少し前のことだが、先輩農家かららっきょうをいただいた。
漬け物にせずそのまま食べても旨いということだったので、家内が豆腐の薬味として使ったのだが、これが大成功。
冷や奴の上に、スライスして湯通しした(お湯をかけるだけ)らっきょう、そして枕崎産のかつお味噌を載せるとというごく簡単な料理だが、漬け物にするより美味しい。新鮮ならっきょうはそのまま食べるのが一番だということを改めて感じた。これは、ご当地グルメとして流行ってもおかしくないくらいだと思う。
そもそも、鹿児島県は全国有数のらっきょうの産地で、最近は鳥取や宮崎に水をあけられているが、ごく最近までずっと生産量日本一だったのである。そしてその中心は南さつま市、日置市吹上町などの吹上浜沿岸の南薩地域だ。ところが、このことは鹿児島でもあまり認識されていない。
その原因としては、鹿児島県のらっきょう生産は小規模零細農家に支えられてきたことが大きい。統計を見てみると、鳥取、宮崎、鹿児島の生産量はほぼ一緒(4000トン弱)だが、鹿児島の場合は出荷量がなぜか1000トン以上少ない。これは統計に表れない消費が多いからで、鹿児島県のらっきょう生産は組織的に販売しない小規模零細農家に多くを負っていることを示唆している。事実、周りを見ても小面積栽培の農家が大変多い。
また、鳥取・宮崎と著しい対照を見せるのが加工用らっきょうの出荷量だ。宮崎は約75%が、鳥取でも約50%が加工用(漬け物用)として出荷されるのに比べ、鹿児島では漬け物用の出荷はほとんどないのである。これは、鹿児島県民が(全く自覚がない人が多いが)全国的にも無類のらっきょう好きで、らっきょうは自分で漬けるのがスタンダードなため、多くが生の状態で売られるからだ。
鹿児島には、砂丘として全国一の長さを誇る吹上浜を有すのみならず、保水性がなく痩せたシラス台地が広がっている。そこで他の作物が作りにくい痩せた土壌を活かす工夫として自然発生的にらっきょう栽培が広まったらしく、鳥取や宮崎のような組織的な生産・販売の体制がほとんど構築されなかった。そのため、本来鹿児島が元祖であったはずの「砂丘らっきょう」は鳥取(JA鳥取いなば)に商標登録されるなど、近年、鹿児島県のらっきょう販売は他県に遅れをとっている感が否めない。
もちろん、鳥取のらっきょう生産は大規模農家によって担われており、らっきょう畑が集積して広がっていることからブランド化しやすかった、ということはあると思う。しかし販路拡大のための積極的な広報の他にも「鳥取砂丘らっきょう花マラソン」や「らっきょうの花フェア」の開催といった関係者の地道な努力があってブランド化に成功したのであり、こういう面は見習う必要があるだろう。
一方、鹿児島県の現状を見ると、特にらっきょうを売り出そうという気配もなく、せっかくの特産品がほとんど認識すらされていないのは残念だ。それどころか、鳥取などの生産量拡大によってらっきょうの単価が下がるなど、生産者をめぐる状況は厳しくなってきている。らっきょうは、消費に限界がある漬け物利用が中心であるため、全国での生産量が増加すれば単価が下がるのは当然だ。であればこそ、鹿児島県は生食用のらっきょう販売が他県に比べ圧倒的に多いという特色を活かして、漬け物でない生食らっきょうのご当地グルメを作るなど、全国的にほぼ未開拓である生食らっきょうの売り込みに取り組むべきだと思う。
鹿児島県のらっきょう生産は小規模零細農家が多いために、農家まかせではなかなかそういうプロモーション活動は出来ないわけで、(他力本願ではあるが)県や市、そして地域のJAに是非頑張ってもらいたい。生のらっきょうがこんなに美味しいということは全く知られていないので、その努力次第では新たな名産になるだろう。
【参考文献】
「鹿児島県のらっきょう生産概況」1987年、藤井嘉儀
※ 鳥取大学の研究者が、圧倒的全国一位だった頃の鹿児島のらっきょう生産を分析したもので、”鹿児島県は小規模零細農家ばかりだから、鳥取県のらっきょう生産は勝てる!”のようなことが書いてあり、とても驚いた。虎視眈々と鹿児島の地位を狙っていたわけである…。
「地域特産野菜生産状況調査」2008年、農林水産省
らっきょうは、人々が真実に気がつけば必然的に求めることになる最強の食材のひとつだと僕は思っています。
返信削除消費量は宣伝次第でいくらでも増える余地はあるし、それだけの潜在能力がらっきょうにはあると思います。(潜在能力がなければすぐダメになりますが)
ただ認知されていないだけだと思います。
かげながら鹿児島産のらっきょうのさらなる飛躍を願っています。
生ラッキョウの販路拡大がんばってくださいね。
コメントありがとうございます。
削除らっきょうの時期になりましたね。最強とまでは思っていなかったので、コメントを拝読して、私自身まだ気づいていない可能性があるんだなと思いました。宣伝がほとんどされていない、というのは本当に残念なことですが、同時に今後の伸びしろがあるということでもありますね。生らっきょうの販路開拓に乗り出すのは先の話ですが、ぜひ取り組んで行きたいと思います! 応援ありがとうございます。