2026年5月9日土曜日

中学校に「国語の先生」がいない——デジタル機器でなんとかできないか


うちの娘の中学校=大笠中学校には、今年度、国語の先生がいない

「中学校に国語の先生がいないってどういうこと⁈」と思うだろうが、もちろん国語の授業がないわけではない。

大笠中学校は、全校生徒数が39名の小規模校である。これに対する先生の数は15名(非常勤教諭含む)だ。そのうちに校長・教頭や養護教諭などもいるので、授業を担当する先生の数は8名ということになる。この8名で9教科を受け持たなくてはならない。

当たり前のことをいうようだが、中学校の先生は、教科ごとの免許を持っている。「中学校の教員免許」があるのではなくて、「中学校の国語の教員免許」といったように教科ごとの免許がある。

そして国語の先生は、大学で国語の勉強をしたから国語の先生をしている。もっと具体的にいうと、教員免許を取得するための勉強(教職課程)には、「教職に関する科目」と「教科に関する科目」、「教育実習」があって、国語の教員はこのうち「教科に関する科目」において国語の勉強をして免許を取ったわけだ。

そして、中学校の先生は、自分が教員免許を取得した教科以外は担当することはできない。これまた当たり前のことである。

しかし授業を担当する先生が8名しかいないと、原理的に9教科それぞれに先生を配置できないということになる。

ではどうするか。といってもどうしようもないので、配置されている先生でなんとかするしかない。具体的には2つの方法がある。第1に、「免許外教科担任」と呼ばれる制度がある。これは、1年間に限り、都道府県教委の許可によって専門外の教科を担当できる制度である。要するに「本来の教科でない授業を1年間はできる」ということだ。そして第2に、「臨時免許状(臨免)」という制度がある。これは都道府県教委が(その都道府県内に限り有効な)当該教科の免許状を臨時的(3年間有効)に出すものである。

第1の方策は「免許はないけど1年免許外の教科を担当できる」ということで、第2の方策は「臨時的に専門外の免許を発行する」ということになる。2つとも「しょうがないので本来の担当教科じゃない授業をする」という点では全く同じである。

ちなみに、文科省は第1の方策「免許外教科担任」について「安易な許可は行わないことが原則」とし、「各学校種、各教科の指導に必要な教師を計画的に採用し、適正に配置する」べきだと指導している(後述の「免許外教科担任の許可等に関する指針」)。

ところが鹿児島県では、離島を中心にして僻地の小規模校が昔から多かったので、9教科全ての先生を配置できないことが多く、「免許外教科担任」と「臨時免許状(臨免)」は多用されてきた。特に実技4教科(美術、音楽、体育、技術・家庭)については離島では配置できないことが多く、「免許外教科担任」と「臨免」は常態化している。

近年、文科省としては「免許外教科担任」はあくまでも非常手段であり「相当免許状主義(適切な免許を持った教員を配置するという考え)の例外として本来抑制的に用いられるべき」とし、「できる限り縮小していくことが必要」と言っている。そこで(はっきりとした統計はないのだが)鹿児島県教委では「免許外教科担任」を「臨免」に置き換える動きがあるような気がする。やっていることは同じなのでなんら事態は改善されていないが、「臨免」では形式的に「適切な免許を持った教員」がいることになるので相当免許状主義に合致するのである(←深読みしすぎかもしれません)。

それはともかく、鹿児島県では離島が多いという地域的特性から「適切な免許を持った教員」を全中学校に配置するのは無理だ、という諦めというか、開き直りが県教委にあり、鹿児島では「臨免」が多用されてきた。それどころか、鹿児島県教委には「いざとなれば臨免を使えばいいんだから、適切な免許を持っている教員を配置できなくてもかまわない」という甘えすらあるように感じられる。

ちなみに「臨免」は都道府県教委が「申し訳ありませんが臨免で免許外教科を担当してください」と先生にお願いして交付されるのではない。逆に、先生の方から「免許外教科を担当したいので臨免を交付してください」とお願いする、という形になっており、免許の申請手数料も先生の個人負担である。申請の手数料はそんなに大きな金額ではなかったと思うが、都道府県・市町村教委の人事の不備によって本来の担当教科外をさせられるのにもかかわらず、「臨免」の申請手数料を個人負担にしているだけでも教委の姿勢は察せられる。現場にしわ寄せがいくのをなんとも思っていないのである(教委事務局にも先生はたくさん入っているのに不思議だが、実際そんな感じだ)。

そんなわけで、娘の中学校で国語を担当するのは音楽の先生なのだ。御多分に漏れず「臨免」を使ってのことである。

本来、「免許外教科担任」にしろ「臨免」にしろ、主要5教科(国語、数学、英語、理科、社会)の先生を配置した上で、実技4教科の先生が足りないという状況に対処する苦肉の策だったはずだ(実際、「免許外教科担任」の90%以上は実技4教科で使われる)。ところが、大笠中学校の場合は国語の授業を音楽の先生が行う。こんな人事はなかなかない。

もちろん、この音楽の先生にも中学校にも何ら責任はなく、むしろ被害者である。音楽の先生が国語の授業をやらないといけないくらい、県教委の教員人事がメチャクチャだということなのである。そして今年度の大笠中学校では、この音楽の先生だけでなく、本来の教科に専任できる先生は2人だけで、あとの6人は教科を兼担している。いかに「臨免」が常態化しているかが理解できよう。

「臨免」での授業は、本来履修するべき「教科に関する科目」をやっていない先生が担当するわけだから、どうしても授業の質は落ちやすい。だいたい、「専門外の授業をやらせる」というのは、専門の人にも失礼である。じゃあ何のために中学校の教員免許は教科ごとに分かれているのか、と思うだろう。音楽の先生が国語の授業もできるというなら、大学で学ぶ国語教育の科目の存在価値はなんだということになる。

「そんなこと言っても、先生が足りないのだからしょうがない」と人はいうかもしれない。

それは確かにそうだ。しかし、少なくとも鹿児島県では、20年以上にわたって教師の採用抑制が続いてきた。なかなか正式採用されないので、臨時採用(=臨採、つまり非常勤雇用)で数年以上不安定な立場で教師をしてきたという人も珍しくなかった。本採用をあきらめて私立学校に就職した人も何人か知っている。そんな状況が続いていたのにもかかわらず、今になって教委(文科省も)が「先生が足りません」「先生になりたい人が少ない」と言っているからオカシイのである。

もちろん、これは文科省にも責任の一端はある。財政面だけに限っても、2006年に大きな曲がり角があった。国は小中学校の教職員の給与の3分の1を負担している(義務教育費国庫負担制度)が、2006年以前は、この負担割合が2分の1だった。この制度改正で約8500億円の人件費が国から地方負担へと変わった(名目は地方分権の推進だった!)。地方から見れば、教職員給与の負担額が2006年にガクッと上がったということになる。鹿児島県の教員採用抑制は、この制度変更も一因にあると私は見ている。

しかしながら、2006年以前から鹿児島では「免許外教科担任」や「臨免」は常態化していたと思う(統計が見られないため推測だが)。長年そういう状況を放置してきた鹿児島県教委の責任は重い。

ではどうすべきか。教委の不作為が原因であったとしても、「先生が足りないんだからしょうがない」というのは事実であり、文句を言っていても始まらない。

実はこれについて、私は長女が中学生だった時から言っている持論がある。「小規模校同士の連携」が一つの方策になると思うのだ。

大笠中の近隣には、やはり小規模校の坊津学園(義務教育学校)がある。坊津学園の規模も大笠中と似たようなものなので、同様の問題を抱えているはずだ。この2校が授業を連携させたらどうだろうか。坊津学園に正規の国語の先生がいれば、オンラインで同時に授業をしてもらうことができる。中学校の授業はオンラインのみでは完結できないので大笠中側でも補助的な役割の先生は必要だが、これは授業の質が上がるだけでなく、「臨免」で国語を担当せざるを得ない先生にとっても助かるだろう。

近年、文科省は「GIGAスクール構想」といって学校のデジタル化を進めてきた。私自身は、「勉強は紙と鉛筆だけで十分」という考えだが、せっかくデジタル機器が準備されているので、これを活用して小規模校同士をつなげば教育の質の向上を図ることができる。

実際、奄美群島では小規模校がつながり、オンラインでの授業が開始されている(※高校と小学校)。こういうことにデジタル機器を活用するのは大賛成である。ちなみに文部科学省も、「免許外教科担任の許可等に関する指針」(令和6年改訂)で

免許外教科担任の負担軽減のため、当該教科に係る全ての授業を当該免許外教科担任が担当するのでなく、当該教科の領域の一部(中略)について、相当免許状を有する教師等が遠隔で指導し、その間の受信側教師として、当該免許外教科担任以外の教師を配置することも考えられる。

と遠隔授業の活用を勧めている。

そして小規模校同士の連携は、先生の負担軽減にも繋がる。これは何も「臨免」頼みの人事への対応だけではない。

実は、小規模校の先生が抱える大きな負担にテスト作成業務がある。中学校の定期テストは、先生自身が作成するというのが慣例であるが、小規模校の場合、ちゃんと免許を保持している教科担がいる場合も学校にその教科の先生は一人しかいない。ということは、その一人が3学年の定期テストを全部作成するということになる。

大きな学校だと、作成するのは1学年のテストのさらに半分というような場合もありテスト作成の手間はそれほどでもないが(採点は大変だが)、小規模校の場合はテスト作成は馬鹿にならない業務量だ。「臨免」で担当している場合は、自分に専門性がないのだからなおさらである。

そこで小規模校同士連携して、例えば数学のテストを共通化すれば、テスト作成業務は半分にできる。もちろん学習進度を合わせるといった別の手間もあるが、テストを作成するのは結構大変なのでメリットが上回ると思う。そして小規模校同士の連携には「競い合い」の機会を設けるという効果もある。小規模校の場合、何事も順位が固定化しがちであり、生徒同士が競い合う機会があまりない。例えば、大笠中と坊津学園でテストのトップ点数を競うようなことがあれば、トップ層のやる気につながる(蛇足だが、こういう時に学校の平均点を比べてはいけない。理由は明らかだろう)。

そんなこと言うなら、いっそ合併・統合すればいいのに、という人もいるかもしれない。

私は、小学校の統廃合には絶対反対だが、中学校の統廃合は教育の質の向上を目的とする限りにおいては反対ではない。というのは、小学校のうちは人数に限らず地元で楽しく過ごすことが健やかな成長に大事だと思うが、中学校では仲間と競い合うことが成長につながると思うからである。

しかし現今の学校統廃合の議論を見ていると、行政が統合を主導する際には「小規模校ではこんな弊害が!」と盛んに喧伝するくせに、その議論が収まるとそうした弊害を改善する動きは全く見られない。本当にそうした弊害を真剣に受け止めているのであれば、統合しなくてもできることに取り組んでいただきたいと思う。そうした姿勢がないから、行政のいう統廃合が実際には「小規模校の弊害」を解消するためなどではなく、お金の問題でしかないと底が透けてしまうのである。

ともかく、統廃合までしなくても、今はデジタル機器の力を使って小規模校の弊害をかなりの程度低減することができるのだから、一足飛びに統廃合に向かうのではなく、まずはできることから取り組んではどうかと思う。なにしろ、統廃合は行政的にも大きなエネルギーを要するのに対し、こっちの方は比較的簡単に実現可能だ。極端に言えば、校長同士がやろうといえばできるのである。

実は、娘の国語の授業をする音楽の先生は、新規採用2年目の方である。2年目といえば、まだ職員研修などがあり、専門教科の指導を確立するために土台作りをするべき時期である。実際、鹿児島県教委でも新規採用研修中は「臨免」を出さないことが慣例になってきた。そしてこの先生は娘の担任でもある。これは教師としての初担任なのだ。つまり、最もサポートを必要としている先生に専門外の教科の負担まで押しつける、という異常なしわよせが娘の中学に現れているのである。 どうにかしないといけない、と思わない方がおかしい。

新任直後の音楽の先生が国語の授業をしなくてはならない、という異常事態を奇貨として、ぜひデジタル機器を使った小規模校同士の連携に取り組んでいただきたい。よろしくお願いします。

【附記】
上記の話を中学校の校長にしたところ、「すぐには難しいがぜひ取り組んでみたい」とのことだった。 

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