2016年2月18日木曜日

田舎に移住して農業でもして暮らすか、講座(その2)

今回は新規就農について。

この講座は「なんとなく農業でもするか」というような人へ向けて書く、とはしたものの、さすがになんとなくで転職する人は少ないと思うので、「俺はこんな農業がしたい」という明確なビジョンはないとしても、それなりに農業への夢や愛着があることを前提として書くこととする。そうでないと、さすがに新規就農まではしないだろう。

ちなみに、例えば「私は日本一おいしいトマトを作るために就農したい!」というような人は、それはそれでやり方があると思うので、この記事は参考にはしないでほしい。これはあくまで、「田舎で暮らしたいけど、田舎にはちょうどよい転職先がないし、前から農業には興味があったし、農業で暮らしていけるなら農業っていう選択もありかな」と言うくらいに考えている人へのアドバイスである。

(4)農業の学び方

前回書いたように、農業は技術職であるため、まずはその技術を学ばなくてはならない。ではどうやって学ぶかということだが、あらゆる職業について言えるように、その技術のほとんどは書物のみでは学ぶことはできない。だから結局は、この問いは「どうやって学ぶか」ではなく、「誰から学ぶか」という問題に帰着する。

私の場合は、先輩農家Kさん兄弟からたくさんのことを教えてもらった。たぶん、Kさん兄弟がいなかったら就農していなかったと思う。農業を教えてくれる人がいなかったら農家には絶対になれない。実は正直言うと、こちらに来たときは林業を仕事にしようかと思っていた。林業なら、森林組合で働けばそこでいろいろ教えてもらえる。でも農業を教えてくれる人がいるなら、そっちの方がいいと思って農家になった。今でも山仕事を自分の生業の一つにしていけたらいいなと思っているが、職業として考えると、林業よりも農業の方がずっと自由度が高く、創意工夫の余地がある。

話が少し逸れたが、農業を学ぶためにはまず「先生」に出会わないといけない。 でも移住する前からそんな「先生」がどこにいるか分かるわけもないし、移住した後でもそんな人がなかなか見当たらないということだってある。

ということで、農業を学ぶのに一番無難な方法は、いろいろな団体がやっている農業の研修に参加することだ。例えば農業公社の研修なんかでもよい。農業公社というのは、農業にまつわるいろいろな事業を行うために自治体が設置している公共企業である。この農業公社が、1年とか2年、素人を研修生としてやとって農業のやり方を教えてくれる制度がある。でも農業公社の研修を受けた人というのを個人的には知らないし、あまり評判も聞かない。南さつま市の農業公社の研修プログラムを見てみても、研修を受けられる作物が1〜2種目しかなく、独り立ちするに十分な内容を教えてくれるのか未知数である。ただし、賃金が払われるということが農業公社のいいところである。一度話を聞きに行くのがよいと思う。

また、農業大学校が社会人向けに提供している各種の研修プログラムもある。これも期間は1年くらいのものがよい。1年かけて、様々な作物の育て方を学ぶような研修だ。鹿児島農大のやっているこの種の研修はけっこう実践的でいいらしい。農大では年中いろんな研修をやっているが、単発のものではなく、主に実技を訓練する長期間の研修を受けるのが効果的だ。講座方式の、座学ばかりの農業塾のようなものは、いくら受けてもあまり意味はないような気がする(でも別に実践を教えてくれる人がいるならこれはこれで参考になる)。

他にも、農家に研修生として受け入れてもらうという手もある。農水省がやっている「農の雇用事業」というのがあって、先進的な農業法人等に研修生として受け入れてもらって、その費用の一部が補助される仕組みが利用できる。積極的に受け入れをやっているところがあれば、これも使える制度だ。しかしこの場合も、結局「人の縁」の側面があるし、どんなことを学べるかは受け入れ先の農業経営次第なので、確実性を求めるなら公の機関が準備している研修に参加するのがいいだろう。

なお、農業に携わっていない人からすると、1年も研修を受けるのは随分と悠長な感じがすると思うが、農業は3年してやっと他の職業の1年間の経験ができると思った方がよい。作付は1年に1回しかできない作物も多いし、何しろ全ての季節を経験するにはどうしても1年間の研修が必要である。1年間研修するというのは一見長いように見えるが、これは普通の職業訓練でいうと4ヶ月くらいの内容に相当すると思う。

(5)畑の見つけ方

移住してどうやって畑を見つけるか、ということだが、農業公社や農法業人の研修を受けた場合は、かなりの程度研修先が土地の斡旋をしてくれると思う。農大の場合はそういうことをしてくれないが、いずれにしても1年間も研修を受けていたら、その間にそれなりの人の繋がりが出来ていると思うので、畑を貸してあげるよ、という人が現れるはずだ。

ただ、新規就農の場合は不利な条件の畑しか選べないということは覚悟するべきである。巷では耕作放棄地の増加などが報道されて、農地はいくらでも余っているというイメージがあるがそれは実態と全然違う。耕作放棄されているのは、山の中にあって、狭くて傾いていて不整形で、日当たりが悪かったり車が通る道が近くまでなかったり、石だらけの土地だったりする。そういう、耕作に適さない土地が放置されるのは当然なのだ。逆に、生産性の高い農地(人里に近く、広くて平坦で四角く、日当たりがよく、道が通っていて、土質がよい土地)は引っ張りだこである。

だから、新参者に貸せるのは、他の農家がやらないような条件の悪い土地になる。といっても、極端に条件の悪いところ(道がないところだけは辞めた方がよい)を避ければ、最初の一歩としての農業なら、そういうところでもそれなりに活用できると思う。高齢化で耕作を辞めていく零細農家が多いのも事実なので、焦らなければ全く見つからないということもないだろう。

ちなみに、農地というものはおいそれと買うものではないので、農業=農地を買わなくちゃ、と考えている人がいるとしたら修正して欲しい。農地は農地法という法律で保護されており、原則として耕作者以外に売ることができないので、まだ耕作していないうちに農地を手に入れることはできない。なので、最初の農地は誰かから借りるということで始めなくてはならない。

農地の賃借料の全国的な相場は知らないが、この付近では10aあたりで(条件の悪いところは)田んぼや畑で5,000円/年くらい、果樹の植わっている樹園地で7,000円/年くらい、耕作放棄地で2,000円/年くらいだろうか。でも人の縁があるならば、これは全てタダになる可能性があるので、相場というのはあってないようなものである。しかしこれらの金額を払ったとしても、農地を借りる費用というのは、面積が広くなければそれほど高くはない。

都合よく縁あったとして、最初にどれくらいの土地を借りたらよいのかということだが、1年間の研修を受けたとすれば30aくらい、近くに「先生」が見つかって、その人に教わりながら農業をやってみるとすれば10aくらいがよいのではないだろうか。10a=1000㎡なので、農業で生活を立てるには不可能な相当狭い土地だが、最初はどうせ生活は成り立たないので、しゃかりきになって広い農地を相手にするよりも、10aでいいからいろいろ試行錯誤したり、真面目に管理したりする方が、遠回りでも勉強になると思う。

(6)農業用倉庫の作り方

農業を経営していくには、絶対に必要な施設設備が3つある。第1に先述したとおり農地、第2に農機具、第3に農業用倉庫である。農地と農機具(トラクターなど)はイメージしやすいと思うが、農業に関係していない人が意外と忘れているのが農業用倉庫である。でも実は、この農業用倉庫こそ農業経営の要であると私は思う。

農業用倉庫というのは、農業機械を保管したり、収穫物を貯蔵したり、出荷調製作業(規格分け(選別)、箱詰め、配送作業など)をしたりするための場所である。農地が農業のフロント(店舗)とすれば、農業用倉庫がバックヤード(事務所や倉庫)にあたる。バックヤードのない店舗というのがありえないように、倉庫のない農業もありえない。

しかも、農地というのは交換したり、借り替えたりして動かして行くことができるし、農機具も逐次更新していくものだからこの2つは動産的に考えられるが、農業用倉庫は純然たる不動産だから一度設置したら簡単には変えられない。農業用倉庫をどこに設置するかで農業経営のかなりの部分が決まると思う。

例えば大浦町の場合で言うと、田んぼの広い干拓地に近いところに大きな農業用倉庫があれば大規模米農家になれる可能性があるが、私の住んでいる山手に倉庫を建ててしまったら大規模米農家になるのは難しい。干拓地までトラクターや田植機を2トントラックで運んでいく手間はかなりのものなので、物理的にそこまで耕作の手を広げることができないからだ。

というわけで、農業用倉庫は絶対に必要だがちゃんとした考えなく作ってはだめで、特に建設はできるだけ先延ばしするのがいいと思う。自分のやりたい農業の姿が見えてから、その農業をやるための適地に、必要十分な大きさで倉庫を作るのが理に適っている。

しかしながら、本格的に農業をするには農業用倉庫は絶対不可欠なのも事実である。だから、最初に耕作する農地は10aくらいに留めておいた方がよいとしたのである。これくらいならちゃんとした倉庫がなくてもガレージの隅でなんとかなるレベルである。技術を学ぶだけなら規模はさほど必要ない。まず農業の技術を学び、その中でやりたい農業の形を探して、それに適した場所に農業用倉庫を作ったらよい。ちなみに、空いている倉庫も多少はあるので、運がよければそういう倉庫を譲り受けることもできると思う。

農業用倉庫の予算だが、最初から大きくて立派なのを作ろうとしなければ、だいたい150万円〜300万円くらいだと思う。これが就農当初の最大の投資になるが、各地で倉庫建設には補助があるので、100万円くらいは補助で浮く。しかしもちろん補助には審査があるので、それまでにある程度の農業の形が見えていないと審査も通らないだろう。

(7)農業の始め方とその後

これ以降の話は、どのような農業が行われている地域に移住するか、誰を農業の「先生」にするかといったことで千差万別だと思うので、それぞれの農業 の「先生」に教えてもらいながらやるしかないが、農業に触れたことのない人にとって、その後のプロセスがどうなりうるのかが全く不明だと不安もあるだろう。

というわけで、あくまでも私の経験と鹿児島県の現状から考える農業の始め方とその後を書いてみたい。

全くゼロから就農する人の農業の始め方としてオススメなのは、移住した地の特産品を作ってみることである。特産品は、その地の気候に合っていて、栽培技術も確立しており、農業資材も手に入れやすく、販路がしっかりしていて、しかも周りの人がいろいろ教えてくれる。その上、地域の農業者が新参者を担い手として期待してくれる。

それなりに農業に夢や愛着を持って参入してくる人としては、みんなが作っているものを同じように作ることに物足りなさを覚えるかもしれない。もっと、珍奇な野菜とか、有機栽培とか、真新しい取り組みに魅力を感じるかもしれない。もちろんそういう新しい風はどんどん起こしたらいい。でも最初からそういう道なき道を選ぶのはリスクが高い。まずは、その地域で確立した道を進むのが楽でいい。

例えば、鹿児島の志布志市農業公社は、ピーマンの栽培で新規就農者を積極的に受け入れているが、別に「ピーマンが作りたい!」という強い気持ちがなくても、まずはピーマンという作物を入り口にしてそこから発展していけると思うので、そういう準備された道を行くのが一番確実だ。

私の場合も、周囲の勧めや支援もあって特産品の「加世田のかぼちゃ」やポンカン・タンカンを作っている。このうち、特にかぼちゃの栽培はとても勉強になる。というのは、特産品はかなり栽培技術が研究されているので、単なるハウツーではなく栽培理論まで深く学ぶことができるからだ。特産品を作るというのは一見横並びでつまらないことだが、実は他の作物にも応用できるような勉強ができる良策と思う。

特産品を担っているのはほぼ農協なので、このやり方だと農協に加入してやっていくことになるが、農協にはぜひ加入したらよい。農協は低収入農業の元凶に言われることもあるが、これも実態とはちょっと違う。日本全体(マクロ)の農業を視野にいれたら農協が悪い部分もあるが、個人(ミクロ)の農業経営だけを考えたら農協がないデメリットの方が大きい。少なくとも、「農協に頼っているから日本の農家はダメなんだ」というような、マクロとミクロを混淆した農業談義に与してはいけない。農協を利用するメリットがあるところは利用し、農協よりも有利なやり方があればそれを採用すればよいだけで、是々非々でやっていくのがよいと思う。

ともかく、特産品を入り口として、最初の農地10aを管理してみるのが農業経営の第一歩だ。そしてとりあえずの目標は、この10aから年間20万円の利益を上げる、というくらいではなかろうか(その10aがビニールハウスだったら50万円くらい?)。 反収20万円というのは決して簡単な目標ではないが、管理するのが10aだけだったら初心者でもそれほど困難ではない(年に2回作付するとして、1作あたり10万円の利益を上げるということ)。

10aで20万円が達成できたとすると、何年かかけて農地を10倍にすると200万円となって、ある程度の収入になる。が、話はそんなに簡単ではない。単純に規模拡大すると、特定の時期に作業が集中したり、天候不順などのリスクに弱くなったりするので、農業をある程度多様化していかなくてはならないからだ。だから徐々に規模拡大しながら、農閑期に組み合わせる作物などを順次導入して、一年を通して忙しすぎない状態を作っていくのが理想である。利益だけを考えたらひたすら特産品だけを規模拡大して作るのもアリかもしれないが、人間は機械ではないので特定の時期だけとはいえ休み無しで働き続けるのも無理である。

こうした事情を考慮して農業経営を拡大していくことを考えると、5年ごとに局面が変わっていく農業経営のモデルとして次のようなものが考えられる。
第1ステージ(〜5年):農業を開始し、少数の作物でまずは利益を出す農業を勉強する段階
第2ステージ(5〜10年):経営の規模を拡大し、様々な作物を導入して経営の基盤を確立する段階
第3ステージ(10〜15年):作付体系の中で、利益の薄いものや他の作物の経営を阻害しているものを思い切って辞めたり縮小し、作業効率を高め、生産性の高い農業経営を作る段階
第4ステージ(15年〜):効率のよい農業をしているため時間的・資金的に余裕があり、そのため珍奇な作物の導入や新しい取り組みにも積極的に取り組める段階
言うまでもなく、第4ステージが農業経営の一つの完成であり、この段階で最高の収益を上げることになる。

それで一つ注意しないといけないのは、家族で移住して就農する場合はライフステージとこの農業経営の発達ステージが対応している必要があるということである。日本の場合大学教育にやたらと金がかかるので、子どもが大学進学を控えるまでにこの第4ステージのところへ到達していないといけない。ここでは一つのモデルとして15年を目安としたが、これより早い場合もありうるし、自然災害などの影響でいつまでも到達しない場合もある。しかしどう短く見積もっても10年はかかると思うので、子どもが既に産まれている家庭の場合は、大学進学を10年以内に控えているのなら(つまり子どもが既に8歳くらいになっていたら)、新規就農は絶対に辞めた方がいいと思う。そうしないと子どもの可能性を狭めることになる。

(つづく)

2 件のコメント:

  1. 親の経済状態で絶対的に子どもの進路を狭めることにならないように、奨学金、学費免除は、大幅に拡充してほしいですね。これらの要求が国民運動として、大きな声になればと思います。

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    1. shigeさん、その通りだと思います。特に返済不要・または小額返済の奨学金が絶対必要ですね。特に僻地に住んでいるとそれだけで大学進学の費用や負担が大きいので、僻地出身者は優遇してもいいかもしれないと思います。

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