2013年12月7日土曜日

農業の研修旅行で感じたこと

大浦町の若手農家を対象とした、宮崎・都城方面への研修旅行に参加させてもらった。特に記録というものでもないが、感想を書いておきたい。

研修先は、(1)農事組合法人はなどう 農産物直売所「杜の穂倉」、(2)農業生産法人 株式会社宮崎アグリアート、(3)農事組合法人 きらり農場高木、と道中のいくつかの物産館である。

それぞれ刺激を受ける点が多々あったが、この3箇所を通じて印象深かったのは、今や完全に農業は大規模化の時代であるということである。

農水省は、ここ10年来、大規模農家、特にグループ経営の農業経営体を優遇する政策を続けており、日本農業の積年の懸案だった「生産性の低い零細農家の淘汰」を推し進めている。というより、農業の担い手の高齢化等によって、既に農地を集積せざるを得ない現状があったわけで、積極的に零細農家を淘汰しようということではなく、そうした課題を解決しようとする意欲があるグループを支援するような政策を打ってきた。

具体的には、農業の大規模化・集団化に関係する各種の補助金を優遇してきたのであるが、その成果がここ数年で顕在化しつつある。特にそれを体現しているのが(3)の「きらり農場高木」で、詳細は省くが、農水省の推し進めている政策のモデルのような経営を行っている。 集落の農地を集積し、小規模零細農を廃業させ、大型機械を導入して合理的な経営を行う。一般の人がイメージする「アメリカ型農業」と言ったらいいだろうか(※)。

こうした経営は、現在は補助金頼みの部分もあるが、零細農の寄せ集めよりも生産性が高いのは確実で、仮に農水省の優遇政策が終わったとしても、確実に生き残っていくだろう。(3)は日本の農業経営体の目指すべき一つの姿であるといえる。

しかし、である。意地悪なことを言うと、それは農水省が随分以前から推し進めてきたことであって、今ことさらに強調すべきことでもない。(3)は時流を捉えた素晴らしい経営を行っていると思うが、逆に言うと、これまでの農政から理論的に予見される存在であるという見方もできる。もちろん、だから悪いということではなくて、存在としては素晴らしい。でも、私は(3)にはあまり興味を持たなかった。

むしろ、こうして実際に大規模化・集団化をうまく成し遂げた経営を目の当たりにし、私が目指したいのは、これとはまた少し違ったところなのかなということを逆に認識させられた次第である。では私が目指したいところはどこにあるかというと、やはり零細農業である。

零細農業というと、生産性が低くそれこそ補助金頼みのイメージがあり、それは事実である。しかし、大規模化こそが唯一の正解であるとも思えない。むしろ、零細なままで、生産性を高める方法があれば、それを見つけてみたいのである。

そもそも、我が大浦町は(海岸沿いの干拓地は別にして)狭小な農地が散在しており、畦畔も急なところが多く、大規模化しても効率化には限界がある。今後、労働人口の減少によって自然に農地集積は進むと予測されるが、今それを急に進めようという気運もなく、準備には時間と労力がかかり、そのとりまとめは心労が多い仕事になるだろう。

それに、地域の事情もよくわかっていない私のようなヨソ者が、地域の農地を集積していくことを目標に営農計画を立てていくのは無謀というか愚かである。ということは、私は今後も狭小な農地を相手に農業をしていかざるを得ない気がするから、零細農業でどうやって利益率を高めるかということを考える必要があるわけだ。

さらに、これを言い出すと話が農業をはみ出るが、そもそも生産性を高めたいのは農業というより人生である。私は名刺の肩書きに「百姓」と書いているが、人生の生産性を高める手段は農業に限らないわけで、面白いことなら何でも取り組んでみたいし、「農業」だけの効率を追求したいわけでもない。職人的に農業一筋で生きていくのはそれはそれでカッコイイ生き方だと思うけれども、軽佻浮薄な自分にはできない。

大規模化自体が悪いということは全くなくて、むしろ日本の農業に最も必要なことであることは間違いない。私は、大規模化による「サラリーマン農家」の存在が日本の農業を変えると思っている。そして、仮に大浦町の若手農家で農地集積や大規模化に取り組むということになれば、自分に出来ることは積極的に協力はしたい。ただ、一方で「合理的なもののつまらなさ」を感じてしまう自分がいることも確かである。合理的に生きようとすれば、そもそも役所を辞めていないであろう。

偉そうなことを言って、数年後には大浦の農事組合法人に雇われる身になっているかもしれないが、ここは日本本土の果て、薩摩半島の"すんくじら"(隅っこ)なわけだから、日本全体の潮流とはまた違った、辺境の地ならではの取組ができたらいいなと思っている。

なお、(2)の株式会社アグリアートについては、大規模化だけでない、有機農業を始めとしていろいろ独自の取組をやっているし、友人がいるところなので、機会をみてもう一度訪問してみたい。今回、(2)は私のワガママで日程に入れていただいたのだが、ワガママを聞いてくれた皆さんと、事務局の市役所・南薩地域振興局に感謝である。

※ 実際の米国の農業は、もちろんそんなのばかりではない。

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