加世田の竹田神社とナフコの間に、「加世田そば」の店がある。ここのお蕎麦がなかなかよい。
加世田そばは、今でこそこういう呼び名だが、元は「長屋(ながや)そば」という。加世田の長屋集落に伝わる蕎麦である。発端は10年くらい前に遡ると思うが、行政が主導した集落の地域興し活動で生まれた「長屋そば部会」が発展し、店を構え、雇用を生んでいるということで、こういう活動の数少ない成功事例でもある。
メニューは、かけそば(420円)、かけそば大盛り(525円)、うどん、ご飯というシンプルなラインナップ。厨房もかなり簡易な感じなので、これが精一杯なのかもしれない。
さて、その長屋そば、特徴はなんといってもダシである。魚介のうまみが豊かで、一見平凡なおそばのツユなのに、どこかいつものそばのツユと違う。
その秘密は、普通はそばやうどんのツユは鰹節と昆布でダシを取ると相場が決まっているが、このツユは鯖(サバ)でダシを取っているのである(※)。長屋では、昔、小湊(こみなと)から運ばれてくる鯖でダシを取ってそばのツユを作ったということで、今でも鰹節ではなく、生鯖節でダシを取っているのである。これは、鰹節のように乾燥した素材ではなく、削って使うのでもない、一般にはあまり使われていないダシの素だと思う。
この、「加世田そば」の店では、ダシを取った後の鯖節を佃煮にして、各テーブルに「ご自由にどうぞ」と置いてある。この鯖の佃煮が大変おいしくて、ダシの副産物とはいえ気前がよい。鹿児島では漬けものが食べ放題の店は多いが、こんなおいしい鯖の佃煮が食べ放題な店は、多分鹿児島でもここだけだろう。
ちなみに、麺の方はと言えば、こちらも伝統的な十割そばで、つなぎの小麦粉などは一切入っていない。そのためにブチブチ切れていて、ツルっと食べるわけにはいかず、味は素朴でおいしいが、私としては食感がイマイチである。それに、小さくちぎれたおそばをドンブリの底からかき集めるのも面倒だ。でも、こういう素朴なそばは、普通の蕎麦屋さんではまず味わうことができないから貴重ではあると思う。
長屋そばは、「加世田そば」の店に行かなくても、吹上浜海浜公園の売店でも食べられる。でもこちらでは、アピールがヘタなのか、そばではなくてみんなうどんを注文しているようだ。このうどんは、地場のものではなくて普通の冷凍うどんを使っている平凡な商品である(だから安いが)。
南さつま市民の間でも、「加世田そば」または「長屋そば」の知名度はまだまだ低いようであるが、一度は味わう価値があるそばだと思う。ちなみに鯖の佃煮はお店では販売もしているので、酒飲みのおつまみに最適だ。ヘタなB級グルメなんかよりずっと美味しいから是非試して欲しい。
※ 鯖以外のツユの材料としては、昆布出汁は入っているが、他に鰯のダシも入っているかもしれない。詳しい配合は不明。
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