2012年5月19日土曜日

鹿児島ではありふれているが、全国的には希少な果物:ビワ

庭にあるビワがたわわに実っている。しかし、剪定をあまりしてこなかったために高木化しており、上の方の果実は収穫不可能。

下の方にある実だけ採ったが、果実の8割は収穫できない高所にあるので恨めしい。8月になったら剪定し、来年はより多くの実が収穫できるようにしたい。

鹿児島ではビワは非常によく見る庭木で、初夏の果物としてありふれているが、全国的には希少価値がある。というのも、ビワはとても傷みやすいので市場流通がしにくく、大都市近郊の限られた産地でしか大規模生産が行われておらず生産量が少ない。埼玉生まれの家内も食べたことがなかったそうだ。ビワを食べてみた第一印象は、「ナシの味に似てる…」とのこと。

 これは鋭い感想で、ビワはバラ科ナシ亜科に属し、ナシとは近縁なのだそうだ。

ところで、ビワは我が国でかなり古くから栽培されてきた植物で、少なくとも奈良時代からの1000年以上の栽培の歴史がある。もっとも、江戸時代以前のビワは小さくあまり甘くなかったようで、実を食べていたと言うより、薬用樹として葉や根を採っていたようだ。今でも、ビワは葉で皮膚病(ニキビとかイボとか)を治したり、ビワ茶として飲んだり、民間療法でよく使われている。

ちなみに、これに関し
仏典『大般涅槃経』の中でビワは大薬王樹と呼ばれ、優れた薬効があると伝えられる。
例えば、「大薬王樹、枝、葉、根、茎ともに大薬あり、病者は香をかぎ、手に触れ、舌で舐めて、ことごとく諸苦を治す」と記されている。
という情報がネットにはまことしやかに書かれているが、これは本当だろうか。

気になって『大般涅槃経』を調べてみたが、そういう記載はない。確かに薬になる樹として「薬王」というのが出てくるが、これがビワであるとは一言も書いておらず、また「枝、葉、根、茎ともに大薬あり…」云々という記載もない。どうも、誰かがうろ覚えで書いたことが広まってしまったように見受けられる。

なお、鑑真が中国から枇杷療法を伝えたという伝説もあるらしい。しかし、こちらの伝説も信憑性は怪しい。もしかしたら、枇杷療法に権威付けをしたい人がお経や鑑真を利用し、故事来歴を捏造したということなのかもしれない。1000年以上続く民間療法なのだから、今さらそんな権威付けなど必要ないような気がするのだが。

【補足】
『大般涅槃経』の英訳はあるが、日本語訳は部分的にしかチェックしていないので、もしかしたら私が見ていない部分にビワ=大薬王樹の記載があるのかもしれない。が、英訳で省かれるようなものではないし、同経の話の筋からして、多分ないと思う。「薬王」の記載も、「仏の教えは薬王と同じくらいありがたいものだ」という譬えの中で出てくる。

【補足2】2012/6/20アップデート
大乗仏典の現代語訳をされている加藤康成先生にtwitterでご教示願ったところ、やはり『大般涅槃経』にはビワの記載はないということだった。これはネットにはびこる誤情報の一つということが分かってすっきりした。加藤先生にはこの場を借りて改めて御礼申し上げたい。

2 件のコメント:

  1. こんにちはえびの人です。

    現在の日置市日吉町の親戚の庭にビワの木があり、昔、食べ放題に食べさせてもらった懐かしい思い出があります。

    ビワの木が庭にあることは、鹿児島ではありふれている気もしますが、ビワがなぜ庭木としてあるのか?と考えると何だか不思議な気がしますね。

    偶然に、私は今日、旅行帰りに日置市の親戚の家を見てきました。家人は亡くなり、別の方が住まれていますが、ビワの木は以前のまま残っていました。
    あのビワの実を食べることはもうありませんが、私に思い出を作ってくれたビワの木のことはいつまでも忘れることはないと思います。

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    1. いつもコメント有り難うございます。

      私も、幼少の頃に食べた家の近くのビワの味は忘れられません。

      どうして庭木になるのかということに関しては、2つの理由があります。

      一つは、ビワの薬効が期待されていたということ。昔は病院に行くということも出来なかったので、それなりに薬樹として利用されていたと思います。ただ、この理由が成立するのは戦前まででしょう。

      もう一つは、ビワの種は発芽力が強く、また成長力が旺盛であるということです。特に気をつけて播かなくても、ビワの種をペッと吐き出して放置しておくと発芽します。こんな強い発芽力を持つ果樹は珍しいのです。リンゴとかミカン類などと違って、ビワの品種改良はあまり行われていないので、野生の頃の形質がよく保存されているのでしょう。

      果樹としてのビワの弱点は、本文にも書いたとおり傷みやすいことの他に、種が大きくて可食部分が少ないことがあります。こんな大きな種がある果実は、市場流通ではかなり不利です。しかしそのせいで、強力な発芽力を有するために庭木としてたくさん利用されているのだと思います。

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