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2014年7月31日木曜日

鹿児島の甘口醤油再考

先日、醤油の記事を書いた。そこで、鹿児島の甘い醤油の甘さは人工甘味料に由来するものだという説明をした。

自分では人工甘味料をさほど悪く思っていないので書いた時は気づかなかったが、記事を読んで「鹿児島の甘い醤油ってあまりよいものではなかったの?」と思った人もいたかもしれない。食に関しては、「人工」とつくとそれだけでマイナスのイメージがついてまわるものである。

また、鹿児島の醤油についてはもう少し調べてみたいこともある。そんなわけで、鹿児島の甘口醤油の人工甘味料について改めて考えてみることにしよう。

さて、唐突に話題が変わるようだが、皆さんは普段どんなキムチを食べるだろうか? スーパーで売っているのはほとんど「甘辛キムチ」だし、人気のある「牛角キムチ」(写真は牛角のサイトから借用しました)とか「ご飯がススム」なんかも甘辛なので、たぶんほとんどの人は甘辛キムチを食べていると思う。

でも、キムチは元々甘くないものだ。味の主体は唐辛子の辛さと塩分であって、発酵に由来する甘み・旨味の成分はわずかなアクセントであるにすぎない。しかし日本人には本場のキムチは辛いだけで箸が進まないため、日本ではキムチを甘口にするという工夫がなされた。というわけで、本来はかなり辛い・鹹い(しおからい)キムチを甘口にしようとすると、当然ながら大量の砂糖が必要になる。漬け汁の主成分は砂糖になってしまい、砂糖まみれの漬物という、本来のキムチとはかなりかけ離れたものになる(でもそういうものも売っています)。

では、「牛角キムチ」とか「ご飯がススム」はどうしているかというと、砂糖は入っておらず、人工甘味料が使われているのである。確か、これらはアセスルファムカリウムが使われていたと思う。これは砂糖の200倍の甘さがあり、カロリーはない。キムチにごく微量添加するだけで甘口キムチができ、カロリーも増やさないのである。

人工甘味料それ自体が健康的かどうかはさておき、砂糖を節約できるという点では間違いなく健康的である。そもそも、現代人は甘みに慣れすぎていて、甘みに対して相当鈍感になっている。食品を甘口にする場合、相当な砂糖を入れないと、十分に甘いと感じないのである。だから、必然的に砂糖摂りすぎの危険性ある。人工甘味料の存在意義は、そこにある。

人工甘味料は、元々は高価な砂糖を代用するために開発されたが、砂糖がコモディティ化して以降は、高機能な(カロリーがないとか)ものが期待されて発展してきた。

その結果、現在では人工甘味料は健康的と認められているものも多く、食べても虫歯にならないキシリトール(※)、カロリーゼロのアセスルファムカリウムなどは有名だろう。弱い発癌性があるとして規制された悪名高い(?)サッカリンも、2010年には米国で全く毒性がないものとされて規制リストから外れ(日本ではまだ規制されている)、むしろ砂糖を節約する健康的なものと考えられはじめている

コーラなんかにはものすごい量の砂糖が入っているから、この甘みの半分でもサッカリンが代用すれば、いくばくか体への負担も軽減されるわけだ。そしてサッカリンにもカロリーはない。

鹿児島の甘い砂糖に使われているのは、このサッカリンなのだが、実は単に砂糖の節約という面ではなくて、味の都合もあるらしい。先日の記事を書いた後で南薩の醤油屋さんである丁子屋の方に教えてもらったのだが、丁子屋ではサッカリンを抜こうと何度か試みたものの、抜くことが難しかったそうだ。

というのも、サッカリンの甘味を砂糖で代用してみると、ヌメっとした甘さになり、甘ったるくなって使い物にならなくなったらしい。他の代用品でもダメだったそうだ。サッカリンは舌にピリッとしたものを感じる独特のコクがあるため、これが鹿児島の醤油の甘味になくてはならないものだと再認識したそうである。

そうしたさまざまな事情を考えてみると、鹿児島の甘口醤油はナショナルブランドの擡頭で現在苦境に立っていると思うが、活路もありそうな気がする。元々鹿児島で甘口醤油が普及したのは、各家庭での砂糖の消費量を節約できたからという私の仮説が正しければ、これは現在の社会でも価値のあることである。甘口の醤油を使うことで料理の際の砂糖は少しであっても減らせるわけだから、ほんの少し健康的なレシピになる。

例えば、「鹿児島の甘口醤油を使って料理の砂糖をスプーン1杯減らしましょう」というようなキャンペーンをしたら、鹿児島の甘口醤油の元々の価値が生きるのではないか。元々は甘みを求める県民の需要に応じて作られた甘口醤油が、今度は健康志向に合致するとしたら面白い。いつかも書いたが、鹿児島は「周回遅れのトップランナー」である。トクホとかカロリーゼロが持てはやされている昨今、既に合成甘味料による「お袋の味」が確立している鹿児島だからこそ、「料理から砂糖を減らす甘口醤油」なんてのを全国に発信するのはどうだろうか。

※キシリトールは天然に存在する物質なので正確には人工甘味料ではないが、微生物による工業的な合成も行われている。

1 件のコメント:

  1. 貴方の脳ならまだ間に合うあなたの情報源さえ変われば「真実」を知ることができるのに、その真実こそこうして記して残していって欲しい。それとも医療関係者ですか?

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