「南薩の田舎暮らし」では、今年も無事「無農薬・無化学肥料のポンカン」の販売を開始した。価格は、去年と同じで9kg入りで3000円。つまり1キロあたり約300円。
今年は、ポンカンだけでなく柑橘全般がとても不作で、年末はポンカンも異常な高値だった。市場価格でA品L玉500円をつけていたこともあるようだし、小売価格でもだいたい1キロ500円くらいが相場だった。
もちろん年を越すと急に値段が下がるのがポンカンという商品の悲しいところなので、この価格と私の販売価格を単純に比べるわけにはいかないが、それでも「個人販売で高く売ろう」みたいなことが言われている最近の農業界隈を考えると、安売りしている自分は少し馬鹿みたいな感じがする。
でも高値で売るためにはそれなりの営業努力が必要だし、高値にしたらそれなりに責任も生じる。何よりまだまだ栽培がよくわかっていないので、今年までは「シロウト価格」としてこの価格を維持することにした。来年もちゃんと狙った通りに作れたら、その時は価格を改訂することも考えたい。何しろ、今の価格はほとんど最安値付近なので、「無農薬・無化学肥料」関係なく安さで勝負している感じである。もうちょっと付加価値で勝負しないと個人販売する意味がない。
ところでそれに関して一つ思うことがある。最近、農家の個人販売や独自ブランド構築といったことがよくメディアに取り上げられ、その際に「価格を自分で決められるのがよい」といったようなことを農家が発言するが、これは本当にいいことなんだろうか。
やり手の農家の場合はそれが歓迎すべきことなのは当然として、私みたいな商売がヘタクソな農家の場合は、本当に価格をいくらにしたらいいのか全然わからない。
例えば、今の時期、私は(無農薬・無化学肥料で育てた)大根を物産館に半定期的に出荷しているが、1本100円で販売している。これ、大きさや品質を考えると他の人よりかなり安い感じで、他の人に申し訳ない感じがする。でも私は物産館に頻繁に行って在庫を確認する方ではないし、売れ残るのがイヤなので結局安値販売してしまう。正直言って、物産館の人が「この大根だったら○○円ですね」といって値付けしてくれる方がずっと気が楽だ。
まあこれは程度の低い問題なので、もう少し真面目な話をすると、農家の方で価格交渉しなくてはならなくなると、実際は農家が企業に負ける場合が多いような気がしている。
少し話が大きくなるが、今先進国では食料品市場において小売りの統合が進んできて、米国だったらウォルマートみたいな大きいチェーン店が非常に大きな力を持ってきている。米国の食料品小売市場はウォルマート、クローガー、アルバートソンズ、セイフウェイ、コストコ、アーホルドの6社で市場の半分を占めるという(※)。青果に限ればこの割合はかなり減ると思われるが、米国においてこうした巨大企業が仕入れる食料品の量は莫大で、農産物にももの凄い価格交渉力がある。
日本では、例えばイオンに野菜を個人(または法人)で卸すというとなんとなく先進的な農家、という感じがするし、農協を通すのと違って価格交渉ができるのが魅力だろう。でも米国のように小売りの力が大きくなると、それはほとんど巨大企業の言うなりの価格になっていき、農家の方にはほとんど価格決定権がなくなってしまう。
これはヨーロッパの方でも事情が似ていて、EUの小売りはたった15のグループに牛耳られていて、食品に関して言えばほとんどが110の小売業者の買付窓口を通じて購入されていると推定されている。生産者(団体)の方は何千何万といるのに、小売りの方はたった100程度しかいないのである。これでは生産者の価格交渉力はほとんど存在せず、小売りの言いなりになるしかない。
こうしたことから、EUでは農協の巨大化によって生産者グループも小売りに匹敵する交渉力をつけようとする趨勢があり、日本で言えば県レベルの経済連的な活動が活発になってきている。日本では農協は遅れたものと見なされて、農家の個人販売が持てはやされている時に、ヨーロッパの方では農協が見直されているというのがとても面白い対比である。
ともかく、一見価格交渉の余地が大きく見える農産物の個人販売だが、生産者に比べると小売りの方がどうしても巨大であるために、実際には生産者にはそれほど自由度はないようだ。今の日本の流通システムでは、高品質なものを安定生産している農家、つまり優秀な農家にとっては、農協を通すよりも独自に販路を開拓して自分で価格を決める方が利益が大きいのは間違いないとしても、ごく普通の農家にとっては、単に需給に応じて決まる価格の方が好ましいと言える。
そもそも、価格は「自分で決める」ものというよりは、究極的には需給で決まるものであるから、農産物のようなコモディティ商品の場合、市場が効率的に働いて、需給で決まる価格が信頼できるものとなるようにしていくことが大切なことだと思う。
つまり、「価格を自分で決められるのがよい」と発言している農家の場合、その生産物が過小評価されているという思いがあるわけだから、品質をしっかりと評価できる市場を作っていくことが重要なことではないだろうか。これは優秀な農家だけでなく、普通の農家にとっても恩恵のあることだ。
でも全ての農産物に対して、それに適切な市場が用意できるかというとそんなのは無理な話である。私が作るほんの少しの大根やポンカンのためには市場はできていない。こういう零細な商売の場合、やっぱり、自分で何らかの価格を決めて販売していくしかないのである。商才のない私には本当に難しいことだ。
というわけで、話がだいぶ逸れてしまったが、「無農薬・無化学肥料のポンカン」、安値にて販売中なのでよろしくお願いします!
→ご購入はこちらにて。
【南薩の田舎暮らし】無農薬・無化学肥料のポンカン
※参考文献『食の終焉』2012年、ポール・ロバーツ著、神保哲生 訳
なして吾がで価格決めんと?
返信削除(長くなるけど、ごめんなさい)
吾がで作ったモン(物)をなして吾がで値付け出来んと?
無農薬・無化学肥料っちゅう素晴らしい作品を持ちながら
周りよっかい安値?勿体無い限り!
俺のは誰のモンよっかい美味いんだ!
見栄え悪いけど、薬なんか一滴も使っちょらんから誰のモンよっかい
安全なんだ!っちゅう自信有れば、値は付けられるっち。
周りよっかい安売りなんて絶対にせんど。
出荷前にNetやら店頭で現行相場を調べ、2~3割は高値に。
ちゃんと解って貰えて納得して貰える様に小さなシール(70x30㎜)張って、
『薬は使っていません。手作り堆肥だけでの栽培です』と、簡単なアピールは
するけど(サントリー等の誇大広告に比べたら赤ちゃんみたいなもの)。
何よっかい、自分の野菜をブランドにする事。
“コリンキーふぁーむ”のシール付いた野菜はチョコ~っち高いけど、
美味いよね~!っち言わせしめる事。
『お客が“コリンキーふぁーむ”の野菜欲しいって言ってる。
内にも持って来て!』って、いつだったかヤオコー別店の担当者が
言って来たもんね。
普段、店頭価格よっかい安く出したなんて一回も無かど。
レストランへの直売も高値設定。
その代わりに注文数量の1割以上は常に多く収穫、オマケするけど。
需要が無かったら自分で作る。
数年前にコリンキーを初めて売り始めた時は、誰も知らない!
食べた事無い!だったけど試食を作り、簡単なレシピを表示したり。
色とりどりのイタリアンサニーレタスをパック詰めした時は店頭に立って、試食の
葉っぱをその場で生で食べて貰ったり。
周りと同じ白い大根作って98で売るなんて絶対しないよ。
種子は少々高くても赤い大根、紫の人参作って198で売る。
商才が無か!なんち、へこたれるなかれ。
本物さえ作れば、ちゃんと評価して貰えるよ。
普通の農家に成るつもりやっと?
小粒でん山椒にならなきゃ!
http://www.geocities.jp/ookoba3832/
つよしさん、激励の言葉ありがとうございます! 有り難いです。
削除共感するところばかりなのですが、やっぱり商才がないのか、不思議と安売りしたい自分もいるんですよね。というのは、例えば有機農業の集まりなんかにいくと、「子どもたちに安心して食べさせられるものを」とか理念は立派なのに、販売になると「良さを理解してもらって高値で売ろう」とかいう話になって、なんか違うんじゃないかなと思ってしまいます。単に金持ちを相手にするような感じで…。普通の多くの子どもたちのことを考えたら、やっぱり野菜は安くあって欲しいし、今後有機農業を広めたいなら、普通の野菜より手に入りやすいくらいであるべきじゃないかと…。もちろん青臭い理想論であることは理解していますが…。
そして、自分でもまだ考えが固まっていないので上手く書けないのですが、私が「やり手の農家」を目指していないことは確かですね。どちらかというと「普通の農家」を目指しているのかもしれません。「普通の農家が普通にやって、普通に暮らしていける地域」をつくるのが目標かもしれません。経営能力の高い方は、どんなところでもちゃんとやっていけますもんね。それより、普通の農家と一緒になって、「普通」でどこまでいけるのかに興味があります。それとも、今の農業は「普通」じゃやっていけないところまで来てるんですかね…。もちろん普通じゃない野菜を作って需要を創出するということは素晴らしいことだと思うんですけど。
結局、自分の中で「農業のあるべき姿」がちゃんとないから信念がある値付けができないんだと思います。シンプルに考えると、「農業のあるべき姿」はみんなに必要な食料をできるだけ安くで提供する、しかも環境に配慮して、ということだと思うので、堂々と有機農産物を安売りしたらいいと思うんですが、いざ自分の生活とか考えると「やっぱりできるだけ高い方がいいしなー」という欲もあるし、そのあたりの軸が定まっていないわけですね。
だから近所に有機農業でつくったポンカンを私の倍の価格で販売している人がいて、羨ましいなーと思う半面、「ポンカンくらい気軽に買える値段であってほしいよな」と思う自分もいるわけです。要するに、「自分の経営」に徹しきれない自分がいるんですよね。でも一方でそういう感覚も大事かなーと思ったり。1000円で売れるものを500円で売ったら「お前はバカか」と言われるのが当然と思う一方で、1000円じゃ買えなかった人に届けているという意味では素晴らしいこととも言えますし…。
というわけで自分でも何を言いたいのかよくわかりませんが、高値で販売できるように工夫していこうという気持ちはもちろんありながら、その方向でいったら悪い意味で「普通の農家」になるような気もして、とりあえず今のところは販売については深く考えないでおこうと思っています。
でも激励の言葉は本当に感謝です! 自分の製品に自信が持てるように頑張っていきますね!