2015年7月1日水曜日

死人が地主の農地:南さつま市まち・ひと・しごと創生総合戦略へ向けて(その2)

人口を維持していくためにはそれ相応の「仕事」がなくてはならない。

というわけでまずは基幹産業の農業から。

農業の振興のためには、最近では6次産業化とか「モノづくりよりコトづくり(ストーリーのある農作物を作る)」みたいなことが言われているがそれはホンの上澄みの話で、本当に必要なのは、生産性の高い農地とその集積、そして安定生産と価格の安定に尽きると思う。要するに使い勝手のよい農地で安定的に生産・販売することが一番だ。

安定生産は品質・収量を一定にすることだから農業技術の話で、価格の安定は市場との関係になって難しいので、行政として取り組めるのは「生産性の高い農地の準備とその集積の支援」になるだろう。

これは農水省が現在進めている「人・農地プラン」でも言われていることでそれなりに取り組みは始まっているものの農地の集積などはなかなか進んでいない。農地というのは動かすのが本当に難しい。長い目で取り組んで行けば徐々に農地の集積も進んでいくだろうが短期的な効果は薄いだろう。

そして報道だけを見ると農地はいくらでも余っているような印象を受けるが実際は逆で、今は農地の奪い合いとも言えるような状況になっている。機械化が進んで農家一人当たりの耕地面積が増えた結果、生産性の高い農地(平らで広い、道がある、他の農地と近いなど)を求める農家が多いからだと思う。実際、農地中間管理機構(農地の貸し借りを仲立ちしてくれる組織)でも農地を借りたいという希望が、貸したいという希望の10倍くらいある状況である。生産性の高い農地は引っ張りだこだ。

一方で、耕作放棄地が多いというのも事実である。南さつま市の場合、統計を見ると耕作地と同じくらいの広さの耕作放棄地と遊休農地がある。これは、他の農地から遠い、狭小である、機械が入っていけない、などそれなりに理由があって耕作されていないわけで、これを無理に耕作地へと変える努力は無意味だ。だが場所がさほど悪くなくても遊んでいるところもある。

それは、以前も触れたが「地主が地元にいない農地」である。地主と連絡がつかなければ借りることはできないのでこれは当然だ。ではなぜ地主さんが土地を遊ばせておくかというと、一言でいうと面倒だからだと思う。農地の固定資産税は僅かなものだし、積極的に借りたいという人が現れなければ放っておくのが楽である。

さらにもっと大きな問題は土地の権利関係にあって、キチンと相続されていない土地がものすごく多いということがある。相続されていないということは、名義上は先代や先々代のもちものになっていて、権利関係がややこしい。こうした土地がどれくらいあるのか統計が見当たらないが、私の近所で考えると相続されている農地の方が僅かで、名義人が死亡している農地の方が多いように見える。 つまり生きている人より死んでいる人の方がたくさんの土地を所有しているという異常な事態が起こっているのである。

なぜ土地の相続がキッチリなされないのかというと、名義変更にかかるお金に比べ土地の値段が僅かであること、そもそも名義変更が困難であること(権利を持つ人と疎遠であったり知らない場合がある)、名義変更しなくてもすぐには困らないこと、などが挙げられる。

しかし長期的に見ると土地の名義人が死亡していることは地域に大きな影響を及ぼす。要するに土地が塩漬けされているのと同じことで、適切に利用していくことができないので基盤整備(土地の形を整えたり道を拡幅したり、利用しやすい農地に造成しなおすこと)もできない。ただでさえ不在地主というのは問題があるのに、それがこの世にすらいない不在地主だというのは問題外である。

実は幕末にも似たようなことがあった。抜地(ぬきち)といって、質草として土地の非公式の貸し借りが行われた結果、所有権が錯綜して代官にも土地の本当の持ち主が誰なのかわからなくなり、適正に年貢を課税することができなくなって村が荒廃する(本当には土地を持っていない人が年貢を納める義務だけ負って没落する)という現象生じている。

戦前にも不在地主の問題でいろいろあって戦後には農地解放が行われたが、農地の所有権が適切に設定されていないという問題は農業の根幹に関わるものであるだけに、一見さほどの影響がないように見えても真摯に対処すべきである。

具体的には名義変更(相続)が行われていない土地の登記変更を役場が支援する(事務手続きの代行・書類作成支援・登記費用の補助など)ということが考えられる。もちろん手始めには、市内にどのくらい「死人が持っている土地」があるのかを割り出して、そのうち有効に利用されていない土地を検分し、10年くらいでこれを全部名義変更する目標を持って予算を組むというような地味な作業をしていく必要がある。

しかし既に状況はかなり末期的であって、現実的に名義変更することが困難な土地がたくさんあるので(共同名義の土地などで関係者が数十人にも上り、印鑑を集めることが無理な土地など)、いずれ法規的な手段によって強制的・自動的に名義を変更する措置を講じなくてはならないと思う。例えば、一定の猶予期間を経て現に固定資産税を払っている人に自動的に名義変更するような特別措置法をつくることが考えられる。そうしないと日本の国土は多くが死人の財産になってしまうのは明らかである。この問題を看過していると確実に国土の荒廃を招くと思う。法務省の英断に期待である。

(つづく)

【2015.7.2アップデート】タイトルを改めました。 「南さつま市まち・ひと・しごと創生総合戦略へ向けて(その1)」→(その2)→(その3)と続くとわかりにくかったので。

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