ポンカン園の下草払いをしたら、雑草の合間にたくさんのヤブラン属の花が咲いていた。ヤブランにしては小さく、また群落が小規模なのでコヤブランかヒメヤブランだろうか。辞典での知識しかないのでよくわからない。
ヤブランは藪蘭と書くが、ランの仲間ではなくユリの仲間(※1)で、日本全国に自生する可憐な花の野草。斑入りの栽培種もあって園芸として育てている人もいる。しかし、見た目の派手さがなく地味なため、あまり好んで植えられているものではないと思う(もしかしたらこれが人気の地域もあるかもしれないが)。
私のポンカン園でも勝手に生えてきているわけで、さらにそれを時々下草払いしているので全く生長が奮わない。私はこういう何気ない小さな花が好きなので、できればこれを残したいと思うが、下草払機をブンブン振り回している時に、小さな草を保護する心の余裕はない…。
そもそも、林床など光の少ないところでよく育つだけでなく、幅広い気候に対応したヤブラン属は日本ではありふれた雑草で、ほとんど有り難がられていない。特に農業ではそうだろう。
しかしこのヤブラン、150〜200年前に日本から米国に移入されており、米国の特に南西部では被覆植物として非常にメジャーな存在になっている。米国での使われ方は、芝と似ており、芝の生やしにくい場所や歩道との境界などに植えているケースが多いようだ。そのため、ヤブランは英語ではlilyturf(ユリ芝)とかborder grass(境界草)という(※2)。芝よりも手入れの手間が少なく、花も楽しめて、土壌と気候の適応性が大きいということで、ヤブランは公園整備やガーデニングの脇役として重要な地位を占めているのだ。
より身近なはずの日本でそのような使われ方があまり見ないのは不思議だ。私はポンカン園の林床をヤブランにしてしまったら、下草刈りの手間が激減するのではないかと思っているが(※3)、具体的にはどうやって増やすかがちょっと課題だ。ジワジワと拡大させるのは可能だが、ヤブランは実生で増やすのが難しく、確実には株分けで増やすらしいが、これは現実的ではないからだ。
さらについでに書くと、ヤブランの種子は進化的に面白い存在だ。被子植物なのに果実の部分がなくて、黒くてまん丸い、まるで実のような種だけがついている。これは果実を作るエネルギーを節約し、種を果実に擬態させることで、鳥が果実と間違えて食べることを期待しているのではないか、と言われている。具体的にはイヌツゲとかアオツヅラフジの実に似ているというが、全体像が違いすぎるのでこんなのに騙される鳥がいるのか疑問もある…。
以前イネ科植物はほぼ果実を作らないということを書いたのだが、ヤブランの場合は果実を完全に捨て去っていて種は剝きだしであり、被子植物の果実進化の極北ともいうべき存在であると思う。ヤブランは進化的にも面白く、ガーデニングにも有用なのに、ほとんど注目されないのである。ちなみに、その根は大葉麦門冬という漢方薬にもなるらしいのだが。
※1 APG植物分類体系では、ユリ科ではなく、スズラン科またはクサスギカズラ科に分類されており、まだ確定していないものと見受けられる。
※2 細かい話だが、grassは正確にはイネ科の雑草を指すので訳がちょっと不正確…。
※3 カンキツのヤブランによる草生栽培というのは既に試験した人がいるらしいが、その結果は知らない。(『農業技術体系』の8巻に記載があるらしい)
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