【参考】市報南さつま 2015年3月号「汚水対策、凍結から解凍へ」(4ページ目)
だが、この事業にはいろいろと問題があり、昨年末に住民説明会が行われてから「ちょっと待ったをかけた方がいいんじゃないか」という人たちで急遽「南さつま市公共下水道を考える会」というのができた。
それで、この会の主催で「公共下水道事業を取りやめた志布志市に学ぶ下水の話」という講演会が行われたのでそれに参加してきた。
志布志市も合併前に下水道を作ろうという話があって、当時の首長はそれを公約にも掲げていた。しかし、人口集積地でないと下水道事業は赤字になるということで、事業の推進の仕方に問題点を感じた市の職員の一人が反対。自治衛生連の会長もしていた市議の一人に働きかけてこの問題を市議会でも取り上げてもらい、施工一歩手前まできていた下水道事業を土壇場で中止させたのだという。当時、担当係長には随分恨まれたらしいが、今になって「あれは英断だったと感謝している」と言われているとのこと。
諫早干拓や八ッ場ダムに象徴されるように、その意義がなくなっても一度立案された計画は実行されるのが日本の行政の悪癖の一つであるが、このように施工一歩手前までいきながら事業中止の決断を下した市長は素晴らしい。こういう志布志の経験に学んで、南さつま市の下水道事業もちょっと立ち止まってみようじゃないかというのが会の趣旨である(私の理解)。
さて、南さつま市が推進しようとしている下水道事業は、市役所近辺の約77haの市街地に公共下水道を設置しようとするもので、下水処理施設は市役所の用地につくるそうである(対象地区は上の図の緑の部分。ちなみに赤い部分は、以前の計画では検討されていたが今回は見送る地域)。
もちろん私は大浦町に住んでいるので、この下水道の対象範囲外で無関係…といいたいところだが、実はそうではない。
というのは、下水道事業は47億円もの事業費が必要になるので、受益者(その地区に住んでいる人や事業者)だけでは負担しきれない。よって一般財源からの補填がなされるはずで、要するに、下水道を使えない多くの人にとってもお金という面で関係してくる話なのだ。
では受益者の数がどれくらいなのかというと、この地区の住民は約2000人だそうである。商業地なので従業員なども間接的な受益者だとしても、せいぜいその数は3000人だろう。そして、この地区に下水道を設置するには約47億円かかるので、この地区だけに一人当たり157万円もの税金が投入されるということになる。4人家族なら1世帯600万円以上である。これは住民サービスの観点からかなり不平等な政策ではなかろうか。
しかも、受益者である地区住民にしてもさほどのメリットがあるわけではない。その地区の人たちは既に浄化槽を設置しているわけだから、その浄化槽を廃棄して下水道に接続するという工事が必要になり、15〜40万円くらいのお金が一時的にかかる。
もちろん浄化槽の保守点検費が不要になるので長期的にはモトをとるかもしれないが、法律では下水道が整備されたら3年以内に(浄化槽をやめて)下水道に接続しないといけないとなってるものの、実際には接続はなかなか進まず下水道への加入率が8割を超えるには15年くらいかかるようだ。その間、低い加入率で経費のかかる下水道を運営しなくてはならないため、下水道事業は赤字になり、その費用はかさむことになる。
しかも、最大のポイントは下水道事業はある程度の人口密度がないと黒字にはならないということで、その境界は1haあたり40人くらいらしい。今回の対象地域の人口密度は25人/haということで長期的に赤字が予見され、モトが取れなくなる可能性が極めて高い。なにより、これから急激な人口減少が見込まれているわけで、人口密度が必要なインフラを整備するのは時代に逆行していると言わざるを得ない。
また、市は下水道事業の推進目的の一つとして「水質保全」を掲げるが、会の立役者(?)テンダーさんのWEBサイト(↓)で述べられているように、そもそもこの地区の排水が汚染度が特に高いという事実もなく、市は現在は水質調査すらしていない。
【参考】 47億円に匹敵?! DIYで下水の汚染度を要チェックだ!
さらに、今回対象地区となった地域がどうして選定されたかというと、住民の賛成が多かったからとのことであるが、その実態も不明であるし、巨額公共事業を行うのに、ちゃんとしたアセスメント(どの範囲で事業を行うのが合理的かの検証)なくして、住民のウケがいいからというだけで範囲が決まるのは解せない。
まとめると、現在計画中の下水道事業の問題点として、
- たった2000人のために47億円もかけて、モトがとれるかも分からない下水道を整備する意味があるのか(浄化槽設置に補助金を出すほうが安上がり。ちなみに南さつま市の年間予算は400億円くらい)。
- しかも対象地区の人口密度が25人/haであることを考えると、下水道事業は将来赤字を垂れ流し続ける可能性が高い(事実、人口10万人未満の自治体の9割で下水道事業は赤字だという)。
- 市は事業目的の一つに水質保全を掲げるが、水質調査すら行われていない。
- 対象範囲の決定にも不透明なところがある。
では、こういう問題がありながら、どうして市は下水道事業を進めようとするのか。私は下水道の説明会に参加していないので(対象地区外では説明会が行われていない)、なんともいえないがこういう事情があると思う。
まず一つには、下水道の整備には国庫補助があり、およそ半額は国が負担してくれるということがある。残り半分も全額起債によってまかなうことができ、要するに手持ち資金なしで巨額の公共事業を行うことができるのである。しかも起債の分は、地方交付税交付金の基礎財政需要額に算入されるので(要するに交付金の額が少し増える)、実質的な手出しは少なくて済む。多分事業費の1/4程度だと思う。
しかし建設費はお得だとしても、長期的には赤字に苦しむ可能性が高い。建設費に国庫補助はあるが、運営費には国庫補助はないからだ(というより、地方交付税交付金の基礎財政需要額の算出項目には、既に「下水道費」という項目があって、その分で運営しなさいといのが基本的な考え方)。
でも国のお金を使っての公共事業ならば、多少なりとも仕事が生まれるのだからいいんじゃないか、という考えもある。でも当然ながら南さつま市内には大規模な下水処理施設を建設したことのある業者はいないと思われるので、この大規模公共事業は市外の業者が落札する可能性が高い。
実際、旧笠沙町時代に野間池で下水処理施設を建設した際、20億円弱のお金がかかったらしいが、工事を請け負ったのは鹿児島市の業者で、15億円くらいのお金はその業者に落ちたようだから、市内に環流した分はほんの何分の一しかなかったことになる。南さつま市でも同様のことが起きれば、せっかくの47億円のほとんどは市外の人のフトコロに入ることになる。
ということで、下水道整備は公共事業としても筋が悪いように思われる。浄化槽方式なら市内の業者が潤うし、保守点検が生む雇用も大きい。
もう一つの推進理由はもう少し真面目なことで、インフラ整備を進めることで中心市街地を活性化したいということだろう。下水道を整備することは、現に浄化槽を設置している今の住民にはあまりメリットはないが、これから家や店舗をつくろうとする人には利点がある。
特にメリットを受けるのは店舗・事業所である。というのは、一般住宅に浄化槽設置をする場合は補助があるので下水道がなくても別に困らないが、商売で使う物件には浄化槽設置の補助がない。なので、特に小規模な店舗などにとって浄化槽を設置する負担は大きく、仮に下水道があれば初期投資がけっこう抑えられる。今回下水道事業の対象となっている地区にかなり商業用地が含まれていることを考えると、インフラ整備としては理解できる。
ただし、今後この地域に新しい店舗がたくさん出来ることは考えづらいし、商業振興を考えるなら下水道に47億円かけるよりも、直接的な商業支援を行った方がよほど効果的だろう。
以上のように、下水道に関してこれまで縷々述べてきたが、こうした問題の背景にあるもっと大きな問題は、巨額の公共事業を行うにあたり、まともな費用対効果の検証が全く行われていないように見えるという点である。
民間どころか国(政府)においてさえ、最近はフィージビリティ・スタディということが盛んに言われるようになった。これは、プロジェクトを実施する前にその実現可能性や採算性を調査することで、プロジェクトが巨大であればあるほどこの事前調査が重要になる。一時期やかましくいわれた「環境アセスメント」もその一つで、プロジェクトの実施によってどのような影響があり、そのコストをどう考えるか事前に事細かに検証する必要がある。巨大事業ほど実施後に「問題がおこったので中止しまーす」というわけにはいかなくなるので、これは役所の担当者・責任者の首を救うことにもなるのである。
下水道事業の目的が水質保全なら水質保全で、どの程度水質が汚染されていて、その汚染源は何で、下水道の整備でそれをどの程度改善するのか、それにどれくらいのお金をかけるのが至当なのかといった検証をちゃんと行わないといけないと思う。費用と効果が釣り合っているのかという検証無しに、事業の当否を議論するのは得策ではない。
本記事は、下水道事業反対の立場から記述してきたが、本当は推進派の市役所の意見もちゃんと聞き、その費用対効果の計算を踏まえて賛否を定めたいと思う。しかし50億円近くの事業をするというのに、その内実が全く不透明で、市役所のWEBサイトにも何も公表されていないので立場を定めようがない。
また、南さつまの下水道事業は、合併前から検討されながら凍結されていたものが、今回「公共下水道事業(汚水対策)検討委員会」で事業計画の見直しを提言されて再始動したらしいが、その「公共下水道事業(汚水対策)検討委員会」の議事録も資料もメンバーも公表されておらず、その提言書さえ公表されていない。
こういう大規模事業は、実行の気運がある時に急にやってしまうということが行政には多い。長々検討していると「ああでもないこうでもない」という議論ばかりが続いて前に進まなくなり、利害関係者の調停が困難になって頓挫する。だから気運がある時に、住民を置き去りにしてでもともかく着手することが、優秀な行政官なんだという風潮すらあったように思う。
しかし時代は変わっている。そういう方法で建設した施設や大規模土木事業は長期的に見てお荷物になることが多かった。今から考えれば、「ああでもないこうでもない」と長々議論することの方に意味があったのではないか。
下水道事業を実施するにしても、1年でも2年でもフィージビリティ・スタディを行い、どの範囲でどのような下水道網を整備することが理に適っているのかを検証し、費用対効果を(お金に換算しにくい部分も含めて)厳正に行い、その結果が芳しくなければ潔く撤退するという判断の余地を残した事業にするべきである。
また、この地区のインフラを充実させるということであれば、市役所周辺地域を南薩地区の中心として重点投資することを地区外の住民にも広く理解を求めるべきであるし、下水道整備の事業のみならず、電柱の埋設(麓地区の歴史的景観の整備)や本町商店街の活性化といった他の政策課題とも有機的に連携させた形で整備を進めるべきで、こうしたことをするには数多くのステークホルダー(利害関係者)を巻き込んだ検討が必要である。
一度大規模な公共事業が動き出したら役所の担当者本人にも止められなくなる。こういうことに慎重すぎるということはない。一部の人の独断専横ではなく、多くの人の意見を糾合させてよりよい街をつくりあげていく南さつまであってほしい。
今度の3月の議会で、早くも下水道事業の予算が審議されるそうである。「南さつま市公共下水道を考える会」はそれに少なくとも意見は届けようと、「せめて水質調査はしてください」という署名を集めて陳情を出そうとしている。私も署名してきたところだ。
南さつま市役所周辺に下水道は必要か。市民一人ひとりが考える時である。
【参考】
私も署名していいよ! という方は、署名用紙をダウンロードしてプリントアウトし、自筆にて氏名住所を記入の上、「南さつま市公共下水道を考える会」の平神純子市議会議員(加世田地頭所町24番地12)へと郵送またはお渡し下さい。2月初旬までに集めないと議会に間に合わないそうです。
→署名用紙(ダウンロード)
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