2012年9月14日金曜日

農業の技術と知識をどのように身につけるか

先日の研修旅行で、ある農家から言われた言葉が引っかかっている。

「引退するまで、あと何回植え付けて収穫ができるか考えないといけないよ。30年あっても30回しかできないんだから。」それは、向上の機会は限られているという意味なんだろうと思う。 だから、1年1年の作付けをしっかりしろというメッセージだと受け取った。

ただ、それは他の仕事でも同じことだ。例えば「概算要求」は役人の(役所的に)最も重要な仕事の一つで年に1回限りだ(補正予算は除く)。しかし「役人人生であと何回概算要求できるか考えないといけない」なんて言葉はついぞ聞いたことがない。どうしてだろう? その答えは簡単で、長い役所の歴史を通じて「概算要求のやり方」が確立しているからである(それがいいか悪いかは別として。というか多分悪いやり方が確立しているのだが)。

では、なぜ農業では1年1年の作付けを向上の機会として、工夫しなくてはならないのか。別の言葉で言えば、なぜ農業には常道が確立していないのか? 数千年続いている事業なのにもかかわらず、その知識と技術はどうして普遍化しないのだろう? 地域ごとに気候が様々だから、水利や土地利用は地域ごとに違うから、毎年新しい機械や肥料や農薬が出て日進月歩だから。そういう理由は当然あると思う。

しかし最も大きな理由は、 農業が家系的に担われていたからではなかろうか。技術の継承がほとんど家系的にしか行われず、せいぜい地域内での共有に基づいているため、技術と知識は体系化・普遍化しづらく、またその必要もなかったのだろう。

だが時代は変わり、農業の担い手の確保が問題になっている。新規就農にあたってのハードルはたくさんあるが、農業の技術と知識をどのように身につけるかもその一つだ。私は他分野については本から学ぶことが多いが、農業のハウツー本にはほとんどまともな説明がない。まず、どのような道具を揃えるのかという記載がないことが多く、「○月に播種する」「○月に中耕する」といったことが羅列されるだけで、その作業をどのように行うのかに言及されていないこともよくある。つまりは、実践的ではない。同じ播種でもやり方次第でいろいろな結果になると思うのだが。

だが一番の問題は、それが基本的なやり方を教えるだけで、応用は読者に委ねられていることだ。気候や条件は様々なので、農業は基本的に全てが応用だが、そのノウハウは本には書いておらず、経験者の頭の中にしかないのである。

これは何も新規就農の時だけの話ではなく、新しい農機、種苗、農薬の導入などにあたっては各農家が頭を悩まされているところだと思う。

そこでふと思ったのだが、「Yahoo! 知恵袋」とか「OKWave」のようなQ&Aサイトで、農家同士が質問・回答し合うような仕組みはできないものだろうか。いわば同業他社にあたる他の農家にわざわざノウハウを開陳するような農家がいるかどうかはよくわからないが、例えば回答すればポイントが溜まるようにして、ポイントに特典が付くようにすれば協力してくれるかもしれない。運営費用は農機メーカーや資材メーカーからの広告費等でまかなえばよい。

新しい種類の農機なども、開発されてもすぐには普及しないことが多い。周りの農家が実際に使っている様子を見て購入を検討する、というのが一般的だと思うが、こうしたサイトがあればその農機を使った人の声を聞くことができ購入の参考となるから、農機メーカーとしても有り難いのではないだろうか。

なお、以前OKWaveは「教えて!農業」というこのようなサイトを運営していたが、今年6月に閉鎖している(理由は不明)。

農業と同様に個人で活動することが多いITエンジニアの場合、ノウハウを教え合うことが普通であり、こうした教え合いサイトも多い。だから、「教えて!農業」は成功しなかったようだが、農業も工夫すれば技術と知識の普遍化をしていくことが出来ると思うし、そうすれば新規参入のハードルを一つ取り除くことになる。そしてそれ以上に、農業を形式知化することによって、さらなる効率化と農家全体の技術の向上が図られるはずだ。

なんでも本やインターネットで学べるようになるわけはないが、農業が本当に日進月歩なら、農家のネットワークによって技術と知識を向上させていくことが必要なのではないかと感じた次第である。

2 件のコメント:

  1. こんにちは。はじめまして。
    農業とITをひっつけた菜園ナビというサイトを7月より開始しております(検索すれば上位でひっかかると思います)。
    主な機能は作物を登録すると大体の作業時期の目安を教えてくれるようなサイトでどちらかというと家庭菜園ユーザー向けのサイトになっています。

    最初は農家の方が行っている作業を気象情報と紐づけてデータを取り、経験とカンで行っていた作業とその時期をデータベース化することを目的としておりました。

    しかし農家の方は高齢な方が多く、PCを使えない人が多いこと、また肝心な作業をしている農繁期は忙しくよほどのメリットがないとPCでの打ち込みを行っていただくのは非常に難しい為、まずは家庭菜園をしている方を集めることに注力しております。

    家庭菜園をしている方は野菜に対して何らかのこだわりを持っていることが多く、このような方々は農家さんと直接取引をしたいと考えている人が多いと考えられます。

    ある程度ユーザーが集まれば市場ができます。そこで農家の方は会員登録をし、作物をどのようにして育てているかネットにアップすることで他のユーザーは安心安全な野菜を購入することができるようになります。

    あまり詳しいことまではweb上ではかけませんが一度じっくりお話ししたいですね。

    もし広川までこられることがあればお声かけください。
    よろしくお願いいたします。

    オーレック 営業部 竹内

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    1. 竹内さま

      コメントありがとうございました。また、オーレックさんにおかれては先日の研修旅行に参加させていただきまして大変感謝しております。

      さて、「菜園ナビ」少しだけ拝見してみましたが、登録しないと本格的に見られないようですね。栽培教本を見てみましたら、絵付きで丁寧に解説しておられて好感を持ちました。トップページが素っ気ないというか、登録を前提としているようなので、登録していないいちげんさんにも優しい作りにしてはどうかと思ったのが第一印象です。facebookでの情報発信はよいですね。

      プロ農家同士の教え合いは難しいでしょうかね。確かに高齢の方が多いとか、農繁期はアクセスしないといったことはあると思いますが、若い方に対象を絞り、農閑期にも意味があるような作りにすればいけると思うんです(なら自分で作れよと言われると困りますが)。

      なかなか福岡まで足を伸ばすことはないですが、その機会がありましたら是非寄らせて頂ければと思います。今後ともよろしくお願いいたします。何かありましたらお気軽にご連絡ください。

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