2020年10月27日火曜日

洋上風力発電についての、録音・撮影禁止の「勉強会」に参加しました

10月25日、「まちづくり県民大学「どうなの洋上風力発電」」という勉強会に参加してきた。

主催は「まちづくり県民会議」で、同会議メンバーで鹿児島市議の野口英一郎さんが中心になって企画したもの。野口さんは、今問題になっている吹上浜沖の洋上風力発電について、実際のところどうなのか知りたいということで勉強会を開催したそうだ。

勉強会には、まさに吹上浜沖洋上風力発電所を計画しているインフラックス社の面々も東京からわざわざ参加してくださり、我々の質問に答えていただいた。もちろん私も質問した人の一人である(その内容は後述)。 

ところで会議の内容以前に驚いたのは、インフラックス社側の人数だ。なんと、総勢10人近くで臨んできたのである。ちなみにこの勉強会の定員が30人。たった30人の勉強会の相手をするのに、こんなにやってくるなんて体制が万全すぎる。役職まではわからなかったが部長クラスくらいまで含んでいたと思う。市議が主催するとはいえ正式な「説明会」ではない「勉強会」なので、てっきり担当者2人くらいで説明するのかと思っていた。

もしかしたら、地元説明会では常にこうした体制を取っているのかもしれない。しかし私の感覚としては、未だ環境アセスも初期段階、事業実施の目途も何もない段階の、非公式の「勉強会」でこの規模で臨むのは、異例とはいえないまでも少数な方だと思う。

ではなぜインフラックス社は万全の体制で勉強会に臨んだのか。それは、環境アセスの「配慮書」への意見が多かったか、あるいはその中に痛いところを突かれた意見があったかで、これからの地元対応の困難が予想されたからだろう。インフラックス社にそうした緊張感をもたらしただけでも、先日の「配慮書」の縦覧に多くの人が意見を出したのは意味があったと思う。

一方、インフラックス社の要望によって、「勉強会は一切録音・撮影禁止」とされたのは残念だった。なぜ「録音・撮影禁止」なのかについての合理的な説明はなく、「SNSにアップされたら困るから」と言っていたが、なぜSNSにアップされたら困るのかよくわからない。また、その理由であればSNSへのアップの禁止だけなら分かるが、録音・撮影自体を禁止するのも謎だ。疚しいことがあると自分で言っているような感じである。

さらに、事前にはこの勉強会を某新聞社が取材する予定であったが、やはりインフラックス社の意見およびそれを受けた主催者の調整により、取材自体が辞退されることとなったらしい。どうも、マスコミが入ることを嫌って様々な条件を出されたため、「雰囲気を壊すみたいなので今回はいいです」となった模様である。

では、インフラックス社は万全の体制を整え、録音禁止・撮影禁止の下、マスコミにも遠慮してもらって何を語ったのか?

実は、これが、全体が一般論的であってたいした説明はなかったのである。

勉強会の段取りとしては、最初にインフラックス社からの説明があって、その後質疑応答となっていたが、その説明部分では、(事業の説明はなく)制度の説明のみであった。

制度の説明とは、具体的には洋上風力発電を行う上で大きく関係してくる2つの法律、すなわち「再エネ海域利用法」と「環境影響評価法」の説明である。しかし当然ながら、これは法律の話だからインフラックス社の面々がぞろぞろ来て説明するようなことでもない一般論の最たるものである。

その後の質疑応答は、時間が限られているということで、主催者側の調整により「最初に全員分の質問を聴取して、後でまとめて答える」という形式だった。確かに「一問一答形式」よりは時間の節約になってよい面があったとは思うものの、個人的には一つの質問を巡ってもうちょっとやりとりをしたかったなーというのが率直な感想である。

そんなわけで、「録音禁止」であったことと、「一問一答形式」でなかったので、質問への答えが正確に理解できているかわからないが、私が行った4つの質問とその答えについて、以下に簡単にまとめておく。

Q1. 御社が吹上浜沖に洋上風力発電所をつくりたいと思っていても、実際には「再エネ海域利用法」に基づいてその海域が「促進区域」に指定されなければ建設することはできない。吹上浜沖が「促進区域」に指定される目論見があるのか? なければ、どうやって指定されるように図っていくのか?

A1. おっしゃる通り、自治体、そして国が「有望地域」として選定し、それが「促進区域」として指定されない限り前へ進めない事業である。我々がこうして環境アセスを行っているのは、地元の住民との合意形成を図って住民の声をまとめ、指定につなげる意味でやっている。

【補足】「目論見があるのかどうか」に対しての直接の答えはなかった(多分、ある程度はあるからやっているんだと思うが)。しかし「住民の声をまとめて指定につなげる」というのはちょっと腑に落ちない。環境アセスをやると99%は反対意見しか出ないと思うが、それでどうやって「指定につなげる」ような住民の声をまとめるのだろう…? 住民の声をまとめたら「建設反対」の結論以外ありえないように思うが…。

Q2. 川内原発一基分もの電力を送電するとなると、地元の3市のどこかに送電網を建設することになると思うが、具体的にはどのように考えているのか?

A2. どこに接続するかは現在九電と協議中である。南さつま市またはいちき串木野市に(※日置市は単に言い漏らしただけかもしれない)変電所を作って、電線は地中に埋設して九電の送電網へと接続する計画である。

【補足】私の素人考えでは、もし吹上浜沖に洋上風力発電所が建設された場合、その送電線は伊佐市にある「南九州変電所」に接続する以外ないと思っている。とするとそれまでの間に送電鉄塔がずらっと建つのかと思っていたが、そうではなくて地中埋設方式らしい。

Q3. 当該事業は、インフラックス社の直轄ではなく、「吹上浜沖洋上風力発電合同会社」という子会社を作って実施する理由は何か。

A3. こういった大規模事業をする際にはよくあることで、例えば建設会社などの関係企業とチームを組んでやっていくための別会社である。今はインフラックス社の100%子会社だが、今後パートナーを入れてやっていく予定である。

【補足】私は、事業を売却するために子会社を作ってやっているのではないか、と以前の記事で「邪推」した。まさかそう答えることはないだろうとは思っていたが、一応聞いてみたのがこの質問である。なお、大規模建設事業では複数の企業が「ジョイントベンチャー(共同事業体)」という法人格のない組合のようなものを作って請け負うのは確かによくあることである。しかし風力発電のような長期にわたる大規模事業を、このような形態で(特に「合同会社」で)実施することがよくあることなのかは不明である。

Q4. 仮にこの事業が実現した場合、地域に住む我々は、吹上浜沖の風車に出資することはできるのか?

A4. それは出資の募り方次第になるが、グリーンボンドのようなものを発行してそれに応じるという形で、個人というよりは、例えば漁協などが出資のための組合を作って投資するというケースが他の地域でもやられている。

【補足】「グリーンボンド」とは、大雑把に言えば「環境にいい事業に充当するための債券(の金融商品)」を指す。私は、吹上浜沖洋上風力発電の場合、それ単発で投資を募るのではなく、他の洋上風力発電事業などと一緒くたにして資金調達がなされると予想している。つまり投資家は「日本の洋上風力発電」に投資するということで、特に「吹上浜洋上風力に投資する」というような意識はないような形であろう。先方の回答は、この予想を裏付けた形だ。であれば、少なくとも、地域の人がこれに投資してそのリターンを得るというような資金の循環はできないだろう。

私の質問は以上である(本当はもうちょっと聞きたいことがあったが、時間もなかったので割愛した)。他の方々から行われた様々な質疑応答については、正確にメモを取っていないのでその内容を紹介することは差し控えたい。ただ、インフラックス社の答えは、ほとんどが一般論的であって(ただし、質問の方も一般論的なものが多かったので、そこはしょうがないかもしれない)、具体的なことについては「今後、皆様のご意見を踏まえて検討していきたい」というような調子だった。

だが、最後に鹿児島に赴任している社員からの挨拶があって、その方は結構自分の言葉で思いを語っていた。「せっかく作るのであれば、地域の発展に役立ちたいというのが私たちの思い」「皆さんのご意見をよく聞いて、意見を交わしてお互いの理解を深めていきたい」というようなことで、こうして書くとありがちな言葉を並べているだけだが、言葉遣いや雰囲気を含め、「この人は本気でこう思っているのかもなあ」と思わせる感じで好感を持った。そういう話を最初からしてくれたらよかったのに(笑)

しかし、だからこそ思うのである。

「吹上浜沖洋上風力発電合同会社」のWEBサイトの、必要最低限のことすら何も説明していない冷淡さは一体何なのだろうか? 「配慮書」をすぐに閲覧不可にしてしまうのはなぜなのだろうか? なぜ勉強会を録音・撮影禁止にするのだろうか?

【参考】吹上浜沖洋上風力発電合同会社
http://influx-fukiagehamaoki.com/index.html

「地域の発展に役立ちたい」というなら、そういう秘密主義を辞めて胸襟を開いて地域に入ってきて欲しいし、そして対話していきたいというのなら、もっと情報をオープンにし、勉強会の模様をYoutubeにアップするくらいのことはして欲しいものだ。せめて、吹上浜沖洋上風力発電合同会社のWEBサイトには現地赴任の社員の挨拶でも掲載したらどうか。

そういったことが全くないまま、「地域の発展」「対話したい」などというから、却って白々しい感じがするのである。言っていることとやっていることが全く逆なのだ。

正直言えば、私は今回の勉強会におけるインフラックス社の説明や応答については、それほどおかしいと思った部分はない(全くないわけではない)。しかし、それであっても録音・撮影禁止を求めた彼らの姿勢には、重大な疑義を抱いている。私はこの事業で最初から問題にしているのは内容というより「進め方」なのだ(もちろん内容も問題大ありだが)。

ちなみに、先方(インフラックス社)は私のことを認識していて「できれば会いたい」みたいに言っていたと主催者から伺った。こんな好き勝手なブログ記事を書いているからだろう(笑)早々に撤収してしまったようなので会うことが出来なかったが、こっちは名前を明かして質問もしていたので声を掛けて欲しかった。オープンな場で対話するのは大歓迎である。

インフラックス社の皆さんも、もしかしたらこの記事をご覧になるかもしれない。もし間違っていることや補足・反論があったら遠慮なくコメント欄で指摘して欲しい。御社が「対話したい」というなら、ぜひそうしていただきたいのである。