2012年7月21日土曜日

苔庭を目指して、コケ植物を知る

勝手に生えてきた庭の苔
「京都の寺みたいに、庭がコケで覆われたらかっこいいなあ…」と思って、まずコケ植物について勉強することにし、『苔の話―小さな植物の知られざる生態』(秋山弘之著)という本を読んだのだが、コケ植物はなかなか面白い。

まず、コケ植物の著しい特徴は、普通に私たちが見るコケというのは配偶体であるということだ。シダ植物も裸子植物も被子植物も、いわゆる植物体は胞子体である。配偶体というのは精子と卵子(配偶子)を作るため(だけ)の世代をいい、染色体を1セット(n)しか持っていない(胞子体は染色体を2セット(2n)持っている)。コケ植物の場合、これらが受精して作られる胞子体は配偶体に寄生して一時期しか存在しないのだが、普通の植物ではこれが逆で、配偶体こそ胞子体に寄生しているのである。つまり、コケ植物の生活環は、普通の植物と完全に逆転しているのである。

これを読んだ時、私は大きな衝撃を受けた。これまで、(藻類→)コケ植物→シダ植物という具合に直線的かつ連続的な植物の進化を考えていたのだが、コケ植物とシダ植物には非常な断絶があったということになる。コケ植物が維管束と根を獲得してシダ植物になったのではなくて、シダ植物はそれまでと全く違う仕組みで植物体を構築したということになり、俄然シダ植物の起源にも興味が湧いてくるところだ。ちなみに、最初に陸上に進出したのがコケ植物の祖先なのかシダ植物の祖先なのかはまだわかっていないそうである。

さらに、コケ植物は苔類蘚類ツノゴケ類の3系統(綱)で構成され、これらは高い確率で独立系統なのだという。つまり、コケ植物というまとまったグループがあるわけではなくて、3つの植物グループの便宜的な総称が「コケ植物」ということらしい。こうなってくると、「そもそもコケ植物とは何なのか?」ということも曖昧になってくる。

このほかにもびっくりするような事実がたくさんあり、例えば
  • 極寒の極地から熱帯雨林まで広く適応しているだけでなく、実は乾燥にも強く、乾燥した場所に生えているコケの方が多い
  • コケ植物には一般に抗菌性があり、黴が生えることはほとんどない。
  • 地球上の陸地面積の少なくとも1%がミズゴケの湿原で占められているらしい。
といったところだ。

しかし一番びっくりしたのは、「コケ植物の専門家は日本にほんのわずかしかいません。アマチュアの詳しい人を含めても、せいぜい30人程度でしょう」という記載だ。日本には苔庭や苔玉など苔を楽しむ文化もあり、温暖湿潤な気候もあって苔は非常に身近なものなのに、こんなに狭い業界だったなんて…。海外ではどうなんだろう?

ところで、元々の目的だった庭を苔庭にする方法だが、一言でいうと「自然に生えてくるまで1、2年間は毎日水を撒くこと」らしい。苔を植えるなどはよくなく、自然に生えてきた苔を大切にするほうが合理的だということだ。このため、苔が生えやすい環境を整えるのは大事で、常緑樹を植えて日陰を作るとか、肥料を与えず排水をよくするといったことが必要になる。

しかし、1、2年間も毎日水を撒くのは一苦労だし、そもそもその間生えてくる雑草をどうするのかという気になる。苔は生えるところには勝手にどんどん生えてくるのに、生やしたいところに生やすのは結構大変だということがわかった。

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