こいつは、サツマゴキブリというやつである。家の外に死骸が落ちていた。このあたりで農作業をしていると、見ない日はないというほどよく見かける。
南薩の方では、一般的なゴキブリよりもこのサツマゴキブリをよく見る。サツマゴキブリは、九州南部、四国、南西諸島など暖地にしか棲息しないゴキブリであるが、近年は温暖化の影響か和歌山や静岡にも進出しているという。とはいえ、本州の人はほとんど見たことのないゴキブリであろう。
サツマゴキブリの著しい特徴は、羽が全く退化してしまって存在しないこと。また、生殖方法が特殊で、一度排出した卵鞘を体内のポケット状の器官に引き込んで体内保護し孵化させるということである(※1)。まるで有袋類のようで、いわば、ゴキブリ界のウォンバットである。
人家でも頻繁に見かけるが、もともとが森林に住んでいる種類ということで、一般的なゴキブリよりも素早くなく、攻撃性も低い。ゆったりと歩く姿に「愛らしい!」と感じる奇特な人もいて、ペットとしても飼われる。ネットを見ると、10匹1000円くらいが相場のようだ。「出来損ないの三葉虫みたいで、古代ロマンを感じる」というコメントも見られるが、実際は、羽がある普通のゴキブリの方が古い形態らしい。
また、サツマゴキブリの雌を乾燥させたものは、「䗪虫(シャチュウ※2)」という漢方薬になり、血液凝固抑制剤、すなわち血の巡りをよくする薬である。日本では医薬品としての許可が下りていないらしいが、ネットを検索すると普通に売っている。
ゴキブリは、害虫としては気持ち悪いが、非常に興味深い生物である。体内に特殊な細菌が共生していて、必要とする栄養素が極端に少ない。シロアリ(これは真社会性を獲得したゴキブリのこと)に至っては、多くの生物にとっては栄養にならない木質セルロースだけで生きられるという究極の省エネを成し遂げている。
私は、別にゴキブリは好きではないが、サツマゴキブリをよくみかけるので、俄然この生物に興味が湧いてきた。どうして羽が退化してしまったのか、どうして一度排出した卵鞘を改めて取り込むという特殊な繁殖形態を進化させたのか。気になるので、暇があればちょっと調べてみたい。
※1 これは、いわゆる「卵胎生」ではない。卵胎生は卵を体内で孵化させることであって、一度体外に排出することはないからだ。こんな繁殖方法を採る昆虫はゴキブリ以外にもいるのだろうか?
※2 「庶虫」という表記の方が一般的のようだが、正字は「䗪虫」である。
【3/8 追加】サツマゴキブリの生態および形態が、マダガスカルオオゴキブリと非常に似ていることに気づいた。マダガスカルオオゴキブリとサツマゴキブリの系統関係はどうなっているのだろうか。
大変興味深く読ませていただきました。奄美大島へ行った時に畑のわきの生垣で何匹も日光浴をしていたのを見ました。動きが遅いなら飼ってみたいです。
返信削除コメントありがとうございました。参考になったようでなによりです。飼ってみたら是非感想を教えてくださいね!
削除大変興味深く読ませて頂きました。繁殖方法について報告されている出典元情報がありましたら、併せてご掲載頂けると嬉しく思います。
返信削除コメントありがとうございます。出典というわけではないのですが、繁殖その他についてこちらのサイトがためになりますのでご参考までに。 → http://www.cic-net.co.jp/blog/cat6/cat46/
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