鹿児島県日置市吹上町に「千本楠」というクスノキの巨樹群落がある。
クスノキは南方由来の外来種で、多くが人為的に植えられたらしいこともあり、群落は珍しいが、この千本楠はさらに非常な奇観を呈している。それは、クスノキが横へ横へと伸びていることだ。当地の案内板では「二十数株の大楠があたかも竜が寝ているかのように連なり…」と形容するが、そこに立つとまさしくそんな感じがする。
ただし、「千本楠」という名称は大げさで、楠が千本もあるわけではない。引用によって明らかなように実際には二十数株しかないのであるが、この群落形成の過程が非常に変わっている。それが、クスが横へ横へと伸びた理由でもあるのだが、実は、これら二十数株は元は一本の巨大なクスノキだったらしいのだ。
明治のある夜、根回り18m、樹冠は50a(!)に及んだという巨大なクスが、風もないのに大音響とともに倒れ、付近の人々は恐れおののいたという。そのクスの支幹が根付いたのが千本楠となったと伝えられる。といっても、倒木が根付いたわけではなく、倒壊の前から接地していた支幹からすでに根が出ていたのだろう。クスの幹には巨大な空洞ができやすいので、その重さに耐えかねて倒れることや、支幹が接地するほど下垂するのは十分にありえる。
千本楠を構成するクスノキはどれも幹周10m弱なので、クスノキとしてはそんなに大きなものではない。また、クスノキは非常に樹形の個性が強い樹種なので、変わった形になっているクスノキも全国に多い。しかし、横へ横へと伸びたり、元は一本の木だったという由来があるクスノキ群は唯一無二なのではないか。
ちなみに、この千本楠は大汝牟遅(おおなむち)神社の神域にあるのだが、実はこの大汝牟遅神社、明治以前は大汝牟遅八幡神社と呼ばれていたのであり、ここでも八幡神社とクスノキがセットになっているのであった。八幡神社とクスノキの結びつきは、いつか解いてみたい謎である。
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