実は、明日からうちの納屋のリノベーション工事が始まる。
このあたりの古い家には必ず納屋が附属しているもので、うちも本宅よりも立派な2階建ての納屋があった。でもいつかの台風で2階部分が壊れて改築し今は1階部分しか残っていない。
昔も今も、農業には倉庫が重要であることは言うまでもないが、特に昔は牛に犂(すき)を引かせていたから家に牛がいて、牛を飼うためには納屋が絶対必要だった。写真で分かるように、建物の下半分が石詰みによって作られているのはこのためで、木造だと牛の糞尿によってすぐに材が腐ってしまう。だからこのあたりの古い納屋の下半分(の、特に牛のためのスペース)は石詰みによって作られている。
さらに、牛の糞尿は肥料にしたので、牛のいた区画の下は傾斜がついていて屎尿排水の口があり、下には大きな肥だめの空間がある。ついでに納屋の外には人間用の便所もあって、人間と牛の屎尿はそれぞれ下の肥だめに集められるようになっていた。
化学肥料が使えなかった昭和の半ばまで、これは農業をやっていくための大事な仕組みだったが、牛がいなくなり、化学肥料になって人糞も集めなくなると、この肥だめシステムは無用の長物と化してしまった。それどころか、肥だめには雨水が溜まって(沁み出してきて?)湿気の温床となり、地下の空間は危険な落とし穴にもなった。野良猫がこの肥だめの中に落ちてしまい、それを救出するのに3時間くらいかかった、なんてこともある。
というわけで、この無用の肥だめをなくしてしまうことにした。これから、また肥だめをつかって肥料を作るような時代が来ないとも限らないが、私の考えでは、昔の屎尿肥料の作り方にも非効率なところがあり(※)、仮にそういう時代が来るとしても昔ながらの肥だめシステムを使う必要はないだろうと思う。
具体的な工事としては、肥だめを壊し、埋め、上からコンクリートで塗り固めてしまうというもの。でも工事というものは、マイナス(迷惑施設)だったものがゼロになる、というだけではなかなかやる気が出てこないものである。というわけで、せっかく工事をやるなら、納屋のリノベーションを行って、ここをステキな部屋にしてしまおうというわけである。
そもそもうち(本宅)は築百年の古民家で、間取り的に現代の生活スタイルに合っていないところがあり、子どもたちがもうちょっと大きくなったら一部屋足りなくなる見込みだ。この機会に一部屋作っておけば将来の子ども部屋問題も解決するし、それまでの間は事務所か書斎として使うこともできる。
同世代が次々に新築の家を建てる中、このきったない納屋を子ども部屋にしようというのは忸怩たるものがあるが、加世田のステキな工務店crafta(クラフタ)さんのセンスで、新築するよりステキな空間に生まれ変わる予定である! 私としては密かに南薩の「納屋リノベーション」の先駆事例になったらいいなと期待しているところだ(同じような納屋がこのあたりにはたくさんあるので)。
ところで、こちらに移住してきてから、かなりのお金が工務店さんの方にいっている。本宅のリフォームはさておき、その他にも食品加工所(そういえばこれまでブログに書いていなかったのに気づいたのでいずれ書きます)、農業用倉庫、そして今回の納屋リノベーション。生活や仕事の基盤を作っていくというのは、なによりもまずその「場」を作る事が重要だ。「場」=不動産よりもコンテンツにお金を掛けるべきという考えもあるが、私の場合はまず「場」をしつらえるのを優先するので、これはこれでよかったと思う。
でも農業ではなかなか生活が成り立って行かない中で、どうして納屋リノベーションの予算が出たのかというと、これは当然貯蓄を切り崩して捻出している。そしてこれで都会時代の貯蓄が全て無くなった感じになり、また今年後半から新規就農の補助金も終わるので、これでいよいよ裸一貫でやっていかないといけない。正直、ちょっと不安はあるが、農業でなんとかやっていけないことはない、という見通し(だけ)はある。
お金のない中で、そんなやってもやらなくても困らない工事なんかやめておけ、という人もいるだろうが、私としてはこれも「南薩の田舎暮らし」の重要な基盤の一つだと思っている。生活や仕事の基盤はそろそろ出来てきたので、これからはそれを活かして行く段階になってくる。…と書いていたらだんだんやる気が出てきた。
というわけで「納屋リノベーション」がステキにできあがるか楽しみである。
※ というのは、糞尿を肥料に変えるには発酵させなくてはならず、それにはたくさんの空気(酸素)を必要とする。昔の肥だめは尿も一緒に集めていたためドロドロ状態になっていて、それを別の場所にわざわざワラなどと重ねて入れ発酵させていたようだ。今だったら、ブロアで空気をいれて発酵させるかもしれない。でももっと簡単かつ効率的なのは、糞は糞だけを集めて水気のない状態で発酵させることである。なぜ昔はこうしなかったのかよくわからない。
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