前回、委員長の吉田氏が「トンデモ」な方で暗鬱になった、と書いたが、この委員会はそういう面以外でも迷走している。
これまでの委員会の内容は(1)各WGに分かれて、「南さつま市で暮らすためには何が大切か」をブレインストーミングし、(2)WG毎に「どんな南さつま市にしていきたいか」というビジョンをまとめた。というところである。この委員会の正式名称は「南さつま市健康元気まちづくり百寿委員会」だが、ほとんど「まちづくり」のそのものまで検討範囲が広がっている。
例えばどんなビジョンかというと、あるWGでは
地域や人と人とのつながりを大切にし、すべての市民が生きがいを持って元気で笑顔で暮らせるまちにしよう。南さつま市の地域資源を活かし、観光・産業につなげよう。また、雇用や収入を増やすなど、人が集まる仕組みをつくろう。とまとめている。
今後、各WGのビジョンを統合したビジョンを策定し、それに向けて一人ひとりがどのような取り組みをできるかを提言していくのだそうだ。必要なことは行政の力も借りるが、基本的には委員会の委員がこれからのまちづくりの主役になって、主体的に取り組んで行くことが期待されているらしい。
百寿委員会は、普通の役所の委員会とは随分かけ離れたやり方の委員会で、役所からの諮問に答えるのではなくて、「いい意見がたくさん出ましたから、それにみんなで取り組んで行きましょう!」と委員の発奮を期待するプロジェクトのようである。
ちなみに、仕掛け人の吉田委員長の講話は、トンデモな部分以外は一応マトモではある。私なりに彼女の主張をまとめると、「健康に生きるためには、活気のある場所で暮らさなくてはならないから、街の活性化に取り組みましょう。そのためには一人ひとりがいろいろ取り組んで行くことが大事です」ということで、それ自体はもっともな主張と思うが、問題は委員会の議題として「街の活性化」にまで大風呂敷を広げてしまうと、収拾が付かなくなることである。
というか、この委員会は市役所の保健課が主管しているが、「街の活性化」ということだと保健課の所掌を完全に外れている。おそらく、保健課のみなさんも今頃「こんなことなら最初から企画課にやってもらうんだった」と後悔しているのではないだろうか。
それに、吉田委員長は葉っぱビジネスで有名な上勝町やアーティストの移住で知られた鹿屋の柳谷(やねだん)集落といったところを街の活性化の成功例として挙げるが、こうした特異的な成功例を喧伝して市民の発奮を期待するのはいいとしても、実際には町おこし運動は失敗の連続なわけで、こういったケースの二匹目のドジョウを狙うのは、宝くじが当たるのを待つようなものだ。「やる気さえあれば出来る」というようなことを言っていたが、ビジネスの世界は過酷である。
また、「委員のみなさんが主役になって動いて下さい」とも呼びかけていたが、既に町おこしを頑張っている人はたくさんいるわけで、街の活性化に取り組むならそういう人を応援することから始める方が、吉田さんの話に刺激を受けた委員が何かを始めるのを待つよりもずっと生産的だと思う。例えば、笠沙恵比寿の活性化から取り組んでみてはどうなのか。街の活性化なら、既存施設の有効利用をまず考えなくてはならない。だが、委員会ではそういう話にはならない。あくまで「一人ひとりが主役」なのだ。
この委員会の議論は全てこういう調子で、これまでなされてきた草の根の取り組み、行政の施策や施設、街が持っている財産や前提条件といったものには触れずに、「なりたい自分になるため新しいことに取り組みましょう! 行政に頼ってはダメ!」とけしかける。その結果、非常に表面的で一般的なことだけがきれいにまとまり、地味だが重要な既存施策の改善といった中身のある内容が全く手つかずに終わっている。
もし、私が委員会を進行するならば、既存施策のレビューと市民の健康状態のレビューを行い、公衆衛生と子育て・福祉の面で南さつま市が抱える課題をあぶり出し、短期的・中期的な目標を定めてそれを達成する方策を検討していく、という堅実だがツマラナイやり方になるだろう。そうしてできるのは、やはりツマラナイ施策のパッケージだと思うので、そういういかにも役所的なやり方を賞揚するものではないが、一方で、派手さはないが堅実で重要な仕事というのは、そうしたツマラナイやり方で一歩一歩進んでいかなくては達成できないものだと思う。
吉田さんは一種の山師のような方で、確かに当たれば大きな成果をもたらす才能はあると思う。だが山師であるために、そのやり方で常に成果が得られるとは限らない。特に今回のように、やりたいことが主管課の所掌と外れている場合、いくらその内容が優れていても成功の見込みは小さいと言わざるを得ない。広げすぎた大風呂敷をどうやって畳むのか、未だ先は見えないが、前向きな議論をしていきたいとは思っている。
是々非々でお願いできれば幸甚です。
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