2020年4月12日日曜日

鹿児島を理想郷にするために一番大事なこと

7月に鹿児島県知事選がある(はず、コロナウイルスの影響で延期されなければ…)。

それで、この機会に新知事(現職が再選されたとしても)にぜひ取り組んで欲しいことがあるので書いておきたい。

それは、男女共同参画社会の実現である。これこそが、鹿児島にとっての最重要課題だと言っても過言ではない。

ちょっと待ってよ! と多くの人は言うだろう。「それよりも、全国でも最低水準の県民所得を何とかしてよ」とか、「基幹産業である農林水産業の振興が急務!」とか「人口減少・少子高齢化社会の対応こそが喫緊の課題だろ」とか。

もちろんそうした問題は大事である。そして男女共同参画なんかは「そりゃ大事かもしれないけど、余裕がある時にやればいいんじゃない?」というような話かと思われている。

だが私はそれは全く間違いだといいたい。

というのは、鹿児島の発展を阻んでいる最大の要因は、女性に対する差別なんじゃないかと思うからだ。

その理由をちょっと説明させて欲しい。

鹿児島は「優秀な人材がどんどん流出していく」という問題を抱えている。最も出来がいい高校生は東京の大学に行き、大概は東京の企業に就職するからだ。ところがこれには明確な男女差があり、女子生徒はあまり県外に出ていかない。

それどころか、女子生徒は大学にすらあまり行かせてもらえない。鹿児島県の女子の大学進学率は35%未満で、毎年全国最低である。ちなみに男子の進学率も40%程度で全国的にドベに近く、鹿児島県は大学進学者自体が少ない(ちなみに全国平均は53%くらい)。それでも男子の進学率は、女子のそれよりも5〜10%高い。このジェンダーギャップが鹿児島は大きい。男尊女卑のイメージがある九州内各県で比べても大きい。

「データえっせい」より引用:2019年春の大学進学率
【参考】データえっせい ← ※このブログを書いている舞田さんは鹿児島県出身
都道府県別の大学進学率(2019年春)
都道府県別の大学進学率(2018年春)
都道府県別の大学進学率(2017年春)

もちろん、鹿児島の女子が男子(や他県の女子)に比べ頭が悪いということはないから、他県だったら大学まで行っているような女子が、鹿児島県の場合は行かせてもらえない、ということを意味する。「女の子が大学に行く必要はないだろう。行かせる金もないし」で、優秀な女子生徒が満足な教育も受けずに地元の零細企業で働いているのである。

これ自体が大変な問題である。大学進学率を引き上げるのはお金の問題もあるからさておいても、男女の進学率は等しくあらねばならないと私は思う。けれども、今はその問題はひとまず措く。

それで、こうした状況の結果、良し悪しはともかく、鹿児島は、一流の男性は東京に流出していってしまう一方、一流の女性はさほど流出していない、という現状がある。

実際、自分の高校の同級生など考えても(一応、鶴丸高校という鹿児島の進学校の卒業です)、出来のよかった男の友達などほとんど本社東京の企業に就職しているのに、女の友達についてはかなりの程度地元に残っている。

鹿児島の女性には、男性に比べ優秀な人が多いのだ。

管見の限りでも、鹿児島でのキラリと光るプロジェクトには、必ずと言っていいほど女性が裏方で大活躍している。仕事が早くて正確で、気のきく女性がとりまわしていることが実に多いのである。

ところが、やはりプロジェクトの代表は男性であり、ほとんど仕事の中核を担っているその女性が、全然大した給料をもらっていないことも、また呆れるほど多いのだ。

要するに、鹿児島の女性には優秀な人が多いのに、正当に評価されていない!

そして、より損失が大きいと思うのが人事面だ。そういう優秀な女性は縁の下の力持ちみたいな立場ばかりで、プロジェクトリーダーみたいに前面に立つことは少ない。当然、課長や部長になる女性は少ない。市役所なんかは女性職員の方が多いのに、幹部職員になると急に男性ばかりになる。本当は幹部職員になるべき優秀な女性が影に隠れ、さほどでもない男性が幹部になってしまっている。

鹿児島県の事業所の課長相当職の女性比率は、2016年でたったの14%しかない。

【参考】県の女性活躍の現状について|鹿児島県
http://www.pref.kagoshima.jp/ab15/kurashi-kankyo/danjokyoudou/joseikatuyaku/joseikatuyakunogenjo.html

でも、経済でも、行政でも、パフォーマンスを上げる最高の策はいつでも「優秀なリーダーを選ぶこと」なのだ。優秀な女性にリーダーをしてもらった方が、経済も発展し、行政もよりよくなるに決まっているのである。

しかし、現実に人事を担当している人は言うかもしれない。「そんなこと言っても、女性が幹部職員になりたがらないんだもん」と。確かにそれはそうだ。

鹿児島には「女性が表立って活動しづらい風土」がある。男が前面に立った方が、何かとスムーズにいく。そういう風土から幹部職員を避ける女性も多い。でも同時に、女性が家庭の仕事のほとんどをしているという現実もある。幹部職員になっても、毎日の食事を作り、風呂を沸かし、洗濯をし、日々のこまごまとしたことをこなしていかなければならない。仕事と家庭の両立が困難だから、幹部職員を辞退している女性もまた多いのである。

単純化して言えば、一流の女性の力が活かされず、二流の男性が動かしているのが、鹿児島の社会なのだ。

そして優秀な女性ですらそんなに割を食っているのだとすれば、普通の女性はもっと割を食っていると考えるのが自然である。私は、鹿児島の女性がひどく差別されて苦しんでいるとか言いたいわけではない。鹿児島の女性は男性をうまく立てながら、したたかに立ち回る術をわきまえている。鹿児島のオバチャンにはとても元気で人生を楽しんでいる方が多く、「男尊女卑だから女性は泣いてばかりいる」なんてことはないのである。

だが、差別とは構造的な問題である。確かに鹿児島の女性は見えない何かで縛られている。自分の能力を十全に発揮させてもらえない状態にあるのである。

そもそも社会はだいたい半分ずつの男女で構成されている。その半分を縛るということは、片方の足を縛って歩いているようなものだ。鹿児島県は、ただでさえ僻地にあり、人口減少・高齢化に苦しんでいる。にも関わらず片足を縛って歩き、他の地域と競争していかなくてはならない。こんなバカな話はない。まず、その縛っている見えない何かを解くべきだ。

女性の力をちゃんと発揮すること、これは、単なる人権問題ではなく、経済を成長させる原動力になり、産業の振興に繋がり、また人口減少問題にも有効な手段なのである。女性が家庭から出て働くことは、一見出生率の減少を招くようだが、女性が働きやすい社会とは、子どもを産み育てやすい社会でもあるからだ。

だから私は、男女共同参画社会の実現が、鹿児島にとっての最重要課題だと言いたいのである。それは人権問題であるに留まらず、経済政策として推進するに足るものである。「経済政策としての男女共同参画」を、鹿児島県は進めるすべきである。

ただしこの論理展開には一つ注意しなければならないことがある。仮に経済的に不利になる場合でも男女共同参画は進めなければならない、ということだ。それは経済よりもっと大事な、人権に属する事柄だからである。だから「経済的に大事だから男女共同参画を進めなければならない」のだと勘違いしてほしくない。 そうではなく「鹿児島県の場合、幸いにして男女共同参画に経済合理性があるから、強力に推し進められるはずだ」と言いたいのである。

じゃあ具体的に何を実施すべきか?

これまでの男女共同参画政策は、市町村に計画を策定させたり、講演会を開催したりといったあまり実効的でないものが多かった。でも鹿児島県の意識の遅れを考えると、強力なアファーマティブ・アクション(差別是正のための優遇措置)が必要である。例えば、商工会・商工会議所の補助金で、女性幹部職員の比率で露骨に補助率が変わるといったようなことだ。女性の経営者なら補助金取り放題で、無利子融資が受けられて、それどころか税金も割引にするっていうくらいやったらいい。私の言う「経済政策としての男女共同参画」はそういうものである。

またそれとは別に、女子学生への教育の提供も進めなくてはならない。優秀な女子学生が大学にすら行かせてもらえないというのは社会的損失だ。女子への給付型奨学金を創設すべきだ。また現状で「女子は短大で十分」といった意識があることも踏まえ、鹿児島県立短大の教育の充実(予算を増やす)、私立の女子学校(鹿児島女子短期大学、純心女子学園など)への大幅な支援も行うのが有効である。

そうして初めて、鹿児島はようやく平均並みの「男女平等」が実現できると思う。 そしてそうなった時、鹿児島の経済は全国ドベの状態から脱出できると確信する。

今般のコロナ禍においても、台湾の蔡英文総統、ニュージーランドのアーダーン首相、ドイツのメルケル首相など、世界の女性リーダーが非常に頼りになるのを見せつけられた。政治家などは人々の意識を先導しなくてはならないのに、日本の場合は普通の人より意識が遅れたオジサンが政治を率いているのが悲劇である。鹿児島の新知事には、21世紀に生きる人間として真っ当な人権意識があることを見せつけて欲しい。

私は、鹿児島という土地が大好きである。でも、一つだけいただけないのが女性差別が激しいことだ。女性差別さえなくなれば、鹿児島はほとんど理想郷みたいなところである。「鹿児島から第二の維新を!」というのがよく言われるが、私はそれを率いる第二の西郷さんは、女性であって欲しいと思っている。

「どーせ鹿児島は歴史的に男尊女卑なんだから」などというなかれ。明治期までの鹿児島はそうでもなかった、ということを昔ブログに書いたことがある(下のリンク)。未来は変えられる。新知事には男女共同参画社会を実現させることを強く期待したい。

(つづく(男女共同参画以外にも言いたいことがあるのでついでに書こうと思います))


【関連ブログ記事】
鹿児島は歴史的に男尊女卑なのか
https://inakaseikatsu.blogspot.com/2015/09/blog-post.html

農村婦人、婦人部、農業女子
https://inakaseikatsu.blogspot.com/2016/03/blog-post_17.html
 

2 件のコメント:

  1. 当事者である鹿児島の女性から賛成のコメントを差し上げるのは自分を過大評価しているようでおこがましくも感じるのですが、私の職場でも結婚して妊娠した方が主任→職責辞退した方がいます。女性だけが妻としての業務・母としての務めを結婚・出産と共に新たに課せられているのは私も感じながら子育てと正社員を続けてきてこの春子供が成人して副主任→主任を拝命しました。前述の職責辞退した同僚も然りですが、女性もその能力を存分に発揮できる環境を整えることはその会社のみならず県全体にとっても大きな財産になると思います。

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    1. ご賛同の声をいただきありがとうございます。ぜんぜんおこがましくないですよ! そしてご昇進おめでとうございます。
      以前、市役所の男女共同参画担当の方に「役場こそ率先して男女共同参画しなきゃならんのですから、講演会なんかやってないで、男性がご飯を作る日とかやりましょうよ、役場の中だけでも!」と言ったんですが、「実際難しいですね…」と言っていました。その方(女性)も、家庭と仕事の両立に葛藤しつつ奮闘していらっしゃる方でした。それくらいできる鹿児島県にならないといけません!

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