2014年7月30日水曜日

ホンモノレトロな村田旅館が素晴らしい

先日、家内の高校の同級生がわざわざ埼玉からこちらへ遊びに来てくれたので、前々から行ってみたかった加世田 万世(ばんせい)の村田旅館で夜に会食した(もちろん、客人はそのまま泊まった)。

1800円のコースと3000円の懐石コースがあるというので、酒飲みではない私は懐石じゃなくてよかろうと1800円の方にすることにしたのだが、大変豪華な食事が出てきたので、みんなで「これ絶対1800円じゃないよね。旅館の人が間違えて3000円の方を出してるんじゃない?」と訝しみながら食べた。これがまた美味しくて、こういう旅館で出てくる「いかにも旅館的な手抜き(?)料理」じゃない、料亭のそれのようなしっかりしたコースだった。

いざ会計してみると旅館の人が間違っていたわけではなく、事実1800円の方でびっくり。飲み物代は別だが、このクオリティ・量で1800円というのは相当にお安い。それに、旅館の雰囲気もすごくよくて気持ちよく食べられた。

この村田旅館は創業約80年らしく、創業当時からの面影が随所に残っている。80年前というと昭和の初期で、まだ横書きは右から左へと書いていたころである。急な階段の手すりはしゃれた意匠が施されているし、洗面台は今となっては作ろうと思っても作れない洒脱なタイルで飾られている。その前には「森田酒店」みたいな地元の商店の広告が入った鏡が貼られていて、こういう広告入り鏡が大好きな私は嬉しくなってしまった。

中でも白眉なのは「アサヒビール」と「リボンシトロン」の広告が入った大きな鏡。この頃の鏡は銀鏡反応で作られているし(つまり銀が使われている)、平面の大きなガラスを作る技術が未熟だったこともあって高級品だった。この鏡のように大きな鏡があったということは、かなりハイクラスの宿だったように思われる。

村田旅館は今では廃線となった南薩鉄道万世駅の真正面に位置しており、往時は相当な賑わいを見せていただろう。南薩の凋落とともに、旅館も寂れてきたようであるが、その手入れは行き届いていて、古くても汚らしさは全くなく、清潔感がある。今流行りの「レトロ」という言葉を使ってしまっては安っぽい感じがするけども、ここはホンモノレトロな旅館である。

しかも、旅館の人は古いものを大切に使っているが、「レトロ」は全く売りにしていない。それどころか、「こんな素晴らしい旅館だから、宣伝したらもっとたくさんお客が来るんじゃないですか」と聞いてみたら「まだまだ自信がなくて宣伝できません」と言う。例えば、ここは本当に昔ながらの旅館なので、お風呂などもかなり古びていてしかも狭い。今の宿泊客には確かに不満な部分があろう。あと、タイル張りの床の、小学校のトイレのようなトイレも今の人には不評かもしれないと思った(小学校と違ってとても清潔感があったけど)。

そんなわけで、来月にちょっとした改装を予定しているらしい。改装箇所を詳らかには伺わなかったけれど、創業当時からの部分は残しつつも古びている箇所を直すというようなことはするらしいので(例えばお風呂は改装するようだ)、私が気に入った部分がなくなってしまわないかとヒヤヒヤしているところである。

朝食付で1泊5000円、夕食・朝食付で7000円でかなりお得に泊まれるし、ご飯は美味しいし、ホンモノレトロな雰囲気は在りし日の文豪でも泊まっていそうで、地元民であるにもかかわらず「定宿」にしたいとさえ思う。今度から遠方から人が来たら、迷うことなく村田旅館をオススメすることにしよう。

2 件のコメント:

  1. まさか!の村田旅館。
    私の実家は万世駅ありし頃の「駅前通り」です。
    そして、村田旅館の女将さん(今は息子さんの代になってますかね?)は母方の親戚ですもの。
    法事など親戚の集まりを数回させていただいていますよ。
    あのタイルのトイレもリフォームされるのですね。

    中学の担任は村田旅館に下宿なさってましたよ。

    懐かしさに涙ちょちょぎれるってもんですわ♡
    実家も更地になってしまってます。

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    1. ようちんさん コメントありがとうございます。
      あのあたりがご実家だったんですね! 女将さんとも少し話をしましたが、ホンワカした方でした。ご賢察のとおり、今は息子さんの代になっていて、若女将さんにご対応いただきました。その若女将さんがまた感じのよい方で、対応が誠実で、とても気持ちよく会食することができました。

      ところで万世駅跡地は、この1年くらいで随分変わりました。更地だった万世駅跡が分譲されて、真新しい家が何軒か建ちましたし、これからも建ちそうです。ちょっとしたミニ住宅街というところでしょうか。これから昔の面影はどんどんなくなっていくと思いますが、村田旅館さんにはずっと残っていただきたいですね。

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