来期から果樹生産を有機栽培に切り替えたいなあ、と思って『有機栽培の果樹・茶つくり』(小祝 政明 著)でお勉強。
著者の主張は単純で、農薬を使わずに病害虫を防除するためには植物体自体を充実させなくてはダメで、そのためにはミネラルと有機のチッソが重要だ、という。
ミネラルは植物の生育に必須なものであるにも関わらず、意識して投与しないと不足がちになるのでわかるが、「有機のチッソ」というのはなんだかよくわからない。要はアミノ酸のことらしいが、著者曰く「有機のチッソはそのまま細胞づくりに使えるので、光合成でつくられた炭水化物の消費が少なく、糖度を高めることができる」(p.31)とのこと。
植物は無機物の窒素(硝酸とか、アンモニウムとか)だけを吸収すると思われているが、実は有機物の窒素(アミノ酸の一部として存在する窒素)も少量ながら吸収するようだ、と最近言われ始めた。じゃあどのくらい有機物の窒素を吸収するのか、というのは手元に資料がないが、多分無機物の窒素吸収率とオーダー(桁)が一つ違うと思う。
つまり、植物がアミノ酸を吸収できないとは言わないが、アミノ酸では直接は肥料にならないのではなかろうか。そのあたりの疑問に対しては本書は何も答えない。実際にそれでうまくいっているのだから理屈にはこだわらない、ということだと思う。
ところで、有機栽培の本にしては珍しく、本書にはほとんど土壌微生物の話が出てこない。有機栽培の要諦は土作りだと思うが、そのための土壌微生物の活発化・安定化が触れられないというのは奇異である。というか、有機の窒素=アミノ酸肥料を投与すると、これを直接的に栄養にするのは土壌微生物なわけだから、著者が「そのまま細胞づくりに使える」という「有機のチッソ」こそ土壌微生物の活発化の話なのではないか。
しかも、本書では「施肥は早めにやった方がいい。春肥は降雪前に」と述べるのだが、これは、アミノ酸を土壌微生物が分解して窒素を無機態にするために時間がかかるからだと解釈できる。 本書では早めの施肥の理由を「肥料分が土壌に浸透するのに時間がかかるから」と解説しているが、微生物の働きを考えた方が合理的だ。
ちなみに、著者は農家や学者ではなくてジャパンバイオファームという農業資材屋さんであり、本書には自社資材の普及の意図もあるのかもしれないが、そういう広告めいた記載は全くなく、基本的には信頼できる。その理屈の部分では疑問符がつくようなところもあるが、果樹の有機栽培について実践的に述べた本は少ないので、貴重な本ではある。ぜひ来期のポンカン栽培に生かしたい。本書でも「中晩柑類の有機栽培はこれから非常に面白い局面を迎えるのではないか」(p.190)とあって勇気づけられた。
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