近所になんとなく気になる場所があった。県道のすぐそばだが、ちょっとした土手の上に何かがあるような気がしたので、ある日思い切って行ってみると、そこにはとても大きなタブノキ(椨)があった。
外からは、こんな大木が隠れていようとは思いも寄らない場所である。堂々とした巨木が突然姿を現し、すっかりびっくりしてしまった。
樹の下には石造りの社と、明和年間に建立された古い墓石群、それからさらに古そうな五輪塔があり、幽邃な雰囲気である。
私は巨木が好きでいろんな巨木を見てきたが、「ここに巨木があります!」というアピールが樹からも人間(の造作物)からもあるのが普通だ。こういう、自己主張せずひっそりと存在している巨木は、珍しい。
説明板なども何もなかったが、調べてみると、これは「原(はる)のタブノキ」といって「かごしまの名木2001」にも選ばれており、幹周8.9mはタブノキとしては日本で五指に入る。樹齢は300年という。十分に注目される価値のある樹である。
原集落の方に伺うと、「確かに立派な樹だけれど、あそこは怖いから私は行かない」とのことだった。確かに墓石はあるし、ただならぬ雰囲気もあるので、怖いから行かないという気も分かる。また、タブノキは古来神木として祀られることも多く、人を畏れさせる何かがあるのかもしれない。
それにしても、こんな立派な樹なのにもかかわらず、市や県が何の紹介もしていないのは少し残念だ。私も「なんとなく気になる」という不思議な感覚がなければ、ずっと知らずに過ごしていたかもしれない。地元の社ということで、おそらく私有地にあるためという事情もあるのだろうが、説明板の一つでも付けたらよいのにと思った。
ただ、県はこの樹に無関心というわけでもないらしく、足下には近年樹木医によって行われた治療記録の立て札がある。樹木医は秋元智雄氏。指宿で造園業を営みつつ、(女流ならぬ)男流のいけばなや環境教育のインストラクターなどにも取り組んでおられる多才な方のようだ。機会があれば、この樹について語り合ってみたいものだと思った。
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