2012年11月16日金曜日

二番煎じでも美しい。鹿児島県立農業大学校のキャンパス

とにかくレンガが美しい。積み方も凝っている。
1週間ほど、日置市と南さつま市の境目にある鹿児島県立農業大学校で研修を受けた。農耕車限定の大型特殊免許を取るためである。

研修はさておき、初めて入った農大のキャンパスがとてもおしゃれでびっくりした。ハンドメイド風の赤煉瓦と緑の屋根の色彩が美しく、鉄骨ではなく集成材を使った構造で内装にも木がふんだんに使われ高級感がある。コンクリートの柱はギリシャ風とすら見える重厚な作りで強度もある一方、細かい意匠も凝らされてデザイン全体の配慮が行き届いている。さらに夜になると間接照明を多用した瀟洒なライティングがなされ、まるで結婚式場のようである。

誰がこのキャンパスを設計したのかと思い、農大職員のご協力を得て調べてみると、施工者は鹿児島県建築設計監理事業共同組合だが、実際は日建設計が主導したようだ。日建設計といえば、最近だと東京スカイツリー、東京ミッドタウン、首相官邸、京都迎賓館など大規模プロジェクトを数多く手がけた我が国を代表する建築設計事務所。日建設計であれば、農大キャンパスのクオリティの異常な高さも納得である。

総工費は調べられなかったが、建築開始時の新聞によれば500億円程度とのこと。もちろん校舎だけでなく、造成、栽培施設・設備も含めてだから施設が何億円なのかはわからないが、レンガ一つとっても特別にヨーロッパ(多分イギリス)から取り寄せたものらしく金に糸目をつけていない雰囲気があり、民間施設とは比べものにならない価格なのは間違いない。緩やかにカーブするコリドー(回廊)、全棟切妻屋根、特注品の巨大ガラス(1m×7m程度)など、豪華な部分を挙げていけばきりがないほどだ。

ちなみに、驚くべきことに実はこのデザインは高知工科大学のキャンパス二番煎じのようだ。高知工科大キャンパスは同じく日建設計が手がけ、これは公共建築賞特別賞等を受賞するなどすばらしい出来らしく、同校は「日本一美しいキャンパス」を自称している。どうもこれが農大の雛形になっているようで、レンガの取り寄せまで高知工科大と共通している。農大のランドマークともなっているドミトリー(学生寮)などは高知工科大ドミトリーと瓜二つで、日建設計が同時期に設計したとはいえ、ここまで似ていると手抜きじゃないかと思いたくなるほどだ。

ただ、屋根の色と形など細かいところで基本デザインにも当然違いはあり、また農大の方が低層(2階建て以上がない)で落ちついていて、土地もゆったり使っており景観との親和性も高いように思われる。ぜひ高知工科大も実見して比べてみたいところである。両校の学生が相互に訪問したら、そのキャンパスの相似に驚きつつも、細かい相違も気づいて面白いだろう。

キャンパスをいろいろ褒めたが、農大の職員もどこが設計したのか知らなかったくらいで、せっかくの素晴らしいキャンパスがあまり注目を浴びていないようなのは残念だ。日建設計が二番煎じの建物を作ったからなのかもしれないが、二番煎じであっても非常に素晴らしい建築なので誇るべき財産だ。もちろん、「農大にそんな贅沢なキャンパスはいらんだろう。税金の無駄遣いだ!」という感想も抱くが、まあ一次産業に将来をかけている鹿児島県の意気込みを表した建物だということにしておこう。

0 件のコメント:

コメントを投稿