2013年10月28日月曜日

お米の皆掛重量を巡る議論

皆掛(かいかけ)重量というのを聞いたことがあるだろうか? これは、中身の重さと袋の重さを合わせた重量のことであり、つまり
皆掛重量 = 正味重量 + 風袋重量
である。

お米(玄米)を紙の米袋で鹿児島のJAに出荷する場合、正味重量の規定は30kgなのだが、皆掛重量で30.5kgに詰めて出荷しなければならない。要は、中身は本来30kgでよいのだが、(中身の重さだけ量るのは不可能なので)袋の重さがある分、少し重めに詰める必要があるというわけである。

問題は、紙袋の重さが500gなのかというと、実はそうではないことである。袋の重さは、大体230g程度。ということは、中身は30kgちょうどではなく、余計に270gくらい入っていることになる。この余計に入った270gは、一体何なのだろうか? JAが農家から買い取るのはお米30kg分であるので、この270gには何も支払われない。たかが270gであるが、例えば米袋を400袋出荷するような農家であれば、このお金が支払われない分は全体で100kgを超える。玄米100kgというのは2万円くらいだと思うが、この2万円はJAへの見えない上納金なのだろうか?

この点を先輩農家Kさんがよく問題視しているので、他の地域ではどうだろうと思いインターネットで調べてみた。鹿児島は30.5kgだが、鳥取は30.6kgだし、この「余計に何グラム入れるか」というのは地域差がある。この地域差がどのような法則で生まれているのかを見つければ面白いかもしれないと思ったのである。

だが、調べ始めてすぐに分かったのは、この情報はほとんど公開されていないことだ。最初は全県のJA(経済連)の皆掛重量をまとめようと思ったがそれはインターネット経由では不可能だった。というわけで、検索にひっかかったところだけまとめてみた(順不同)。

30.5kg…新潟、富山、秋田、石川、福島、広島、山口
30.6kg…北海道、栃木、福岡、島根、千葉、鳥取

なんとなく、米どころは30.5kgで、そうでもないところは30.6kgなのかとも思うが、北海道が例外になっているし、正直30.3kg〜30.7kgくらいの開きがあるのではと期待していたのに、意外と全国で皆掛重量は同じくらいだった

が、一つ注目すべきポイントがある。それは、近年皆掛重量が重めに改訂されるケースが散見されることである。例えば、山口では2011年に皆掛重量が30.3kg(おそらく、その時点で全国最軽量だったと思う)から30.5kgに改訂されている。その理由は、「検査時等のサンプル抽出、含有水分の変化によっては出荷時に正味重量が30kg未満になる可能性があることから」とのことで、これは他の改訂した県(例えば千葉県)でも大体同じである。JAは農産物の卸業者であるから、組合員から買い取ったお米を業者へ売るわけだが、その時に正味30kgあるはずが30kgないということだと、業者からクレームが来るわけで、そのために皆掛重量が改訂されているのである。

問題は、改訂の理由に挙げられている「含有水分の変化」である。お米は乾燥機で14.5%とか15%くらいに乾燥させることをJAは求めているが(これも県ごとに違うかもしれない)、JAの倉庫で乾燥が進み上限水分量から下限水分量へ変化したとしてもその重量変化は150g程度なはずである。というか、本来、お米を適正に保管すれば水分量の変化はないはずで、保管をちゃんとしていない責任を棚に上げ、「含有水分の変化によっては出荷時に正味重量が30kg未満になる可能性がある」との理由で皆掛重量を200gも引き上げたのは、他県のことながらびっくりだ。

ただ、お米を含有水分量を変化させず、温度湿度一定で保管するためには結構な施設が必要である。JAの施設は結局は農家の負担(と国や自治体からの補助金)で出来るわけだから、高額なお米の保管庫を建設して農産物の買い取り金額が下がっては本末顚倒な気もする。お米の保管庫が貧弱なJAの場合、皆掛重量が重めに設定されるのは仕方ないのだろうか?

そのように考えると、お米の皆掛重量を何kgに設定するかに、正解があるわけではなさそうである。皆掛重量を30.5kgから30.6kgに改訂した千葉の場合、改訂に合わせて「千葉県産米の評価向上のため、ご理解とご協力をお願いいたします」と呼びかけている。おそらく、競合している産地のお米が30.6kg入りであったために、米の仲買業者から千葉産米は(100gの差とは言え)正味重量が少ない、と思われており、結果として改訂に至ったのではないかと思われる。近年皆掛重量が重めに改訂されることがあるのは、米余りで買い手市場になり、元売り(JA)の力が弱まっているということかもしれない。

だとすれば、私の考えでは皆掛重量の適正値は30.4kgである(※)が、他県のお米が30.5kgで売られている中、鹿児島JAだけが30.4kgで売り出せば、仲買人からの評価が僅かではあれ下がり鹿児島県産のお米の売れ行きが悪くなるのではないだろうか。では皆掛重量はどう決めるべきなのか?

ここまでくだくだしく書いておきながら結論が大変つまらないが、その答えは、JAの組合員がよく話し合い、議論し、納得した上で決めるべきものだ、と思う。他県と足並みを合わすのも一つの考えだし、支払われない分があるのはよくないということで皆掛重量を30.230kgにするのも一つの考えだ(最近の計量器は性能がいいので1g単位で計れる)。逆に、他県産と差別化を図るために30.7kgにするという考えもありうる。

ただ問題は、現在の全国のJAはほとんど、この「組合員がよく話し合い、議論し、納得した上で決める」ための組織として当然の仕組みが、全く備わっていないことである。JAは形式的には組合員(農家)が運営する組合員のための機関であるのだが、実質的にはそうなっていない。ではどうなっているかというと、「人民の人民による人民のための政治」が実際には人心と乖離したものになっているのと同じ状況である。

それを誰のせいとは明確にはいえない。利害が対立しがちな様々な農家が同じ組合に所属していること自体が組織として問題があるのかもしれないし、構成員の意見を集約して組織の運営に活かすということが苦手な日本人の性向に由来するのかもしれない。

ともかく、皆掛重量をいくらにするかは、米を出荷する農家が納得することが第一であると私は思うが、納得するための仕組みがないことが大問題である。農業問題においてはJA改革の必要性の議論が随分前から喧しい。いろいろな面で改革が必要なことは事実だろう。どういう改革をどういう順番でやればよいのか、それは私にはよく分からない。しかし少なくとも、「組合員がよく話し合い、議論し、納得した上で決める」という当然のことを、ちゃんとできるような組織になってもらいたいと思う。

※ 皆掛重量(30.4kg)≒正味重量(30kg)+風袋重量(230g)+サンプル検査した場合の予備(40g)+含有水分量が適正範囲内で変化した時に変動しうる重さ(150g)

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