2015年3月12日木曜日

有機農業とフェアトレード

「絶対のこだわりがある!」というわけではないけれど、一応私は有機農業を実践している(つもり)。

以前「有機農業の是非を検証する」というやや小難しい記事でも書いたが、これは別に「安全・安心」とかのためではなく、環境の保全を念頭において取り組んでいることである。

「南薩の田舎暮らし」でも無農薬の柑橘を販売しており(認証を取らないと「有機」の文字は使えないので「無農薬」と表示しています)、味のことはさておいて、価格だけで見れば、無農薬の柑橘としてはほとんど日本最安で提供していると思う。

もちろんその価格設定は私の営業努力の足りなさと商才のなさを反映しているものであって、別に安売りしたくて安売りしているわけではない。が、一方で無農薬だからといってことさら高価格にもしたくないと思う。というのも、私は「農薬かかっててもそんなに気にしないし」という普通の人にも買ってもらいたいと思っているからである。

「多少高くてもやっぱり無農薬じゃなきゃね!」という人に買って頂くのはもちろん嬉しいが、そういう人は少数派であって、そういう人たちだけを見ていては自分の世界を狭めることになる。それに本来、農薬の使用・不使用などということは消費者は気にとめる必要がないはずだ。なぜなら、市場に流通するものはどれも安全なものであるべきだからだ。一応、売り文句として「南薩の田舎暮らし」でも今は「無農薬」を謳っているが、将来的にはそういうことを言わなくてもよいような感じにできたらいいと思う。

今の有機農産物は、とにかく「安全・安心」とか「美味しい」とか、要するに一種の高級品として販売されていることが多いので、それがなかなか広まっていかない要因の一つだろう(※)。欧州の諸国と比べ、日本では有機農業の割合がかなり低いが、「有機農産物=高級品」というイメージは日欧でどのような違いがあるのか(ないのか)知りたいところである。

ただ、価格に見合うだけの品質があれば、有機農産物を高級品として販売することにはなんの問題もない。だが以前の記事で述べたように、その価値にはまだ「イメージ」にすぎない部分もある。そこでふと思うのは、いわゆる「フェアトレード」と有機農業の類似である。

フェアトレードはよく知られている通り、発展途上国の農産物などを公正な価格・やり方で取引することで、要するに「搾取的でない当たり前の取引」である。こういう言葉があるのは「フェアトレード」でない取引が多いためで、代表的なのはカカオ豆だろう。

カカオの一大産地といえばコート・ジ・ボアールで、ここでは児童労働など劣悪な労働によって安価なカカオが生産されている。発展途上国の企業や組合にバーゲニングパワー(交渉を優位に進めていける能力)がないために、先進国の企業に安く買いたたかれ、そういう悲惨な状況に陥ったのである。

それを解消し、生産者に適正な賃金を払うため、最近では「フェアトレード」のチョコレートが販売されている。しかし搾取的な取引を行わず、生産者が十分にやっていける価格でカカオを買い取ろうと思えば、その結果チョコも髙くならざるをえない。だからフェアトレードのチョコは少し高い。では、消費者は何に対してそのプレミアム(価格の上乗せ分)を支払っているのであろうか?

フェアトレードだからといって、品質がよいわけではないし、「安全・安心」でもない。つまり消費者は、自らの便益のためにプレミアムを支払うわけではないのである。 消費者は、「公正さ」そのもののためにそれを支払っているとしか考えられない。

つまりこの場合消費者は、公正に生産され、取引されたものを使うべきだ、という社会的責任に対して価格の上乗せ分を支払っているのだと思う。すなわち、フェアトレードの商品というのは(いい意味で)消費者目線ではないのである。それは、便利な生活を享受する先進国の人間たるもの、えげつない取引で不当に安く作られたものは使うべきでない、という矜恃に訴えかけるものだ。

翻って有機農産物について考えてみる。有機農業(農産物)とフェアトレードは非常に似ている点がある。それはどちらも
  • そうでないものと比べやや高価になる。
  • 多くの消費者にとっては、そうでないものと比べ価値の違いが明確でない。
  • 利益を受けるのは、消費者というよりも生産者側もしくは環境である。
そういうことで、私は、まさに有機農産物はフェアトレードの一種として流通していって欲しいと思っている。有機農業も消費者目線でやるものではなく、あくまで持続可能な農業を目指すものだからで、環境に配慮して栽培されたものを使うことは、社会的責務であると思うからだ。フェアトレードは発展途上国の生産者に対して「公正」であろうとするが、有機農業は自然環境そのものに対して「公正」であろうとする

そういう形で流通すれば、例えば外食産業などで有機農産物を使う割合が少し増えるかもしれない(企業の社会的イメージを向上させるから)。今は、有機農産物が高価格なこともあって、ごく限られた市場しか持っていないが、CSR(企業の社会的責任)に訴えるような商品であれば、違った市場を開拓できるのではないだろうか?

とはいっても、私が有機農業のお手本にすべきだと考えるフェアトレード自体、流通全体で考えるとものすごく狭い世界である。一応市場規模は順調に拡大しているようだが、フェアトレード=当たり前の取引が「普通」になるには長い時間がかるだろう。

だが、「安全・安心なものを食べたい」「美味しいものを食べたい」という(有機農業でなくても応えられる)消費者のニーズに応えるよりも、 環境に対して「公正」であれという矜恃へと訴える方が、有機農業推進にとってはすがすがしいやり方だと、私には思えるのである。

※最大の要因は、日本の農産物の流通のしくみにあるのだと思う。

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