2012年7月25日水曜日

「タカジビナ」の正体

先日「タカジビナ」を頂いたので、茹でて、そのまま食べた。味付けも何もなく、そのままで美味しい

タカジビナは、鹿児島の海沿いでは昔おやつだったらしく、父や母は子供の頃これを海で獲って、(ご飯時を待たずに)すぐに茹でて食べていたそうだ。たくさん食べるようなものではないけれども、料亭などで前菜として出てくるような上品さと旨味があり、今ではおやつというよりはちょっとした高級食材という感じだろう。

ところで、「タカジビナ」は地方名でこれを検索してもヒットしない。ビナは鹿児島の方言で巻き貝のことだ。ある方に伺うと正式な和名は「サラサバテイラ(更紗馬蹄螺)」というとのこと。この貝はむしろ沖縄での地方名「高瀬貝(タカセガイ)」で浸透しているもの。高瀬貝は貝ボタンの原料としても有名で、また貝自体を磨くことで美しい輝きを持つ工芸品にもなる。

ところがここに一つ問題がある。辞典等では、サラサバテイラは奄美以南の太平洋海域に分布すると書いてあり、鹿児島で獲れるとはどこにも記載がない。タカジビナは、本当にサラサバテイラ=高瀬貝なんだろうか? 大きさも少し違うし、同種ではないのでは?

気になって少し調べて見ると、形態的特徴と生息域から推測するとどうもタカジビナの正体はバテイラのようで、こちらは尻高(シッタカ)という名前で広く流通している。これは北海道南部から九州までの太平洋側に分布するという。ところが、北海道南部から九州までの日本海側では同種の亜種であるオオコシダカガンガラが分布しているらしい。南薩の海岸は大西洋と日本海が出会うところであるために、タカジビナがどちらの種なのか生息域からでは判断がつかないが、たぶんバテイラだろう。あるいは、両者の中間的な存在なのかもしれない。

ともかく、魚介のように生活に密着し、遠方に運ばれない商品は地方だけで流通が完結するため、地方名と一般的な和名がリンクする機会がなく、様々な地方名が並列する場合が多い。それはそれで豊かな文化なのだけれど、そうすると全国的な位置づけがよくわからなくなってしまうという弊害もある。もしタカジビナがバテイラであれば、これは特に地方の特産ということではなくて、本州以南では割とメジャーな魚介類である。

ちなみに、タカジビナは「大浦ふるさと館」でよく売られている。タカジビナは(鹿児島では)自家消費が多くあまり流通していない印象があるのでこれは貴重なのかもしれない。 ご賞味されたい方はおいでになってはいかがだろうか。


【補足】7/26 アップデート
鹿児島でも「タカジビナ」ではなくて、「サンカクビナ」とか「タカジリ」と呼んでいる地方もあるようだ。タカジリ=高尻であって「尻高」を逆にした呼び方だし、どうもタカジビナ=バテイラ=尻髙で間違いなさそうだ。また、「タカジビナ」は多分「タカジリビナ」が約まった言い方なんだろう。

【補足その2】7/28 アップデート
「大浦ふるさと館」で売っている様子を見たら、タカジビナ=ギンタカハマと説明されていた。そして売られている貝は確かにギンタカハマの特徴である。どうも、タカジビナと言われている貝には、バテイラとギンタカハマが混ざっていて、厳密には区別されていないようだ。

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