2016年3月26日土曜日

「薩摩文旦」サワーポメロの定植

以前、サワーポメロには将来性があるのではないかという記事を書いた。

その時は、自分では「これから増やしていこうという気もないが…」と書いていたものの、いろいろ考えてみて、理屈の上ではやっぱりサワーポメロは将来有望だと確信するに至ったので、今年約30本サワーポメロを植えてみた。

時々農作業を手伝ってくれる父も「今時サワーポメロが売れるはずがない」と言っているし、周りにもサワーポメロに力を入れている農家はいないので、ある意味リスクのある選択だが、理詰めで考えてこうだとなったら、それを実行に移してしまうのが私のサガである。

ところで、このサワーポメロというもの、調べてみると実体がはっきりしない。

「サワーポメロ」という柑橘には鹿児島県以外の人は馴染みがないと思うが、それもそのはずで実は「サワーポメロ」という柑橘は存在しない。これはブンタンの一品種「大橘(オオタチバナ)」というものの鹿児島県での通称・愛称であり、柑橘の分類としては単なるブンタンなのである。

昭和の終わり頃、鹿児島県が「大橘」を将来有望なブンタンであるとして生産奨励を行い増産を図ったことがある。この時、「ブンタン(大橘)」では社会へのアピールが足りないということだったのだと思うが、鹿児島県と鹿児島県経済連でこの品種の通称を公募したのである。それで、昭和60年に「サワーポメロ」という通称が定まり今に至っている。年寄りに聞くと「昔はサワーポメロなんかなかった」と言われるが、おそらく、この通称決定以前はこの果物は単に「ブンタン」と呼ばれていたのだろう。

しかし、この名称が定まった時には、時代は既に軽薄短小で食べやすい果物へとシフトしてきていた。ブンタンのように、大きくて皮が剝きにくく、包丁を使って処理しなければならない柑橘は人気が出なかった。結局、「大橘」は増産されたものの、期待されたほどの利益が生まれず、今では県内で40haくらいしか生産されていない。実はまだ生産奨励品目から外れていないらしいが、実際にこれを増やしていこうという農家は少数だと思われる。

さらに、このような経緯で「サワーポメロ」という名称が定まったためもあるのだと思うが、この果物は名称が混乱している。同様のブンタンが熊本県では「パール柑(カン)」という名称で販売されているが、この「パール柑」と「サワーポメロ」が同じものなのか、違うものなのかもあやふやである。

「パール柑」は、鹿児島の垂水の果樹試験場にあったブンタンを原木にして熊本県で育成されたものであるが、これが昭和20年代のことであったために、同じ果物が鹿児島と熊本で違う名称で呼ばれることになった、と言われている。

とまとめたら簡単なのだが、実はそうはいかない。

「パール柑」と「サワーポメロ」は別物だ、という説が存在するのである。曰く、「パール柑」は「サワーポメロ」ではなく、「土佐文旦」だというのである。実際、苗木屋のカタログを見ると「土佐文旦(パールカン)」と書いてある。そして、「土佐文旦(パールカン)がサワーポメロとして販売されていることがあるので注意」などと但し書きがあったりする。どちらが本当なのか。

しかし、今度は「土佐文旦」を調べてみると、これは「サワーポメロ」と同一品種だという情報もあるのだ! 「土佐文旦」は「土佐」とついているが、実はこれも鹿児島の加治木にあったブンタンから増殖させたもので、実際は鹿児島のブンタンであり、その原木がどうやら今で言うサワーポメロかその近縁種だったらしい。これを元に高知県で原木が確立したのが昭和4年の話である。

となると、結局「大橘」=「サワーポメロ」=「パール柑」=「土佐文旦」、ということになるが、苗木屋のカタログでも「サワーポメロ」と「土佐文旦」は別の苗木として販売されており、それどころか収穫時期や果重、果実の特性(ジューシーさなど)も違うと書いてある。うーん、真実はなんなのか。

実は、「大橘」は鹿児島在来のブンタンであり、来歴は不明ながら、いわば自然発生的な品種のようである。つまり誰かが品種改良して作ったものではなく、ブンタンを育てているうちに交配を繰り返していつからか生まれた品種ということになる。なので、現代でいう「品種」にぴったりこないところがあるのだろう。そのため、同じ「大橘」でも様々な変種や亜種が存在して、同一品種が違うものとして認識されたのかもしれない。

そもそも、鹿児島はブンタン類の本場である。中国からブンタンの原種が渡ってきたのが鹿児島の阿久根だという。大橘だけでなく、鹿児島ではかつてたくさんのブンタンが自然発生的に栽培されていたようだ。ブンタンの大きな果実はどことなく南国を彷彿とさせ、鹿児島の南国ムードを演出するのにも一役買っていた。「ボンタンアメ」(鹿児島では、ブンタンは「ボンタン」と発音されることが多い)とか「ざぼんラーメン」はいかにも鹿児島な感じがする(ざぼん=朱欒はブンタンのこと。ざぼんラーメンは鹿児島のラーメンの老舗で、別にラーメンにブンタンが入っているわけではない)。

今から考えると、大橘の「サワーポメロ」という通称があまりよくなかったかもしれない。「サワー」と言いながら酸っぱさが際立っているわけでもないし、どことなく外来の品種のような感じがして地に足がついていない名称である。むしろ鹿児島在来のブンタンであることを誇り、シンプルに「薩摩文旦」で良かったのではないか。そっちの方がずっとわかりやすくて認知が進んだような気がする。

「土佐文旦」で文旦の栽培振興を行った高知県は、今では鹿児島を遙かに凌ぐブンタンの産地となっている。「土佐文旦」から生まれた「水晶文旦」は、非常なる高級品を産み、一玉2000円もする極上品が販売されてもいる。ブンタン栽培の中心地はすっかり高知県になってしまった。


もちろん、鹿児島を改めてブンタンの産地にしていこうというのは、ちょっと無理があるだろう。だが、「大橘」は戦前のブンタン類の中では最高の品種とされていたそうである。高知みたいに上手く栽培・販売はできないにしても、在来の「大橘」はまだ活かす道があるのではないか。改めてその可能性を信じて、「薩摩文旦」を作ってみるのも一興だろう。

【参考】
広報いちき串木野 2015.2 VOL.112 「知っておきたいサワーポメロの話」(p.11)

17 件のコメント:

  1. サワーポメロ おいしいですね。好きです。
    包丁なしで皮がむけるといいのですが。
    さすがに店頭に袋詰めをみると サワーポメロを知らない人は手を出さないかも。
    ところで 文旦(ボンタン ぶんたん ざぼん)阿久根ボンタン さわーぽめろ 全部同じものですか? 
    黄色い大きい柑橘 くだもの これが私が呼んでいた数年前までの名前です(^^)

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    1. コメントありがとうございます。文旦はこの果物の名前です。阿久根ボンタンは文旦の品種名で、サワーポメロとは違います。サワーポメロも同じく品種名です。皮については、ムッキーちゃんという便利な道具もありますよ!
      http://www.buntan.com/goods/kawamuki.htm

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  2. http://seiko-engei.com/gardening/fruit-2/buntan/

    ここの写真を見比べる限りですが
    土佐文旦と大橘は果肉の色が違いますし
    味も大橘が土佐文旦より優れているみたいですね。「食味最高の文旦」ですもんね。
    吉岡国光園さんも「味が段違い」と表現されておりますね。

    同じと主張している方々も歴史的に見れば同じものだというのは理解はできるんですよね。もしかすると鹿児島、土佐で独自に進化してそれぞれサワーポメロ、土佐文旦として独自に進化をとげたんでしょうかね。

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    1. ご教示ありがとうございます。
      果樹の場合、原木の接ぎ木・接ぎ木で育てていくので、進化というのはないんです。同じ木のクローンを使っていくわけですから。しかし、異なった環境で育てていると、発現する遺伝子が変わってしまうことがあります。つまり、遺伝子は同じだけど違う性質を持った植物になるわけです。おそらく、土佐文旦とサワーポメロは大きく見れば大橘で同じなのですが、異なった環境でのクローンを繰り返したため、発現する遺伝子が微妙に変わっているのかなーと思っています。

      ちなみに、鹿児島県の栽培統計では、サワーポメロとパール柑は大橘としてまとめられており、土佐文旦は違う品種として分類されています。謎です。

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  3. サワーポメロ、美味しいのでうまくいくといいですね。
    家にも植えてありますが一つの木から果肉が黄色っぽいものと薄く緑かかったものの二種類ができ、緑っぽいものは手がべたべたになるほど甘くなるのですが、どういう条件でこちらができるのかわからない状態です。
    風狂さんのサワーポメロはどのような果肉でしょうか?また自家受粉でしょうか?教えていただけますと幸いです。

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    1. 私の圃場に今生えているものは、果肉が黄色っぽいやつです。同じサワーポメロでもいろいろな情報があり、皮が手でむける/むけない、じょうのう膜(小袋)が食べられる/食べられない、など、個体差が非常に大きいです。異なった系統のものが混在しているんじゃないかと思います。薄く緑かかった果肉というのは初めて聞きました。すごく興味深いです!

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    2. 返信ありがとうございます。やはり個体差が大きいのですね。
      家のは皮が手でむけず、じょうのう膜が食べられないものです。緑かかったの果肉は水晶文旦に似ているかもしれません。
      周りからも緑の方を欲しいといわれるので、これからいろいろ試してみようと思います。

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  4. こんにちは。
    京都在住で鹿児島出身です。サワーポメロをいつも実家から送ってもらっているのですが、それならうちの庭にも一本植えようと思い、苗木の購入を考えています。
    サワーポメロ美味しいですよね。他の柑橘よりずっといい味がします。また、剥きやすくて手があまり汚れずに食べられるので、夫も鹿児島から送ってくるのをいつも心待ちにしています。
    サワーポメロの栽培頑張って下さい!

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    1. 温かいコメントありがとうございます! サワーポメロファンからの応援をいただいて嬉しいです。今年も2週間くらい前、新たに13本植えました。ぜひ周りの方にもサワーポメロの美味しさを布教(!?)していただければと思います。
      今後ともよろしくお願いいたします!

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  5. 風狂 様
    サワーポメロを植えてみようと検索していてこちらにたどり着きました
    サワーポメロの酸味甘みそして苦味の組み合わせが好きで良く食しているのですがその際大量の種が手に入るので折角なら撒いてみようと思った次第です。
    貴園で植えられているものはカラタチの接ぎ木ですか?何年程度で実が付くものでしょうか。
    それと私も土佐ブンタン、水晶ブンタン、サワーポメロ、パール甘の違いが気になります。
    食べ比べしてみたいのですが購入先が謳っている名前と実際送られてくるものが実は違う分文旦種だという可能性もありそうで躊躇します。
    風狂様は食べ比べされたことはありますか?あれば食味など是非ご教示いただければと思います。
    p.s.文旦販売しましたという記事をみたので購入させていただこうと思ったのですが短期間で売切れてしまったのですね^^; サワーポメロ人気が有るみたいで嬉しいです。

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    1. とーやさま、コメントありがとうございます。うちで植えているのはカラタチの接ぎ木苗です。実生だと、他の柑橘は15年といいますが、たぶんブンタンはそれよりもずっと短いような気がします。8年とか? 時間があるなら実生の方が面白いですよ。
      私は、水晶文旦とだけ食べ比べしたことがあります。水晶文旦の方が高級品なのに、サワーポメロの方が美味しいと思いました。
      また、ブンタンご購入しようとしてくださってありがとうございました。売り切れちゃってて申し訳ありませんでした。

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  6. 返信いただきありがとうございます。
    今期柑橘系を買いすぎて家族に怒られているので水晶買わずに済みそうでよかったです^ー^
    アドバイスいただいたとおり実生から育て将来接ぎ木してみたいと思います♪

    ところで下記鹿児島の別々のショップから購入したサワーポメロですが食味以外でもかなりの違いが見られました。同じ程度の大きさ熟れ具合を選びました(取り急ぎ撮影したので汚くてすみません)
    https://i.imgur.com/LS27HJ6.jpeg
    ●左 実 白に近い黄色 種子 濃い黄色 細長くシワが多い(こちら何玉か食べましたが楕円は無い)
    ●右 実 黄色    種子 白っぽい 長方形が多く楕円有り 左のものより一回り大きい

    といった感じです。(育て方の違いだけで同じ種かもしれませんが。。。)
    風狂様の農園のものはどちらに近いですか?

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    1. 正直言いますと、うちでも樹によって違って「これってサワーポメロなのかなあ? 別のブンタンか?」と思うやつもいるのですが(笑)、基本的には左側に近いです。特にこの記事で定植したやつは左です。でも種はこれほど多くはないですね。

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  7. 私は数年前から文旦にはまり、土佐文旦、サワーポメロ(大橘)、パール柑、安政柑、メイポメロ、水晶文旦などを通販で取り寄せて食べてきました。
    その中でも土佐文旦、サワーポメロ(大橘)、パール柑の違いについて関心を持っておりました。
    通販で産地からお取り寄せをして食べ比べてみたのですが、土佐文旦とサワーポメロは、風味、味共によく似ており、サワーポメロのほうが、やや甘みが強いと感じた次第です。

    この2種に対して、パール柑は、風味はともかく甘味が薄く、ほんのわずかな塩辛さを感じる個体もあり、しばらく置いておき酸を減じさせてみても甘みがそれほど増さないというのを感じた次第です。

    以上から考察するに、パール柑は、土佐文旦、サワーポメロとはやや異なった近縁種であると思っております。

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    1. 飛行艇さん、丁寧なコメントありがとうございます!
      私自身も食べ比べてみたいなと思いつつも、同じサワーポメロでも樹によって違いがあったりで、厳密に比較するのは難しいと感じてきました。ですから、たくさん食べ比べしてきた人の実感は大変参考になります。ちなみに、文旦の中で一番美味しいというものがありましたら教えていただければ幸甚です。

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    2. 風狂さま
      コメントありがとうございました。
      返信が遅くなり申し訳ございません。

      文旦の中で「おいしい!」と感じたのは、安政柑(あんせいかん)です。江戸時代末期の安政年間に、南方から持ち帰った文旦の種から生じたものとされており、広島県因島や愛媛県の一部においてのみ栽培されているそうです。
      樹による個体差が大きく、スが入りやすい欠点があり、おいしくないものもあります。
      ソフトボール大の大きさで皮がやや萎びている感じの安政柑が「当たり」の可能性が大きく、シャキシャキとした独特の歯ごたえに加えて、甘夏みかんに砂糖をまぶしたような感じの甘みが口の中に広がります。
      安政柑は、毎年、今の時期に通販で取り寄せております。
      今年の安政柑は、「甘い」ものが多いです。

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    3. 飛行艇さま

      ご返信いただきありがとうございます。安政柑って知りませんでした。栽培するかどうかはともかく、お取り寄せして食べてみたいと思いました。ご教示いただき改めてありがとうございました!

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