今の林業では、山主は森林組合などに委託して伐採、集材などを行うのが普通だが、以前は自分の山は自分で管理するというのが基本だった。林業は儲からないといわれるが、山主自身は何もせず、全ての作業を組合に委託して山林から利益を出すのが困難なのは自明である。逆に、山主自身が造林、伐採、集材を行えば、今でも林業は決して儲からない産業ではない。
しかし一方で、林業には危険が伴うとともに心理的・制度的な参入障壁も高く、いわゆる「素人山主」は山林管理に手を出せない状況が続いていた。本書『バイオマス材収入から始める副業的自伐林業』は、「自伐林業こそ日本の山を救う!」としてその普及を推進している中嶋健造氏が土佐の森での自らの取組を紹介しつつ、自伐林業参入のためのヒントを与える本である。
その主張は次のように要約されるだろう。
- 機械化・大規模化の林業は、その維持に高収益が必要なため、儲かる山しか施業されない。そのため放置山林など適切な管理がされていなかった地域の山がさらに放置される。
- しかし小規模山主や地域の人々が、高性能機械を使わないシンプルな方法で林業をすれば儲かるのであり、事実、自伐林家の収入は総じて高い。さらに地域の山も整備できて一石二鳥である。
- 自伐林業には、地域ぐるみでバイオマス材(薪やペレットにする)の出荷から始めると運搬や伐木の面で新規参入しやすい。チェーンソーと軽トラがあれば誰でも林業はできる。
- バイオマス材で林業に親しみを持った人のうち、いくらかは本格的・専門的な林業へと進む人も出るし、工夫次第で地域の活性化にも繋がるのである。
事実、紹介されている土佐の森の取組でも、市場価格3000円/t のC材(バイオマス材になる粗悪な木材)をNPO法人が6000円/t で買うという工夫(差額は寄附などで負担される)が成功の大きな要因だったように思われる。
よって、副業として自伐林業に個人で取り組みたいと思った時、やはり「バイオマス材から始める」のは無理があるような気がする(地域ぐるみで取り組むなら可能だろうが)。軽トラで3000円/tの木材を市場まで運ぶのは、どう考えても割に合わないからだ。やはりある程度の市場価値がある材を出荷する方が、個人でやるなら合理的だと思う。
ちなみに、狭いながらもスギが90本ほど育っているうちの山を伐採すれば、原木市場では単純計算で20万円程度の価値がある。この施業を森林組合に委託すれば経費の方が高くつくが、自伐林業すれば10万円弱の利益が出るかもしれない。
いずれにせよ、儲けが出るかどうかは細かいやり方次第なので、森林組合にもよく話を聞いて施業方法を考えたいと思う。そして、自分の山で利益が出せれば、地域の他の山でも応用できないか考えてみたい。本書に紹介された取組を見ていても、結局「いろいろ工夫してみんなで協力すれば、どんな事業でも儲かるんだ」という当たり前のことを教えている気がするのである。
【参考】
「木の駅プロジェクト」
土佐の森での取組を全国で応用可能なものにしていく社会実験。鹿児島でも「木の駅」が早く作られるといいと思う。
こんにちは、えびの人です。
返信削除私の実家を建てる際に自家の山の木を使ったのですが、非常にコストがかかり、購入したほうが遥かに安く済んだのです。
これは、伐採から運搬、製材一切を業者に任せることが当然だという潜在的な思い込みがあったからなのでしょうね。
現状では、木を植えて、それを出荷するだけ利益を生み出すことは困難です。山を木を植えるだけの場所と考えるだけではなく、儲かるものを生産する場所にするという発想に切り替えていく必要もあると思います。
コメントありがとうございます。
削除自家林の木でおうちを建てられたのですか。頭が下がります。現在では、流通の問題で自家林で家を作るのは非常にコストがかかりますね。本当は、地域に育つ木で家を建てると木材の持ちが(気候に合っているので)非常にいいのですが、そういう家の作り方は贅沢になってしまいました。ちなみに、伐採だけでも自分ですれば、それだけで十数万円浮きますよ。
勉強して考えがまとまったら改めて書きたいと思いますが、「アグロフォレストリー」という考え方があります。おおざっぱに言えば、造林しながら林床で農産物を生産し、持続的に収穫を得つつ最終的には豊かな森を造りあげるという農法です。造林は利益化が数十年後になる一種の貯蓄であるため、資産に余裕がなければ行えません。しかし、アグロフォレストリーでは継続的に森林から利益を得ることができることから注目されています。
アグロフォレストリーは、南米の熱帯雨林から始まりましたが、私はこれを日本でも実施できないかと考えており、これができればまさしく、「山を儲かるものを生産する場所にする」ことになるのではないかと期待しております。