2013年10月25日金曜日

とある米国人の実践する有機農業

この数日、病を得て暇だったので『Organic Farming: Everything You Need to Know』という本を読んだ。米国で有機農業を営んでいる方が書いた本である。

日本の有機農業に対して不審の目を向けるものではないが、どうしても変わり者のための農業という側面があるためか、ハウツー本などを見てもあまり論理的でないものが多い。少し乱暴だが「私はこんなに苦労しました」という苦労自慢、あるいは逆に「こうすれば万事解決する」という魔法の杖型の話が多いように感じ、あまり読む気がしない。

では、ある程度有機農業が市民権を得ている外国ではどうなのだろうと思い手に取ったのが本書である。著者はかつてジャーナリストをされていたようで、その文章は簡潔でわかりやすい。慣行農業への過剰な敵意もなく、有機農業を実践する一人の農家としての等身大の仕事ぶりが伝わってくる。

「知るべき全て」を銘打つ通り、例えば「どのくらいの面積でスタートするか」とか「トラクターの選び方」といった、日本の農業ハウツー本ではなかなか書いていない実践的な知識が満載で、新規就農を考えている人には非常に参考になると思う。


唯一、魔法の杖的なものがあるとすれば、ミミズをたくさん入れた腐葉土で作る不思議な液体(これを著者はworm tea「ミミズ茶」と呼ぶ)で土壌改良をする話くらいで、その他は農業の基本を着実に実践することを奨励しており、斬新な情報はないかわり危なげもない。

その内容を少し記すと、まず作物にとって最も重要なものは土であるとし、これを良好な状態に保つことが枢要であるとする。このために、化学肥料を避けるのはもちろんのこと、C/N比を計算して刈草堆肥を投入するなど物質の投入量を管理し、また、緑肥植物を活用して土壌の状態をよくする。ただこうしたことをしても、土壌の状態がよくなるには数年かかるという。

施肥に関しては、植物に与えるのではなく土自体に与えるという考え方で行うことを求め、そして適切な輪作や混作を行い土壌の生物相が偏らないようにするといった工夫も行う。こうしたことを実践するには大規模農場では難しいので、まずは小さい面積で始めることを推奨し、自然とトラクターなどの農業機械も小さいものを薦める。

そして作物の病虫害を避けるには、何よりも植物体自体を強壮にすることが必要として、そのための第一歩として苗作りを丁寧にすることを求める。よって有機農業ではビニールハウスは必須ということで、ビニールハウスの管理・活用方法を述べる。

また有機農業の経営で最重要なことは販路の確保であるとし、かなりの紙幅を費やしてどうやって独力で市場開拓するかを述べる。著者の実践するのは、日本風に言えば無人販売所(Farm stand)と直売市(Farmers market)、そして会員向け定期便の3つである。そしてそれぞれを独力でどうやって始めるかということになるのだが、基本的には仲間を募り、オペレーションを確立し、交通量の多い所に店を構え、新聞広告を打ち、看板を立て、それでも最初の1年は赤字だから耐え、経営を黒字化するように地道な努力をしなさい、という話である。

また会員向け定期便については、最近米国で勃興してきたCSA(community Supported Agriculture)についてやや詳しく説明する。これは、平たく言うと会費を払う会員に対して定期的に農産物を送るというものだが、日本のそれのように顧客が都市部にいるのではなくて会員は地域のサークルのようなもので地産地消を図るところに特色がある。

全体を通じて印象的なのは、常に消費者の目を意識した経営である。例えば著者は自身の農園でハーブを栽培し、また道路沿いには花を植えているという。ハーブなどは経営的には全く奮わないらしいが、「ここは素敵なハーブも栽培している農園」というイメージを形成することにより消費者からの支持を得ることができるらしい。花を植えるのは、訪問した方の目を楽しませるためで、また来たいと思わせるような農園を作ることが重要という。

米国の農業と日本の農業は全体としてみて大きな違いがあるが、著者の実践するような規模の農業、具体的に言うと軽トラックが活躍するような農業に関してはあまり変わるところはないということが分かった。農業技術の面でも、消費者との関係の面でも、結局のところ真摯に取り組んでいくという以外の王道があるはずもないのである。

TPPや農政改革などを巡る議論において、マクロ的に日米、あるいは他国との比較をやり、大きな違いがあるということを認識するのも必要だが、一方で共通することも多い。特に中小零細規模の農業というのは、どこの国でも似たようなものとも思えるので、同じ部分に注目するということも大事だと思う次第である。それにより、国や制度や気候が違っても普遍的な部分、というのが見えてくるのではないだろうか。

2 件のコメント:

  1. 風狂さま
     おもわず、本名を書いていたので、もしかしたらまずいのではと思い、先のコメントは、削除しました。失礼しました。
     英語の本を読んで、わかりやすく要約できるところが、さすが風狂さまと感心いたしました。
     有機農業の基本は、土づくりと苗作りですよね~。
     風狂さまの農園にも、いつかというか、近いうちに、お邪魔できたらと願っております。よろしくお願いします。

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    1. Hiroさん

      コメントありがとうございます。本当は、章ごとに2行くらいで要約して雑感を付け加えるというやり方で書きたかったのですが、Kindleで読んだら読み直しがしづらく、結局覚えている範囲でざっとしたものを書いてしまいました。よい本だったので、もう少し内容を紹介したかったですね。

      今有機農業とはそもそもなんぞやということを勉強していますが、実践の方はほとんど伴っていないので、少しずつ手を動かして行きたいと思います。

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