2014年3月9日日曜日

農協職員は、なぜ共済のノルマで苦労しなくてはならないのか

毎年ある時期になると、農協(JA)の職員の方からの「○○共済に入りませんか?」という勧誘活動が盛んになる地域が多いと思う。

農家からすれば、「ちょっとめんどくさいなあ」という程度のことだが、JA職員の方はノルマがあるから必死である。ノルマを達成できなかった場合のペナルティが何なのかは知らないが、自分自身が(半ば無理矢理)共済に加入させられたり、親兄弟を人身御供(?)に献げなくてはならない場合があることを考えると、随分厳しいのだと思う。

このせいで、JAを離職される方も多いようだ。ノルマが達成できないとか、あるいはノルマのことを気に病みながら働くくらいなら辞めた方がマシだ、と思うのだとか。

では、どうして農協職員は共済のノルマでそんなに苦労しなくてはならないのだろうか? というより、共済のノルマ以外ではさほど苦労している様子はないが、共済のノルマが突出して厳しい理由はなんなのだろうか?

その答えは、先日書いた長々しい記事の内容と関係がある。共済のノルマの背景にあるものを正確に理解している人は少ないと思うので、JA南さつまを例にとって説明してみよう。

冒頭にJA南さつまの事業収益の図を再掲したが、この図で言いたいことは、JA南さつまの主な収益源は、「肥料や農薬の販売」「保険業(共済事業)」「銀行業」の3つであるということだ。青色で表されている粗利を見てみると、この3つの事業だけで25億円くらいを稼いでいる。

さて、組織を維持していくには相応の利益が必要になるが、利益が目標に届かないことが予見される時はどうにかしてこれを確保しなくてはならない。上の3つの事業以外は利益が僅かであり、仮に増益してもタカが知れている。であるから、全体として増益を図るためには、「肥料や農薬の販売」「保険業(共済事業)」「銀行業」のどれかの利益を増やす必要がある。

しかし、「銀行業」の利益をにわかに増やすのは難しい。貸し付けは急に増やせるものではないし、JAが相手にするのは農家であるから利益率のよい大規模貸し付けはそもそも少ない。各地域のJAに案件形成(貸付を要する事業を提案)する能力も体制もない。

「肥料や農薬の販売」も同様だ。肥料や農薬は作付の時点で所要量が決まり、企業努力によって増えるのは僅かである。そしてそれ以上に、「肥料や農薬の販売」の利益率は他の事業に比べて極端に低いということがある。利益率が10%程度であるため、例えばJA南さつまの場合、この事業でさらに1億円稼ごうと思えば、10億円以上売り上げなくてはならない。

しかし、「保険業(共済事業)」は利益率が800%以上ある! 利益が足りない時に、真っ先に力を入れるべきなのは共済の契約獲得であることは自明の理である。それに、農協職員をそれぞれ推進員として契約を獲得させれば、本人はもちろん親、兄弟、親戚が「つきあい」で共済に加入してくれる可能性が高い。共済は、掛け捨てでなければ一種の貯蓄でもあるから、不要不急の契約であっても無駄ではないという強弁もできる。

だから、農協職員は共済のノルマ達成にアクセクすることになる。営業には向き不向きがあるので、こういうのが得意な人、顔の広い人はよい。でも苦手は人は多い。そもそも、共済の契約をバンバン取りたくて農協に入った、というような人はもの凄く少ないはずだ。

JAというと、仕事のやり方が役所的であるとか、怠惰だとか、無駄が多いとか、とにかくいろんな悪口を言われていて、それらは「民間企業的な意識がない」と集約できると思うが、私はそれは間違いだと思う。事実、共済のノルマ達成に関しては民間企業なみの厳しさがあり、熱心さがあり、組織的一体感(?)がある。なぜ、共済事業だけ「民間企業なみ」なのか?

それは、上で見たように、共済事業こそがJAの収益の主戦場だからなのである。JAも普通の民間企業と全く同じなのである。組織を維持していく利益を生むために、必死に取り組んでいるのだ。

先日の記事で書いたように、一般の人がJAの主要事業であると思っている「農産物の販売」は受託販売であるために、(手数料収入はあるけれども)基本的には農協の利益にはならない。利益にならない事業にかまけていられないのは、民間企業ならば当然である。つまり、JAは「民間企業的な意識がない」のではなく、完全に「民間企業的な意識」を持っているから農産物の販売に関してはさほど熱心ではないのである。

農協は、法律に守られて肥大化し、補助金を当てにし、本来的に怠惰な組織になってしまったと嘆く人がいる。しかし、実際はそうではない。農協も、適切なインセンティブが設定されれば必死に動くのである。私は、JA職員が共済のノルマ達成にかけるエネルギーを「農産物の販売」に振り向けるようにすれば、素晴らしい結果が待っているはずだと夢想するものである。農協は、農産物の販売を利益の主戦場にするべきだ。そうすれば農協の職員が共済のノルマ達成に苦労する必要もないし、農家にとっても喜ばしい。

先日、全中(全国農業協同組合中央会)が発表した「JAグループ営農・経営革新プラン(案)」でも受託販売ではない「契約・直販」への支援を強化することを謳っており、それはいいことだと思うが、より踏み込んで欲しいというのが私の期待である。すなわち、共済事業の利益をあてにしなくても、農産物の販売で利益を生み出せるよう制度を変更することが必要ではないだろうか。

2 件のコメント:

  1. JA共済の推進がきついのは以下の理由によるものです。
    ①JAでは毎年事業計画を立てますが、ご指摘のように信用業務、購買業務、販売事業は
    薄利であることと、現在の農業情勢からして頭打ちの状況から、利益率の高い共済事業で儲けようとするらです。
    ②具体的には、たとば新契約時に10万円の掛け金をいただいとすると、JAには約4万円の契約奨励金がJA共済連から支払われます。
    ③JA共済は本来は農家組合員を対象にした事業ですが、農家以外からも契約の取得が必要なのが現実です。共済は長期間にわたり高額の掛け金を収めることから、利用者は限られてきます。そのために、現実と事業目標にギャップがあるのです。要するに、最初からまともなやり方ではノルマをこなせない仕組みになっているのです。
    これを事業計画を立てる幹部職員が無知または承知で行っています。
    ④それでも、ノルマを達成する職員もいるのではないか?達成できないのは、職員の努力不足だといわれることがあります。努力は否定しませんが、問題はその方法です。私の知る職員は、生活苦のため解約の相談に来た組合員の生命共済をいったん解約させ、その解約金で、これまでと同様の共済に加入させていました。私が、それなら減額などの方法も説明したのかというと、こうでもしないとノルマが達成できないでしょと言われました。こういうことをするのは、たいてい厚かましい女性職員ですが、不幸なことに若くして故人となられました。この女性職員は、セールス表彰を受けた人ですが、私は優秀だといわれる共済LA(推進員)については疑いの目で見ています。まともな職員は、そこの家の家庭の状況に合わせて、適切な共済をおすすめしますが、それだとノルマが達成できず、自身の良心との間で苦しんでいます。
    ⑤解決策について、共済のノルマは昔から指摘されていますが、職員労組である全農協労連ではほとんど取り上げられてきません。これは、労組幹部が面倒にかかわりたくなく避けているからです。優秀な人材は見当たらず、いわゆるダラ幹です。これには期待できません。
    ⑥私のJAでは、共済はその部門の職員で行います。部門の職員の人数に掛け算して総目標が決まる仕組みです。たとえば目標額10億円×15人=150億円と。
    当JAの適正目標額を100億円とみつもると、150億ー100億=50億円が、推進員を苦しめるノルマとなります。
    要するに、推進職員を5名減らして、その分目標額も50億円へらせばよいのです。
    その分収益も減りますが、人件費もへります。
    当JAに関しては、共済収益の約95%は既契約分の管理収益です。新契約分は5%に過ぎません。それも、転換契約が主流ですから、解約させて新しいものに入らせるといううものですから、保有高の増加にはつながっていません。
    この続きは、ご希望があれ、ば次回投稿いたします。50代 男  東北地方




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    1. 丁寧にコメントいただきありがとうございます。

      東北ということですが、状況はほとんど同じなんですね。まあ収益の構造なんかが同じだと思うので同じなのも当然かもしれませんが…。最近は変わってきているかもしれませんが、農協の幹部職員でも「ノルマ達成できてこそ一人前の農協職員」とか思っている方が多いでしょうから、この状況はなかなか変わらなそうですね…。

      ところで、私が疑問に思っているのは、こういう問題はほかの保険代理店業でも存在しているのだろうかという点です。一般の保険代理店でも、収入は新規獲得と毀損契約の管理料だと思うのですが、こういうノルマ問題があるんでしょうかね…。管見では、そういう問題があるところも知っていますが全体がそうなんでしょうか。保険業を営む限り不可避的な部分と、農協特有の事情と、そのあたりの構造がどうなっているのか興味あります。それで、全共連の財務諸表を見てみたのですが、専門知識がないと読み解けない資料でした。真面目に研究してみると面白そうです。

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