでみようかな」と思ってもらうことがこの記事の目的といえば目的である。

これまで、鹿児島県知事選の投票率はかなり低迷している。せっかく戦後最多の候補者が出馬してくれた選挙である。投票率の方も、戦後最高となってほしいと願っている。


【参考】鹿児島県知事選マニフェストまとめ
https://note.com/taberukoto/n/n7998fbbd03c3
長島町の地域おこし協力隊をしていた方がまとめた記事。
※ただし、塩田康一候補についての記述は、同候補がちゃんとしたマニフェストをアップする前に書かれています。

4 件のコメント:

  1. 私はマニフェスト読んでいなかったので、大変参考になりました。
    有難うございます。4時間かかって読まれた苦労、どれ程かと・・・

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    1. マツケンさん、ご高覧ありがとうございます。苦労っていうほどでもなく、割と面白かったです(笑)でもその面白い部分は、この記事には書いておりません。

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