2024年11月19日火曜日

抜け道だらけの法規制がゴミの違法な処理を助長する問題について

夏の台風で柑橘の苗木が50本ほど倒れ、その復旧のために小型の運搬車で作業をしていたら、ゴムクローラーがちぎれてしまった。

微妙に傾斜しているところだったのでゴムクローラーの交換には苦労したが、なんとか交換できたので一安心である。

というわけで、今、手元には2本の廃ゴムクローラーがある。これを処分したいのだが、じつはゴムクローラーはなかなか処分ができなくなっている。

「埋め立てごみじゃないの?」と思うだろうが(実際、一昔前までは埋め立てごみとして簡単に処分していた)、これは今単純な埋め立てごみではないらしい。

というのは、現代では最終処分場を長持ちさせるため、埋め立て処分をする前に細かく砕く処理が必要になり、ゴムクローラーはこの処理に手間がかかる。中心にコマという金属の部品があって、これがあるためにシュレッダーでは砕けない(らしい)からだ。つまり埋め立てごみにするためにも、わざわざコマを取り除くという処理が必要で、処分費用がけっこうかかるのだ。1㎏いくらで処分費用がかかり、ゴムクローラーはかなりの重量物であるため、運搬費用もかかる。

そんなわけで、私の手元にある廃ゴムクローラーは、適正に処分するには1万円弱ほどかかるようである。新品が4万円弱だから、これはかなり高額な処分費用だ。

それでもまあ、1万円払って業者にお願いしたらいいのだが、こういう有り難くない廃棄物(処分に手間がかかるだけでクズ鉄のように市場性がない)は、業者も積極的に取り扱っていないらしく、そもそも処分してくれる業者が少ない。

だから廃ゴムクローラーは、とりあえず倉庫の隅や空き地にでも放置しておく、ということになりがちだ。実際、自分もそうしてしまっている。

このように、ゴミ処理の場合は、「適正処分を推進する取り組みが、逆に処分を阻害する。場合によっては違法投棄を助長する」ということはよくある。

わかりやすいのが、家電リサイクル法のいわゆる「対象4品目」。すなわち、テレビ・冷蔵庫・洗濯機・エアコンは、法律に則った処分が義務づけられており、その処分費用も決まっている。これは大量に廃棄される家電を適正に処分し、リサイクルを推進するための法律なのだが、現実は、そうなっていない。

田舎道を走っていると、こんな風に冷蔵庫や洗濯機が山と積まれた場所を時々見ないだろうか。

これは何かというと、廃棄物回収業者が違法に回収した家電製品の山なのである。

廃棄物回収業者は、「処分に困っている冷蔵庫などございましたらご相談ください」と言って軽トラで回る。そういう業者に回収を依頼すると「冷蔵庫の処分費用は法律で決まっていて、5000円です」などといって、法律に則った処分費用を請求する。もちろんここまでは何の問題もない。

ところが法律に則っていないのは、「家電リサイクル券」というものを出さないことである。これは、適正処分のためのトレーサビリティのための書類なのだが、処分する側としてはこの書類があろうがなかろうが、冷蔵庫が処分できさえすればいいので、ちょっとは気にしたとしても業者を追求することはない。

ところがこうした業者は、回収した冷蔵庫を適正に処分する気はさらさらなく、野外に積んでおくだけだ。それで5000円が丸儲けになるわけだ。そうしてできた家電の山が、日本の田舎には大量に存在していると考えられる。経済産業省のWEBサイトでもこのように注意が促されている。


このように、経産省では無許可の業者を非難しているが、しかし真の問題は、「無許可で家電を回収すればもうかる」という状態をつくっていることなのではないかと思う。

そのために、家電リサイクル法が出来る前よりも家電の不正な処分・違法投棄はずっと増えているのではないだろうか。適正な処分・リサイクルを推進するための法律のせいで、不正な処分・違法投棄が増えるというのは、政策の失敗と言われてもしょうがないだろう。

後知恵で言えば、廃棄の時に個人から処分費用を徴収するのではなくて、メーカーから徴収するか、あるいは税金の補填で適正処分をするようにすれば、このような問題は起こらなかった。

もうひとつ、廃棄物といば、かつて「天下の悪法」と呼ばれた「容器包装リサイクル法」もある。これは市区町村のゴミ収集において、「容器包装」については分別回収しなくてはならない、という法律だ。

「容器包装」、特にプラスチックゴミは非常に種類が多く、ポリプロピレン・ポリエチレンなどが混在し、またシールが貼ってあったり汚れていたりする。これではリサイクルが難しく、市区町村ではこれを分別回収してはいるものの、原材料としてリサイクルしている場合はほとんど存在しないと思われる。ではどうしているかというと、廃プラゴミとして輸出して処分しているのである。このせいで、日本は世界第3位の廃プラ輸出大国であり、世界で取引される廃プラの一割程度を日本が占めているという。

「容器包装リサイクル法」のおかげで日本が世界第3位の廃プラ輸出大国になるとは皮肉が効いているではないか。

「容器包装リサイクル法」は、一見、分別回収を義務づけるしごく当然の内容だが、問題は(1)「容器包装」というくくりが存在し、合理的な分別回収(材質毎の回収など)をむしろ阻害していること、(2)その結果、せっかく分別回収しているにもかかわらず廃プラが結果的にリサイクルされずに輸出されたり燃料として燃やされたりしていること、(3)これらが市区町村まかせであるため、メーカーに容器包装を減らすインセンティブがあまりないこと、である(正確にはリサイクルのための費用の一部を払う義務があるが、徹底できていない)。

もちろん、こうした問題は環境省も認識してはいるのだが、どうも合理的な法体系に改正するには至っていないようである。

世界にはゴミの処分が適正にできていない国や地域が多いことを考えれば、日本は割合にゴミを適正処分している方だと思うし、住民の不法投棄(ポイ捨て)もそれほど多くないと思う。

しかし組織的な不法投棄や、違法な処分はそれなりに目に付くレベルであるのが日本のゴミ処理でもある。しかもそれを、抜け道だらけの法規制がむしろ助長しているように感じる。例えばゴムクローラーの場合は、ただ埋め立てゴミにしていた時代の方がずっと適正に処分されていたような気がして仕方がない。

環境省や経済産業省は、決してバカではない。だから、業界団体や自治体から情報は集まってきており、ゴミの処分に様々な問題があることは認識はしていると思う。でも、実際に廃ゴムクローラーの処分に困っている人がどんな状況なのか、正確には理解していないと思う。彼らの認識があくまで統計上のものだからだ。

今は政府にも地方自治体にも人がいないから、なんでも統計だけを見て政策を決めてしまう。政策を検討する上でもちろん統計は大事だが、個別の事例を追求していくのもそれと同時に大事なことだ。廃棄物処理の政策を担っている人には、ゴミ処理の現場がどうなっているか、足を運んで見てもらえたらと思っている。

水戸黄門・暴れん坊将軍・遠山の金さんには、「民の暮らしを直接見た為政者」という共通点がある。これはフィクションだが、かつての日本の「現場主義」がこれらの物語の骨格を支えていたと思う。それは「現場を視てみろ、書類の上とは全然違うんだから」という態度だ。

今の時代、こういうフィクションが見当たらないのは「現場主義」が衰退したからでないといいのだが…。まさか経産省や環境省は「現場を見なくてもSNSを見ればだいたい分かります」とは思っていないですよね?

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