2014年5月7日水曜日

タダで美術館を運営してほしい、というとんでもない募集を南さつま市がやっています

絶景の笠沙美術館に指定管理者制度が導入されるということで、以前、それに期待する記事を書いたのだが、今般その募集が開始された。ところが、この募集が最大級にガッカリな内容だったので、ちょっと愚痴を聞いてもらいたい。

何がガッカリだったかというと、この募集、指定管理料がゼロ円なのである!つまり、タダで美術館の運営をしてください、というとんでもない内容なのだ。お金は支払われないが、指定管理者が行わなくはならない業務はもちろんある。募集要項によれば、
(1)主要な業務
①美術品の展示・保管。常設展示の絵画は3ヶ月ごとに定期的に入替を行う。
②企画展の開催
③施設の日常的維持管理
④展望ミュージアム条例第16条に基づく使用の許可・不許可(注:場所貸し)
⑤展望ミュージアム条例第17条に基づく利用料金の徴収
⑥施設及び周辺部の清掃
⑦保守点検及び小規模な修繕作業
⑧その他市教育委員会が必要と認める業務
(2)施設の運営に関すること
①管理状況について、毎月利用状況報告書を作成し、翌月5日までに報告すること。
(以下略)
というような仕事をタダでやらなくてはならない!笠沙美術館は、博物館法によるところの登録施設ではないので学芸員等を置く必要はないが、それでも美術品の展示・保管、企画展の開催といったものは創意工夫と専門的知識がないとできないことであるから、それをタダでやってもらおうというのは意味がわからない。

こんな募集では誰も手を挙げないだろうと思われるが、市の方の目論見としては、ここでカフェなどの収益事業をやってもらい、その収益でもって美術館を運営してもらいたい、ということらしい。具体的には、募集要項に
指定管理者は、市との協議に基づき指定管理者の創意工夫で飲食等自主事業を行うことができます。
自主事業を行うための施設の改修は、改修計画等を市に提案して協議を行い、市長の許可を受けなければならない。改修工事は市において実施します。
と書いてある。要は、営業のための改修費用は出してあげるからタダで美術館を運営してほしい、ということなのかもしれない。しかし、そもそも市の施設であるので改修を市が行うのは当然のことだし、店舗の改修にいちいち市との協議が必要ということだと商売的には面倒である。

この募集を単純化すると、施設のテナント料をタダにする代わりに、タダで美術館を運営してほしい、という取引を持ちかけているように見える。前も書いた通り、この美術館は日本全国でも屈指の眺望を持ち、しかも著名なデザイナーである水戸岡鋭治氏が建物を設計しているので、施設としての価値は非常に高いとは思う。それに、カフェなどを営業するとすれば、美術館の単純な管理業務(要は入館料の徴収)をあわせて行うのは非常に軽微な労力ですむのは確かだから、もしかしたらこれは悪い取引ではないのかもしれない。

だが、私がガッカリしたのは、タダで美術館を運営してください、という文化行政への意識の低さである。指定管理者制度の導入の目的の一つがコストカットであることはしょうがないにしても、タダで美術館を運営しろということは、市としてこの美術館を活かしていこうという気もなく、やっかい払い的に指定管理者に丸投げしているようにしか見えない。さらには、笠沙美術館の収蔵品はさほど多くないとは思うが、それらの作品はもはやお金を掛けて保管・展示していく価値がない、との市の認識が露見したということでもある。

これは作品を寄贈した黒瀬道則氏にも申し訳ないことで、お金を掛けて保管・展示する気がないのであれば、価値を認める他の美術館に作品を寄贈・売却してしまった方がよほどいいと思う。

本当に市の財政が火の車で、美術館のような「贅沢」な施設にはもうお金が出せない、ということならまだ分かる。だが、先日南さつま市は何千万円もかけて「くじらバス」という観光バスを導入している。こういう話題性はあるが薄っぺらい観光振興をするよりも、年間300万円でもいいから笠沙美術館にお金をかける気はないのか。そもそも、美術館というのは観光の大きな楽しみである。魅力ある美術館とその眺望、そしてステキなミュージアムカフェがあれば、それだけで旅の目的地になり得るというのに。

そして、仮にこの募集に応える事業者があったにしても、美術館の運営部分は収益事業ではないわけだから、美術館部分は縮小・簡素化していかざるをえない。タダで請け負っている事業なのだから、申し訳程度の美術館であればよしとするであろう。しかしそれでよいのか。やはり公益事業としての美術館部分があり、そこに付帯事業としてミュージアムカフェがあるという形でなければ話がおかしい。この募集の内容では、付帯事業のはずのカフェが本業で、美術館はついでにやればよい、というように受け取れる。

ともかく、この募集は文化行政の面から見ても、観光振興の面から見ても、普通のビジネスとしてみても、おかしい所だらけである。正直、募集者なしということで公募自体がやりなおしになって欲しいとさえ思う。文化芸術にちゃんとお金を出す、ということは矜恃ある市民として当然のことで、タダで美術館を運営させるしみったれた市を作ってはならない

5 件のコメント:

  1. いつも興味深く拝見しております。勝手ながら前回記事含め拙フェイスブックにてシェア申し上げましたところ、知人から「赤字施設を指定管理ゼロ円で受けて黒にしている事例」http://www.wanicome.com/com/com.htmlを教えてもらいました。交通の便や施設のベクトルなど参考になるとは限りませんが… 今後もご活躍を祈念申し上げます。 

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    1. いつもご高覧ありがとうございます。そして、「赤字施設を指定管理ゼロ円で受けて黒にしている事例」のご紹介感謝です。実は、この笠沙美術館も、来館者数が意外と多いことがわかったので、経営的には指定管理料0円でもOKなんじゃないか…? という気もいたします。しかし、やはり市として文化施設にお金を出さないというのは相当マズイんではないかと思います。でもこのようなコメントをいただき嬉しいです。この問題に関しては、愚痴を言うだけでなくて、何かアクションを起こしたいと思っています。

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    2. ご丁寧な返信ありがとうございます。なんらかご協力できることがありましたら貴ブログにてご案内いただけますと幸いです。

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    3. こちらこそ丁寧なご返信ありがとうございます! ご協力のお気持ちに感謝です。ある方が、地元テレビ局数局に連絡してくれたということですし、私自身も南日本新聞に電話してみました。メディアに取り上げていただいて、もっと広く問題意識を共有できたらなと思います。この件では何も変わらなくても、そのことで今後の文化行政が少しは変わるかもしれないですし。ともかく、ご厚意に感謝です。

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  2. ある芸術家2018年5月30日 0:16

    2日前にこの美術館を見てきました。素晴らしい作品が黒瀬画伯のものであり、この画家は素晴らしくてもっと沢山の絵画を見たいと思いましたよ。しかしスペースが美術館のレベルではなく建築家が著名な方としても、なぜこの小さいスペースデザインしか出来なかったのか?と計画性のないものを作ったと思いました。なぜ?と言う印象が有りました。

    出来たらこの美術館を再考するならばこの三倍位の見せるスペースが欲しいです。

    作品が160点も寄贈されているならば見せるスペースを確保して欲しいと欲求不満でした。

    景色も良くて楽しめる場所にあり南九州市に欲しい美術館を充実して欲しいと思いました。
    まさか投げ出しているなんて芸術の価値が全くわかっていないと思えます。( ´△`)の一言につきます

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