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2015年7月2日木曜日

流動性の絶対的不足:南さつま市まち・ひと・しごと創生総合戦略へ向けて(その3)

次は商工業の振興について。

商工業の振興というのは業種毎にいろいろ違う施策が必要になってくるから、汎用的なうまいアイデアは湧いてこない。既存店舗の売り上げをどう拡大していくかということに関しては、行政ができることは限られている。短期的にはプレミアム付商品券の販売みたいなことしかないだろうし、長期的に見ても商談会への参加・開催支援みたいなことになってくるだろう。

ただ一つ言えるのは、これから人口減少が確実なわけで今以上に地域外の人へ販売していく商材や方策が求められるのは確実だ。市内の人だけがお客さんというような店は、人口減少によって商売が縮小して行かざるを得ない。鹿児島市に、福岡に、東京に、海外に、と販売の範囲を広げていく支援をすることが長い目で見た商工業の振興になるだろう。

思い切って「Nansatz(南薩)」を世界ブランドにすることを目標にして近隣自治体と協力して販路開拓支援していくくらいのことをしたらいいと思う。

そして、そうした新しい商売をするに当たっては(厳しい言い方だが)既存の企業ではどうしても対応ができなくなるので、ベンチャー企業への支援を充実したらよい。それに、「田舎には注目されていない宝がたくさんある」とよく言われるように、これまで活用されていない資源を掘り起こすためにも新しい企業活動が必要だ。

これも、「南さつま市を日本一起業しやすい街にする」というくらいの目標を掲げて環境整備に取り組んでもらいたい。こんな辺鄙なところでそんなのは無理!と思うのは早計で、こんな辺鄙な日本の端っこだからこそチャレンジを応援するような施策が必要だと思う(前にも似たような記事を書いた)。

そして、それに関して是非とも必要だと思うのが物件の流動化である。これは商工業だけでなく移住者への住宅供給問題とも関係する。

全国的に空き家問題がクローズアップされているが、これにも非常に大きな誤解があるように思う。それは、物件を利用したい人が低迷しているから空き家が増えるのだ、という先入観である。実際には、こんな田舎でも物件を探している人は結構いる。そして見つからないという人も結構いるのである。空き家はたくさんあるのにどうして入居可能な物件が見つからないのか?

それは、空き家が住宅市場に出てこないからである。要するに、家主さんが貸し出さない。なぜ貸し出さないかというと、仏壇があったり(法事の時だけ利用する)、家財道具が未整理のまま置かれていたりするからである。それで、せっかくの家が倉庫となってしまっているケースが非常に多い。

現在政府が力を入れている空き家対策の主眼は、「倒壊しそうな空き家を撤去できるようにしよう」ということにあり、それはそれで必要なことだが、その前に「まだ使える住居をちゃんと利用できるようにしよう」ということの方がもっと大事なことだと思う。このように倉庫になってしまって塩漬けされている物件をちゃんと市場に放出するための施策が必要だ。

具体的には、まず家財道具を片付けることが是非とも必要になるので、「片付け補助金」の導入や片付けのサポートをやってはどうか。「片付け補助金」は既にいくつかの自治体(和歌山県宇佐市雲仙市日南市)などが準備しているので真似たらよい。

また法事の時だけ利用するという場合も、数年に一度の法事のために電気や水道の基本料金を払い続けたり、仏壇を放置しているというのは無駄である。数年に一度ならホテルを利用した方が安くつくし簡単だ。市内のホテルや旅館を利用した法事宿泊プランを作って宣伝していったらいいのではないか。

また、どうしても捨てられない家財がたくさんある場合は、廃校になった小学校などを倉庫として活用して預かる方策も考えられる(例えば一定期間過ぎたら破棄されるなど)。親族に相談しないと家財が処分できない場合、親族が一堂に会して相談するというのは難しいのでこのようにとりあえず外へ持ち出すことができれば片付けも随分進むのではないかと思う。

また、そうした方策を講じたら、そのチラシなどを固定資産税の通知に同封することがとても有効だと思う。当たり前のことだが空き家の持ち主は地元にいないことが多いので、唯一の地元との繋がりが固定資産税の通知である、なんてケースもありそうである。

このように、様々な方策により空き家をちゃんと利用できるようにすれば移住者も自然と増えると思う。近年「古民家」がブームになっているが、古民家というのはほとんど市場に出てこないもので、需要に比べて供給がとても小さい。古民家に移住したい人というのは、日本全国どこでもできる仕事(クリエイターなど)をしている人が多いと思うので、きっと南さつま市に来てくれる人もいるだろう。ここにはまだ使える古民家がたくさんある。

とにかく、田舎における最大の問題は需要不足(借り手・買い手がいない)ではなく、供給不足(貸し手・売り手がいない)にあるというのが私の認識である。

そしてなぜ貸し手・売り手が少ないのかというと、財産を持っている人(多くはお年寄り)がお金に困っていなかったり、たとえ売れても少額なので手間と釣り合わなかったり、貸したり売ったりする財産管理能力に乏しかったり(老人ホームに入っているとか)、地域にいない(つまり不在地主だ)からである。結果、地域内には有効に活用されていない不動産(家、農地など)がたくさん生じている。

この遊休資産を流動化・見える化し、それを必要としている人に(できれば低価格で)譲ることが地域振興にものすごく役立つと思う。

ところで、以前営業に来た銀行の方に「こんな田舎で資産運用を呼びかけても貧乏人ばかりでしょ?」と話を振ってみたら、「とんでもない! 市内と比べたらこっちは預金の桁が違いますよ!」という答えが返ってきた。田舎の人はお金を使うところもなく、多くが親の代からの持ち家で貯金が好きな人が多いらしく、貧乏そうな(失礼!)外面とは裏腹にかなりの預貯金があるのだそうだ。

これも、田舎に存在する遊休資産の一つで、これをどうにか地域振興に繋げることができたらよいと思う。

遊休資産を放出させる方策としては財産税(固定資産税とか)があるが、税金は法律によってしか徴収できないので、条例しか作れない市町村には独自の税金をかけることはできない。だからこれへの対処はキャンペーン的なものになるだろう。

例えば、市で独自に「未来応援基金」のようなものを作ってそれに出資を募るとか。集落単位で呼びかければ結構集まると思う。基金の運用は銀行や証券会社などに委託して(※)、その運用益を有望な事業に投資・分配して、商工業や教育に役立ててはどうか。

以前「ふるさと創生事業」で1億円が全国の市町村にバラマキされた時、(旧)大浦町はそれを教育のための基金にして修学旅行(外国行き)の補助に使っていたそうである。金利の高い時だったからできたことだが、1億円の元本には手をつけず利息のみで修学旅行に宛てていたと聞く。そういう使い方ができないものか。

そこまでは無理でも、多くのお金が集まれば僅かでも運用益が出てくるので、それで次世代の産業や地域社会を作っていくことができたらよい。

あまり活用されていない資産を、それを必要としている人に融通できる環境を作っていくことが今後の田舎には大事になってくるのは確実だ。これからの私たちには何もないところから資産を作っていく余力はもうない。既にある財産を活用して、新しいことを安上がりに成し遂げるしたたかさが必要である。オリンピックの競技場を作り直すような愚行をしてはいけない。地方創生は、田舎に新築物件を作るのではなく、田舎のリノベーションでなくてはならない。

※ ただし、基金というのは透明性を確保して専門家によって運用し、また使用についても公開の議論の下で民主的に進める体制を構築しないとすぐにお金が雲散霧消してしまうので、そういう体制がなく「証券会社に委託」しかできないようだったらやる意味はないと思う。

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