先日、近くの山から腐葉土と落ち葉(が混ざったもの)を取ってきた。
これを何に使うのかというと、野菜作りに使う。私は物産館に出荷する野菜を無農薬・無化学肥料で作っているが、実は今のところ無肥料で作っていて、これは無肥料の畑に投入する資材なのである。
「無肥料」というと、畑になんにも入れないというイメージがあるかもしれない。でも何も土壌に投入しなければ、収穫物を持ち出す分、土の栄養分はどんどん失われていくので土地が痩せていく。なので肥料以外のもので物質の損耗分を補う必要があり、私の場合、それがこの腐葉土なのである(腐葉土は肥料成分がほとんどないので肥料に分類されません※)。
でも腐葉土は田舎ではタダで手に入るとは言え、山の中から人力で運んでくるのは重労働だ。しかも肥料なんかよりよほどたくさん入れないと効果がないので、「無肥料」なのに畑へ投入する資材の量は10倍くらいあるかもしれない(「無肥料」の畑の全てがこうなのではなくいろんな農法があります)。
無肥料までいかなくても、有機栽培でも何が大変かというと、栽培技術云々の前に投入資材の入手に手間がかかることが多い。農薬・化学肥料を使う普通の農業がやりやすいのは、その技術が確立しているからではなくて、単に肥料や農薬がJAの購買所に売っているから、という単純な理由であるような気がする。実際、私の畑は大した広さでないから山から取ってくるというような昔ながらのやり方で済んでいるが、仮に規模が今の5倍になったらとてもじゃないがこういうことはできないと思う。
ところで、この腐葉土や落ち葉を何のために入れるのかというと、基本的には炭素の供給である。
肥料の主要成分として窒素・リン酸・カリウムの3つは有名だが、炭素が栄養になるとは聞いたことがないだろうと思う。それもそのはずで、植物は炭素(C)を大気中の二酸化炭素(CO2)から取り込むことができるので、土中には必要としない。それどころか、炭素(正確にはセルロースなどの炭水化物)が土中に豊富にあると、この分解のために植物の栄養の窒素(N)が費消されてしまうので、投入資材の炭素と窒素の比率(C/N比)は低く抑えなくてはならないと言われている。
しかし、土づくりの主役である土壌微生物は、炭素を食べて暮らしている。我々が炭水化物を主食としているように、動物である土壌微生物も炭水化物が主な栄養源なのである。ということは、土壌微生物を豊かにしてよい土をつくるためには、土に炭素を豊富に供給しなくてはいけない。
しかしそこでジレンマが起きる。先述の通り、土中に炭素が豊富にあると植物の栄養である窒素が少なくなって、植物の生育が悪くなるのである。土作りのことを考えれば炭素は豊富な方がよいが、植物の生長を考えると炭素は少ない方がよい。
ではどうするか。一つのやり方として、炭水化物をなるだけスムーズに分解させ、土中の窒素の消費を低く抑えるということがある。実はそのための資材が腐葉土や落ち葉なのだ。
山の落ち葉を少し掻き分けてみると、写真のように白い糸のようなものが見える。これが炭素を速やかに分解する「白色腐朽菌」である。植物の木質(木や草の堅い部分など)というのは、リグニンやセルロースといった極めて分解が難しい炭水化物で出来ているが、白色腐朽菌はこれを分解できる数少ない菌なのである。肥料が何も補給されないだけでなく、落ち葉などの高炭素資材(窒素分が少なくて炭素が多い物質を農業ではこう呼びます)しか補給されないのに山の土が豊かなのは、この菌のお陰なのではないかと思う。
こういった炭水化物を強力に分解する菌が土中にたくさんいると、炭素を豊富に与えても速やかに分解して窒素の費消を抑えるので、先ほどのジレンマを解決することができるというわけだ。私がわざわざ山に腐葉土や落ち葉を取りに行ったのは、炭素の補給はもちろんだが、この白色腐朽菌の方も重要な目的だったのである。
でも実は、シイタケやナメコといったキノコ類も白色腐朽菌の仲間である。だから、シイタケやナメコの廃菌床なんかが手に入れば、わざわざ山に落ち葉取りに行く必要はない。
とはいっても、廃菌床はかなり腐った感じになっているし、ビニール等でパッキングされているし、それはそれで使う苦労もありそうである。やっぱり、肥料として売っているものを使うわけではない、というところがこういう農業の難しいところだ。
と、いろいろ書いてきたが、こういうやり方で持続可能な(収入がちゃんとあるという意味も含めて)栽培ができるのかどうか、というのも実はまだ実験中である。私が無肥料での野菜作りを始めたのも、「無肥料が体にいい・美味しい」とかいう話からではなくて、まずは極端なことをやっていろいろ勉強してみようという目的からである。
でもこれまでのところ、無肥料にすると確かに野菜が壮健になり、美味しくなるということが実際あるようだ。労力が普通より随分かかかるので、正直いつまで続けられるか分からないがこのまま試行錯誤を続けてみようと思う。
※正確には、腐葉土は「特殊肥料」というものに分類されており、腐葉土を施用するのもまかりならんというストイックな「無肥料栽培」も存在する。
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